能力不足の証拠をどう残す?問題社員の“極端な能力不足”を立証する実務対応

目次
動画解説
はじめに
業務能力が著しく低い社員に対し、その能力不足をどのように立証していくべきかについて、会社側の立場から実務的な観点を交えて詳しく解説します。多くの中小企業の経営者や人事担当者から、「どうしても仕事ができない社員がいる」「周囲からの不満も大きく、放置できない」というご相談が寄せられています。こうした社員を放置すると、周囲のモチベーション低下や業務の停滞を招き、結果として会社全体のパフォーマンスに悪影響が及ぶおそれがあります。
ただし、「能力が低い」という評価だけでは、法的に正当な措置を取ることは困難です。重要なのは、主観的な評価ではなく、客観的な“事実”に基づいた記録と立証です。この記事では、その「事実」をいかに収集・記録し、どう立証していけばよいかを具体的に解説します。
「能力が低い」は評価に過ぎない
まず押さえておきたいのは、「あの社員は能力が低い」という認識が、あくまで“評価”に過ぎず、必ずしも客観的な事実ではないという点です。本人に対して「あなたは能力不足です」と伝えた場合、それが納得を得られず、「社長に嫌われている」「根拠のない中傷だ」と受け取られてしまうリスクもあります。特に、他の社員と比較して自分だけが指摘されていると感じたときには、パワハラと主張される可能性も否定できません。
このような誤解や対立を避けるためには、「いつ」「どこで」「どのような行動があったか」という具体的な事実の積み重ねが必要不可欠です。印象や感情ではなく、誰もが確認できる行動記録が求められるのです。
客観的な「事実」が立証の鍵
能力不足の指摘が法的に通用するためには、抽象的な評価ではなく、実際の行動に基づいた具体的な出来事を示すことが重要です。たとえば、「4月10日の午前10時頃、上司の指示に基づき資料を作成するよう命じたが、提出期限に間に合わなかった」「マニュアルに従わず、誤った対応で取引先からクレームが寄せられた」といったように、日時・内容・結果まで記録された“事実”が立証の根拠となります。
裁判や労働審判の場では、「皆がそう言っている」といった曖昧な主張では通用しません。誰が、いつ、何をし、あるいはしなかったかという事実に基づく証拠こそが、最終的な判断を左右します。
抽象的な注意指導は効果が薄い
能力不足が疑われる社員に対しては、「しっかりやってほしい」「もっと頑張ろう」といった抽象的な指導では効果が期待できません。なぜなら、能力が不足している社員ほど、曖昧な表現では指示の意図を正確に理解できないためです。そこで求められるのは、具体的かつ明確な指導です。「この業務はこの順序で行ってください」「この資料はこういう構成で作成してください」といった形で、手順や完成形を明示して指示を出すことが基本となります。
また、言葉だけで伝わりにくい場合は、実際に模範となる動作を見せる“モデル行動”も非常に有効です。視覚的な理解を促すことで、理解度の向上やミスの削減につながります。
教育効果と立証効果の両立を意識する
「能力不足」の事実を記録する目的は、裁判などの法的リスク対策だけではありません。丁寧な記録とフィードバックを通じて、教育的効果を引き出すことも可能です。現実には、「入社当初は著しく業務ができなかった社員が、具体的な指導を重ねることで一定の水準に達した」といった事例も多くあります。逆に、抽象的な注意だけでは改善が見込めず、最終的に契約終了となることも珍しくありません。
つまり、記録と指導は、教育の側面と法的防御の側面を両立させる必要があるのです。
記録の方法とポイント
能力不足の立証に有効な記録方法としては、たとえば試用期間中に社員自身にA4用紙1枚程度の業務報告を毎日提出させ、その内容に対して上司がコメントを加えるといった方法があります。この際、評価や感想ではなく、「どのような業務を行い、どのようなミスがあったか」「期限は守られたか」など、事実に基づいた内容を記録することが重要です。
また、本人を励ます意図で実際には達成できていない点を「よくできた」と評価してしまうことは避けるべきです。こうした記録は、後の証拠として企業側にとって不利に働く可能性があります。実績は正当に評価しつつ、改善すべき点については具体的かつ冷静に記録しておく姿勢が大切です。
評価は“よく見てから”行うべき
社員の能力を正当に評価するには、まず「よく見る」ことが前提です。どの業務においてミスが多いのか、どのような場面で理解が追いつかないのか、あるいは改善の余地はあるのかなど、日々の行動を観察し、冷静に分析することが欠かせません。感覚的な判断や「何となくダメそう」といった印象だけで評価を下すと、社員本人だけでなく、他の社員や社外関係者からも企業の管理体制が疑問視されるリスクがあります。
証拠は「試用期間中」が集めやすい
試用期間中は、企業側が社員の能力を見極めることができる貴重な時間です。この期間中に、社員の業務遂行能力について十分に観察・記録しておくことで、後に契約更新を見送る場合にも説得力のある判断材料となります。本採用後には「解雇」に対する法的ハードルが高まるため、試用期間中の記録は法的にも実務的にも非常に価値があります。
説得力ある対応でトラブルを防ぐ
能力不足を理由に契約終了や懲戒処分を行う際には、感覚や評価ではなく、事実に基づいた経緯の提示が不可欠です。たとえば、「○月○日に業務上のミスがあり、○○の指導を行ったが、再度同様の問題が発生した」といったように、事実と対応の履歴がしっかりと記録されていれば、本人も一定の納得を得やすく、トラブルの発生を未然に防ぐことができます。
問題社員への対応は、丁寧な観察と記録から
いわゆる問題社員(一般にモンスター社員とも言われている)への対応では、感情的にならず、常に客観的な視点を持つことが重要です。日々の観察と記録、具体的な指導を通じて、教育の可能性を探りながら、最終的に退職や契約終了に至る際にもトラブルを最小限に抑える準備を整えることが、企業としての責任ある対応といえます。
会社側専門の弁護士に相談
四谷麹町法律事務所では、問題社員への対応に関して、注意指導の実務や懲戒処分の進め方、社員への対応方法について、企業の立場に立った具体的なサポートを行っています。また、必要に応じて企業側代理人として、問題社員本人や相手方弁護士との交渉も対応可能です。訴訟や労働審判に至る前の段階から適切な対処を講じることで、企業への負担を軽減し、問題の早期解決に結びつけることができます。問題社員の対応にお困りの際は、ぜひ会社側専門の経験豊富な四谷麹町法律事務所までご相談ください。