問題社員

問題社員の配置転換|適切な判断基準とリスク回避のポイント

動画解説

 

配置転換が必要とされる問題社員の典型的な特徴

 企業の組織運営において、社員一人ひとりが与えられた役割を果たすことは非常に重要ですが、中にはその職務に適応できない、いわゆる「問題社員(一般にモンスター社員とも言われている。)」の存在が、組織全体の生産性や雰囲気に悪影響を与えるケースもあります。こうした社員に対しては、指導や研修を重ねることで改善を図るのが原則ですが、それでも改善が見られない場合には、配置転換が有効な対応策となります。ここでは、配置転換の必要性を検討すべき典型的な問題社員の特徴について、主に三つの視点から解説します。

 第一に、業務遂行能力に著しい問題があるケースです。例えば、研修やOJTを受けているにもかかわらず業務の習得が極端に遅く、周囲の指導が繰り返されても改善が見られない場合、能力面でのミスマッチが疑われます。営業職など、対人スキルが求められる業務において顧客対応が著しく不得手であると、会社の信用にも関わります。また、業務ミスが頻発し、その都度上司や同僚がフォローに追われている場合や、納期遅れや品質不良が生じ、取引先からのクレームが相次いでいるような場合も、現職に適応できていないと判断されることがあります。

 次に、協調性の欠如や社内の人間関係に深刻な影響を及ぼしているケースです。上司の指示に従わず、独自のやり方に固執する社員や、同僚とのトラブルが絶えず、チーム全体の連携を阻害している社員も配置転換の対象となり得ます。また、社内外の関係者に対して横柄な態度を取り、クレームの原因となっている場合や、業務に対して非協力的な姿勢を取り続け、チームの生産性に悪影響を及ぼしている場合も、早急な対応が求められます。特に、指摘やフィードバックに耳を貸さず、改善の意欲を一切見せない場合、職場全体の雰囲気に悪影響を与えるリスクが高まります。

 さらに、勤務態度に継続的な問題が見られる社員についても注意が必要です。具体的には、遅刻や無断欠勤が頻発し、業務の進行に支障をきたしているケースや、業務時間中に私語やサボりが目立ち、職務に対する真剣さが見受けられない社員です。このような態度が継続すると、職場内に悪影響が波及し、他の社員のモチベーションにも悪い影響を与えかねません。また、上司や同僚に対して攻撃的な態度をとる社員は、職場の秩序を乱す存在として重大な懸念材料となります。

 こうした特徴を持つ社員が職場に存在し、問題が長期化すると、組織の生産性は大きく損なわれると同時に、他の社員の士気にも悪影響を与えることになります。したがって、指導や研修などの改善策を講じた上で、それでも改善が見込めない場合には、配置転換の実施が現実的な選択肢となります。

配置転換を正当化するための判断基準とは

 問題社員に対する配置転換は、企業側にとって職場環境の再構築を図る有効な手段ですが、一方で不適切な運用を行うと、社員からの反発や法的トラブルを招くリスクもあります。そこで重要になるのが、配置転換を正当化するための明確な判断基準を設け、それに則って適切なプロセスを踏むことです。

 まず確認すべきは、就業規則や労働契約に配置転換の可能性が明記されているかどうかです。たとえば、「業務の都合により勤務地や職務内容を変更する場合がある」といった条文が存在する場合、それに基づいて配置転換を実施することは法的にも正当とされやすくなります。逆に、こうした記載がまったくない場合には、配置転換が労働条件の不利益変更とみなされ、無効と判断される可能性があります。

 次に重要なのが、配置転換の「合理的な理由」があるかどうかです。単に「扱いづらい社員だから」「職場の雰囲気を壊すから」といった主観的な理由では、不当な人事異動と見なされる恐れがあります。たとえば、会社全体の業務効率を改善するために必要であるという「業務上の必要性」があることや、現職では十分に能力を発揮できていないものの、他部署であれば能力を生かせるという「社員の適性に基づいた判断」であること、さらに会社の過去の運用実績やルールに沿った異動であることが示されていれば、配置転換は正当とされやすくなります。

 また、配置転換後の業務内容についても十分な配慮が求められます。社員にとって著しく不利益な業務内容であった場合、配置転換が「懲罰的」であると受け取られ、労働紛争に発展するリスクがあります。たとえば、極端にレベルの低い業務や、社内で「左遷」と捉えられるような部署への異動は慎重に判断すべきです。企業としては、配置転換が経営上の合理的判断であることを文書や面談などを通じて明確に社員に説明し、納得を得る努力をすることが求められます。

