問題社員

有効な懲戒解雇時の退職金不支給・減額の考え方と法的リスク

動画解説

 

はじめに

 会社で問題社員(一般にモンスター社員とも言われている。)に対し、懲戒解雇を行う場面では、「退職金を払うべきか?」という問題に直面します。特に、会社の就業規則などで懲戒解雇時に退職金を不支給、または減額できる旨を定めている企業にとっては、「ルール通り処理すれば問題ないのでは」と思われがちです。

 しかし、過去の裁判例を見てみると、懲戒解雇が有効と認定されたケースであっても、退職金の全額不支給や大幅な減額が認められないことがあります。この記事では、懲戒解雇時の退職金の取扱いに関する実務上の注意点と、法的リスクを抑えるための対応について解説します。

懲戒解雇=退職金ゼロとは限らない

 多くの企業では、懲戒解雇に該当する事由がある場合、退職金を支払わない、もしくは減額できるという規定を就業規則や退職金規程に設けています。しかし、裁判所はそのような規定があっても、全額不支給や大幅な減額を簡単には認めていません。

 過去の裁判例では、懲戒解雇が有効と判断されたにもかかわらず、退職金の3割、4割、5割といった一定割合の支払いを命じる判決も見られます。この背景には、退職金に「功労報償的性格」だけでなく、「賃金の後払い的性格」や「生活保障的性格」が含まれているとする法的考え方があります。

退職金の法的性質と裁判所の判断基準

 裁判所は、退職金を「過去の勤務に対する報奨」だけでなく、「毎月の給与の一部を後で支払うもの(後払い賃金)」や「退職後の生活を支えるための生活保障」として位置づけています。そのため、たとえ懲戒解雇が有効と判断された場合でも、退職金の不支給や大幅な減額は、労働者の権利を過度に制限するものとして抑制的な判断がなされる傾向にあります。

 特に下級審では、懲戒解雇の有効性とは別に、退職金の全部不支給は行き過ぎであるとして、一定の割合の支払いを命じる事例が多く見られます。最高裁判所も地方公務員の退職手当減額に関する判断で、「退職者の勤続功労を抹消するほどの重大な非違行為がある場合でなければ、不支給や大幅な減額は認められない」とする基準を示しており、これは民間企業にも広く適用されています。

社内規程の整備と運用が重要

 こうした裁判所の姿勢を踏まえると、企業が懲戒解雇に伴って退職金を不支給または減額する場合は、まず自社の退職金規程や就業規則を見直し、明確な定めを置くことが重要です。例えば、「懲戒解雇に該当する事由がある場合は、退職金を全額不支給または一部減額することがある」といった文言を明記しておく必要があります。

 また、減額という選択肢も規程に含めておくことで、事案ごとに柔軟な対応がしやすくなります。

 とはいえ、規程を整備すれば必ずしも不支給や減額が認められるわけではありません。実際の裁判では、退職者の勤続年数、業績への貢献度、非違行為の内容と程度、その他の事情を総合的に考慮して判断されるため、実務上の判断は非常に難しいものとなります。

裁量による支給額の決定とリスク

 企業としては、あまりに軽率に退職金を全額不支給とすると、後に裁判で争われた際に敗訴リスクを負うことになります。かといって、全ての事案で「とりあえず3割払っておこう」といった一律の対応では、モラルハザードを招いたり、他の社員との公平感を損ねたりする可能性があります。

 特に問題社員(一般にモンスター社員とも言われている。)への対応においては、「重大な非違行為があったから解雇は当然だ」という考えだけで退職金を全額カットすることは慎重に判断すべきです。実際には、退職金の不支給や減額を裁判で有効とされるには、「退職者の功労を帳消しにするに足る重大な事由」が必要とされているからです。

 つまり、「会社のルールに従ったから問題ない」と思い込むのは危険であり、事案ごとに退職金の支給・減額の妥当性を検討する必要があります。

総合的判断が求められる場面では弁護士に相談を

 裁判所が退職金の取扱いを判断する際には、「非違行為の内容・程度」「勤続年数」「企業への貢献度」など複数の事情を総合的に勘案します。このように、明確なマニュアルが存在しない中で判断を誤れば、法的リスクを抱えることになります。

 経営者としては、本業である事業運営に注力すべきであり、こうした複雑な法的判断は、労働問題を日常的に扱っている弁護士に相談することが現実的かつ効率的です。

 四谷麹町法律事務所では、問題社員への対応に関して、個別の注意指導の仕方や、懲戒処分の進め方、社員への対応方法について具体的なサポートを行っています。さらに、状況によっては企業側代理人として、問題社員や、相手の代理人弁護士との交渉も行っています。

 訴訟や労働審判になる前の段階から適切な対応を行うことで、企業側の負担を軽減し、トラブルの早期解決が可能となります。問題社員の対応でお悩みの際は、会社側専門の経験豊富な四谷麹町法律事務所にぜひご相談ください。

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