解雇

異動命令を拒否する社員を解雇できるのか?企業が取るべき対応を解説

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はじめに

 社員に転勤や配置転換を命じたところ、「応じられません」「納得できません」と拒否された――。このような状況に直面した企業からは、「このままでは組織が機能しない」「異動を拒否する社員を解雇できないか」といったご相談が多く寄せられます。とくに中小企業では、柔軟な人員配置が経営にとって非常に重要であり、異動を拒否されることは大きな打撃となり得ます。この記事では、「異動 拒否 解雇」というキーワードに基づき、社員が異動命令を拒否した場合に企業が取るべき対応や、解雇に至る際の注意点を、会社側弁護士の視点から詳しく解説します。

「異動命令」は出していますか?拒否に対応する前に確認すべき基本

 異動を拒否された場合、まず確認すべきなのは「正式な異動命令を出しているかどうか」です。実際に経営者や人事担当者から「異動を断られたので解雇したい」と相談を受ける際、命令そのものが形式的に発せられていないケースが見受けられます。たとえば、口頭で軽く打診しただけ、あるいは面談で希望を聞いた結果「嫌です」と返答された程度であれば、法的には「命令」とは言えません。こうした場合には「命令違反による解雇」は成立しません。異動命令に法的効力を持たせるためには、メールや書面など記録に残る形で「業務命令」として発出しておく必要があります。

解雇できるのは「有効な命令」に従わなかった場合のみ

 次に確認すべきは、その異動命令が法的に有効とされるものであるかどうかです。命令が無効であれば、それに基づく解雇も当然無効と判断されます。有効とされるためには、まず就業規則や雇用契約に異動に関する規定があるか、そして命令の内容がその範囲内にあるかが問われます。さらに、業務上の必要性が客観的に認められ、社員に対して過度の不利益がなく、懲罰的・嫌がらせ的な意図がないことが重要です。これらの条件を満たして初めて、異動命令は有効とされ、その命令に従わなかったことを理由に解雇できる可能性が生じます。

命令拒否=即解雇ではない:「説得のプロセス」が裁判で問われる

 仮に有効な異動命令を出していたとしても、社員がこれに従わなかったからといって、直ちに解雇するのは適切とは言えません。実際の裁判例では、「解雇は最終手段」であるという考え方が一般的であり、十分な説得の機会を設けずに解雇に踏み切った場合、その有効性が否定されるリスクが高くなります。企業としては、社員が納得するように粘り強く対応する姿勢が求められます。

説得期間の目安:最低2週間、できれば1カ月以上

 説得のために要する期間については、最低でも2週間、可能であれば1カ月以上の丁寧な対応が望ましいとされています。この間、異動の必要性や内容、勤務地、給与、将来的な見通しなどについて、社員に丁寧に説明し、納得を得る努力を続けることが重要です。なお、ノーワーク・ノーペイの原則が採用されている企業であれば、説得期間中の給与負担は抑えられ、より慎重な対応が可能になります。

解雇の前に押さえるべき5つのポイント

 異動拒否を理由に解雇を検討する場合、次の5つの点について順に確認しておくことが必要です。第一に、異動命令が正式に出されていること。第二に、その命令が就業規則などの社内ルールに基づいていること。第三に、命令に業務上の合理性があること。第四に、社員に対して過度の不利益を与えていないこと。そして第五に、誠意ある説得を行ってもなお社員が命令に従わない状況であること。これらのプロセスを丁寧に踏んでおけば、仮に労働審判や訴訟に発展した場合でも、企業側に有利な判断を得られる可能性が高まります。

「働きながら争う」社員にどう対応すべきか?

 なかには、「命令には従って勤務地に赴くが、その有効性には納得できない。裁判で争う」と主張する社員もいます。しかしこのような場合、実際に命令に従って業務を遂行している限り、解雇や懲戒処分の対象にはなりません。会社に実害が生じていない以上、意見表明のみを理由に制裁を加えることはできません。会社としては命令を維持しつつ、社員の法的主張には冷静かつ淡々と対応することが求められます。

命令が「不当」とされるリスクを避けるには?

 社員が異動命令を拒否する背景には、「この命令には不当な目的があるのではないか」という疑念が存在することもあります。たとえば、嫌がらせ的な意図が明らかな異動、通勤が著しく困難な地域への転勤、特定の社員だけを狙い撃ちにした配置変更、合理性のない説明や急すぎるスケジュールなどがあると、命令の有効性そのものが疑問視されます。こうしたリスクを避けるためには、異動の必要性やその背景を客観的に説明し、書面にて記録を残しておくことが不可欠です。

解雇を選ぶタイミングと実務的な対応

 やむを得ず解雇の決断に至った場合には、実務的な対応としていくつかの準備が求められます。異動命令書や社員とのやり取りを記録したメールなど、関係資料をきちんと保存し、説明や説得に要した期間の記録も残しておきます。解雇通知書には、「命令違反に基づく解雇」である旨を明確に記載します。場合によっては、退職勧奨の可能性も検討するべきでしょう。また、就業規則に「異動命令への違反は懲戒解雇事由に該当する」旨の定めがあると、手続きがより円滑に進みます。

判断に迷ったら、早めの弁護士相談を

 異動命令を拒否する社員への対応は、経営判断としても非常に難しい問題です。とくに「態度が悪く協力しない社員」や「問題社員(一般にモンスター社員とも言われている。)」に関する場合、感情的な判断に走ることで状況がさらに悪化する恐れがあります。「異動命令を出すべきかどうか」「説得をどこまで続けるべきか」「解雇通知書にどう記載すべきか」など、判断に迷う場合には、企業法務に詳しい弁護士に早めに相談し、対応方針を整理するのが最善策です。

ご相談のご案内:異動拒否問題の適切な対応をサポート

 四谷麹町法律事務所では、異動や転勤命令を拒否する社員への対応について、命令の出し方や記録の整備、解雇リスクの分析など、総合的なアドバイスをご提供しています。必要に応じて、労働審判や訴訟対応、社員との交渉も全面的にサポートいたします。「異動 拒否 解雇」に関してお悩みの経営者・人事担当者の皆さまは、ぜひ一度ご相談ください。

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