配置転換を行う際の実務的な進め方

 問題社員に対する配置転換を円滑に進めるためには、単に人事命令を出すだけでなく、段階的に配慮された手続きを踏むことが重要です。配置転換が後にトラブルの火種とならないよう、以下のような実務的ステップを踏むことが望まれます。

 まずは、配置転換の必要性を客観的に明確にすることが第一歩です。なぜその社員に対して異動が必要なのか、異動以外の選択肢(注意指導、研修、懲戒処分など)では解決できなかった理由は何かを整理し、配置転換が最適な解決策であると判断される経緯を社内で共有します。

 次に、異動先の環境整備が欠かせません。問題社員を受け入れる部署の上司や同僚に対しては、事前に異動の目的や状況を丁寧に説明し、理解と協力を得ておく必要があります。その上で、異動先では問題社員の適性に応じた業務を割り当て、必要に応じて適切な指導が行える管理職を配置することで、スムーズな業務適応を促すことができます。また、他の社員への影響を最小限に抑えるためにも、事前に全体への説明やフォローが求められます。

 異動に際しては、本人への説明も重要なプロセスです。面談などを通じて、異動の目的や会社として期待する役割を丁寧に伝えることで、本人の納得感を高めることができます。一方的な命令ではなく、対話を重ねることで不満や反発を抑えることが可能になります。

 さらに、配置転換は一度行えば終わりというわけではありません。異動後のフォローアップを継続的に行い、業務への適応状況や職場の変化を把握することが大切です。必要に応じて追加の研修や面談を実施し、状況の改善を促すことが、配置転換の成功につながります。

法的リスクを避けるために必要な配慮

 問題社員の配置転換は、企業にとって職場の健全化を図る有効な手段である一方で、実施の方法によっては法的なトラブルに発展するリスクも伴います。特に、社員側が配置転換に納得していない場合や、企業側の手続きに不備があった場合には、不当な人事異動として裁判や労働審判に発展する可能性があるため、慎重な対応が求められます。

 まず重要なのは、就業規則や労働契約において配置転換が可能であることを明示しておくことです。これにより、会社としての措置が就業上のルールに基づいた正当なものであることを説明しやすくなります。また、配置転換の対象者に対しては、書面や面談を通じて異動の理由や背景、今後の期待される役割などを丁寧に説明し、納得を得る努力が必要です。単なる一方的な命令ではなく、業務上の必要性や本人の適性に基づいた配置であることを明確に示すことが、法的リスクを低減させる鍵となります。

 さらに、配置転換後の業務があまりにも本人にとって不利益である場合、それが「懲罰的な異動」と判断される可能性があります。たとえば、業務内容が極端に単純で能力を活かせないものであったり、社内で「左遷」と認識されている部署であった場合には、その異動が適正であると説明することは困難になります。こうした事態を避けるためにも、業務内容や異動先の状況については慎重に検討を行い、社員のキャリアや能力との整合性を保った配置を心がけることが重要です。

 また、過去の異動事例との整合性を保つことも忘れてはなりません。特定の社員だけが不利益な取り扱いを受けているように見える場合、差別的処遇として問題視されるおそれがあります。そのため、過去の異動記録や基準と照らし合わせながら、客観的かつ公平な判断を下す必要があります。

問題社員対応を通じて職場環境を改善するために

 問題社員の対応は、単なる個別の人事課題にとどまらず、組織全体の生産性や風土に直結する重要なテーマです。適切な配置転換を通じて、本人の能力がより発揮できる場を提供すると同時に、他の社員に対しても公正な職場運営を示すことができれば、職場全体の士気向上にもつながります。

 逆に、問題社員の放置は、周囲の社員にとって不満や不信感の原因となり、離職やパフォーマンス低下を招く恐れがあります。企業が組織の秩序と効率性を維持するためには、問題のある社員に対しても適切な対応を取り、必要に応じて配置転換を活用する姿勢が求められます。

 ただし、対応にあたっては必ずしも「厳しく接する」ことだけが正解ではありません。本人の能力や性格に合った環境を整え、再スタートの機会を提供するという視点を持つことが、結果としてトラブルの防止と職場全体の安定につながるのです。

問題社員の配置転換でお悩みの方へ

 四谷麹町法律事務所では、問題社員への対応に関して、個別の注意指導の仕方や、懲戒処分の進め方、社員への対応方法について具体的なサポートを行っています。さらに、状況によっては企業側代理人として、問題社員や、相手の代理人弁護士との交渉も行っています。

 訴訟や労働審判になる前の段階から適切な対応を行うことで、企業側の負担を軽減し、トラブルの早期解決が可能となります。問題社員の対応でお悩みの際は、会社側専門の経験豊富な四谷麹町法律事務所にぜひご相談ください。

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