人事異動

前例のない人事異動を実施する際の注意点|法的リスクと対策を解説

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 中小企業においては、大企業のように頻繁に人事異動が行われるケースが少なく、従業員が長年同じ部署や勤務地で働き続けていることも珍しくありません。そのため、経営側が異動を命じた際に、従業員から反発が生じることも多く、場合によってはトラブルへと発展することもあります。

 企業経営において、人事異動は従業員の適正配置や業務効率の向上、組織の活性化を目的として行われる重要な施策の一つです。しかし、これまでほとんど実施されたことがない、あるいは過去に一度も行われていないタイプの人事異動を実施する際には、従業員の納得を得ることが難しく、法的リスクを伴う可能性が高くなります。

 本記事では、前例のない人事異動を適切に実施するための法的・実務的な注意点について詳しく解説します。

人事異動の権限を確認する

 最初に確認すべき点は、会社に人事異動を命じる権限があるかどうかです。大企業では、転勤や部署変更が一般的に行われており、就業規則に基づいて異動命令を発令することが可能ですが、中小企業では頻繁に行われていないため、そもそも会社にその権限があるのかが問題となることがあります。

 一般的に、正社員であれば転勤や担当業務の変更、部署の異動が就業規則で定められていることが多いため、企業側に一定の裁量権が認められます。しかし、以下のようなケースでは、異動命令の有効性が否定される可能性があります。

  • 入社時に「転勤はない」と説明していた場合
  • 「特定の業務のみ担当する」と合意していた場合
  • 労働条件通知書に勤務地の変更範囲が明記されていない場合

 労働契約法では、就業規則よりも労働者に有利な個別の合意が優先されるとされています。そのため、過去の説明や契約内容を十分に確認することが重要です。

 また、近年では労働条件明示のルールが厳格化され、勤務地や担当業務の変更の可能性について明確に記載することが求められています。もし記載がない場合、従業員が「勤務地の変更はないと認識していた」と主張する可能性が高くなります。

人事異動の必要性を明確にする

 人事異動を法的に有効なものとするためには、その必要性を客観的に説明できることが不可欠です。特に、これまでほとんど行われたことがない異動の場合、従業員や外部からの疑問や反発を避けるために、「なぜこのタイミングで異動を行うのか」を明確にする必要があります。

 異動の必要性を説明する際には、以下のポイントを整理しておくとよいでしょう。

  • 経営上の必要性:人員配置の最適化や業務の効率化のため
  • 従業員のスキル向上:幹部候補としての育成目的
  • 事業の拡大・縮小への対応:新規事業の立ち上げや業績不振部門の統合
  • 業務バランスの調整:特定部署の人手不足や過剰配置の是正

 これらの理由を事前に整理し、合理的な説明ができるようにしておくことで、裁判になった場合でも正当性を主張しやすくなります。

不当な動機・目的がないことを証明する

 異動を命じる際、「従業員を辞めさせる目的ではないか」「経営者の個人的な感情が関与しているのではないか」と疑われることがないようにすることも重要です。特に、問題社員(一般にモンスター社員とも言われている。)に対する人事異動では、不当な動機があると主張されるケースが多いため、慎重に対応する必要があります。

 不当な動機とみなされないためには、異動の理由を明確にし、異動対象者だけでなく他の従業員にも同様の異動があることを示すなど、客観的な証拠を整えることが有効です。

従業員への不利益を最小限に抑える

 人事異動が無効と判断されるケースの多くは、「通常甘受すべき範囲を超える不利益」があると認定された場合です。たとえば、以下のようなケースでは、異動の正当性が否定される可能性があります。

  • 勤務地が極端に遠くなる(通勤時間が大幅に増える)
  • 給与が下がる
  • 業務内容が大きく変わり、従業員のキャリア形成に悪影響を及ぼす
  • 精神的・肉体的負担が増す

 このような事態を避けるためには、異動前に従業員と十分に話し合い、可能な限り不利益を軽減する工夫が求められます。たとえば、異動に伴う手当の支給や、一定期間後の異動先の見直しなどの措置を検討するとよいでしょう。

まとめ

 前例のない人事異動を行う際は、以下の点に注意する必要があります。

  1. 異動の権限があるか確認する
  2. 異動の必要性を明確にする
  3. 不当な動機・目的がないことを証明する
  4. 従業員の不利益を最小限に抑える
  5. 従業員への説明を丁寧に行う

 四谷麹町法律事務所では、人事異動に関する法的リスクの分析や、具体的な対応方法についてサポートを行っています。異動命令の有効性について不安がある場合は、ぜひご相談ください。

 労働問題は、訴訟や労働審判になる前の段階から適切な対応を行うことで、企業側の負担を軽減し、トラブルの早期解決が可能となります。人事異動に関する問題でお悩みの際は、会社側専門の経験豊富な四谷麹町法律事務所にぜひご相談ください。

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