私生活で刑事事件を起こした社員を懲戒処分する際の注意点

目次
動画解説
はじめに
「社員がプライベートで飲酒運転をして逮捕された」「休日に痴漢行為を行ったと報道された」「暴行事件を起こして書類送検された」――このような相談が、私たち四谷麹町法律事務所には定期的に寄せられています。社員が私生活で刑事事件を起こした場合、企業として懲戒処分や解雇が可能なのかは非常にセンシティブな問題です。一歩対応を誤れば、不当解雇や懲戒無効とされ、企業が不利な立場に追い込まれるリスクもあります。この記事では、「刑事事件 懲戒処分 解雇」のキーワードに基づき、社員の私生活上の不祥事に対する企業の適切な対応方法を、会社側弁護士の視点から解説します。
私生活上の刑事事件でも懲戒処分は可能なのか?
まず前提として、社員の私生活は本来自由であり、企業が干渉すべき領域ではありません。したがって、私生活で起こした行為を理由に懲戒処分を検討する場合には、業務時間中の不祥事よりも慎重な判断が必要です。ただし、刑事事件のように社会的に重大な行為である場合は、私生活上のものであっても、懲戒処分や解雇が認められる可能性があります。これは、社員の行動が企業の社会的信用や名誉に深刻な影響を及ぼす場合があるからです。
懲戒処分が有効になるための3つの要件
私生活における刑事事件に対して懲戒処分を行うには、まず第一に就業規則に懲戒事由と処分内容が明文化されている必要があります。たとえば「私生活における著しく反社会的な行為」「会社の名誉や信用を著しく傷つける行為」といった規定があるかどうかを確認することが求められます。次に、当該行為が実際に就業規則に定められた懲戒事由に該当するかを慎重に判断しなければなりません。ただ単に「刑事事件を起こしたから」という理由だけでは、機械的な対応と見なされ、懲戒処分が無効とされるリスクがあります。さらに、処分の内容が社会通念上相当と認められることも不可欠です。企業が「自社にとっては影響が大きい」と判断したとしても、第三者の視点で見て「処分が過剰である」と評価されれば、懲戒処分は無効となりかねません。企業の規模や業種、社員の職務内容などを総合的に勘案し、社会的に妥当な判断を下す必要があります。
実務で考慮すべき事情:判例から学ぶ懲戒の有効性
昭和49年の最高裁判例「日本交通公社事件」では、懲戒処分の妥当性について、行為の性質や態様、社会的影響の重大性、会社の業種や社会的性格、社員の職位・責任範囲、さらには他の社員への影響(秩序維持)といった点を総合的に考慮すべきと示されました。これを実務に落とし込むと、個別の事案ごとに慎重な検討が求められることが分かります。
ケーススタディ:刑事事件ごとの懲戒可能性
たとえば、飲酒運転を起こした場合には、運送業や営業職など車両の運転が業務に関わる職種では、私生活での飲酒運転であっても懲戒処分が認められることが多く、重い処分が正当化されやすいといえます。特に人身事故を伴う場合などは、懲戒解雇が妥当と判断される可能性も高くなります。痴漢行為などの性犯罪については、鉄道会社や接客業など社会的信頼が求められる業種では、イメージへの打撃が大きく、逮捕報道が出た場合などには懲戒解雇も現実的な選択肢となります。暴行や傷害事件の場合は、社員の職位が重要な判断材料となり、特に管理職の立場にある社員が関与していた場合は、より厳しい処分が正当化されやすい傾向にあります。たとえば部長職の社員が深夜の飲食店で喧嘩を起こして傷害事件に発展したケースでは、報道の有無や被害者の存在によっては、降格や出勤停止といった重い処分が検討されることになります。
同じ行為でも地位・立場で処分の重さが変わる
同じ刑事事件でも、社員の地位や役職によって懲戒処分の妥当性や重さは大きく異なります。たとえば、部長や課長といった管理職であれば、企業の顔としての責任が大きく、重い処分が正当化されやすくなります。一方、一般社員であれば、影響の程度や本人の態度を考慮しながら、より慎重な対応が求められます。アルバイトやパートの場合は、就業規則の適用範囲や契約形態によって制限があるため、処分の方法にはさらなる注意が必要です。
前歴・再犯の有無も重要な判断材料
懲戒処分を検討する際には、当該社員に前歴があるかどうかも大きな判断材料になります。過去にも問題行動があり懲戒処分を受けた社員が、再び刑事事件を起こした場合には、更生の可能性が低いと評価され、より重い処分が相当とされることが一般的です。逆に初犯であり、本人が深く反省している場合や、会社業務への影響が軽微であると判断できる場合は、注意やけん責といった軽度の処分にとどめる選択も可能です。
処分しないリスク:他の社員への影響
刑事事件を起こした社員に対して何の処分も行わなかった場合、他の社員の士気が低下する、あるいは「問題を起こしても処分されない会社」というイメージが定着することで、社内秩序が乱れる危険性があります。処分を行うことには、「懲罰」という側面だけでなく、「秩序維持」や「職場の安心感を保つ」といった重要な役割もあるのです。
懲戒処分の適切なステップ
刑事事件を起こした社員に対して懲戒処分を行う場合には、まず報道や警察発表、本人の説明などをもとに事実確認を行います。次に、就業規則における懲戒事由や処分の範囲を確認し、本人に事情を聴取し弁明の機会を与える必要があります。その後、懲戒処分委員会や経営会議などの場で処分内容を決定し、書面で通知したうえで記録を保管します。これらの手続きを形式的に踏むだけでなく、個別事情に即した合理的な判断がなされていることが重要です。
判断に迷う場合は弁護士に相談を
私生活で刑事事件を起こした社員への懲戒処分や解雇は、企業にとって非常に重要かつデリケートな判断です。処分の有効性が問われる場面では、感覚や常識だけでは対応しきれない法的リスクが潜んでいます。「懲戒解雇が可能なのか」「どの処分が社会通念上妥当なのか」「手続きで注意すべき点は何か」といった疑問が生じた場合には、企業側の労務対応に精通した弁護士に相談することを強くおすすめします。
ご相談のご案内:刑事事件対応も含めた懲戒処分の支援
四谷麹町法律事務所では、社員による刑事事件を含む懲戒処分や解雇の対応に関して、企業側の視点から総合的なサポートを行っています。就業規則の確認・見直しのアドバイス、懲戒処分の妥当性評価、書面作成や社員対応に関するアドバイスのほか、労働審判や訴訟の対応にも対応しています。刑事事件後の社員対応にお悩みの企業担当者の方は、ぜひ一度、会社側対応に強い弁護士が在籍する四谷麹町法律事務所までご相談ください。