能力不足と知りながら採用してしまうのはなぜ?|採用失敗の実態

目次
動画解説
はじめに
中小企業の経営者や人事担当者にとって、採用は最も難しい経営判断のひとつです。特に人手不足が続く現在、「少し能力に不安があっても採用せざるを得ない」といったケースは珍しくありません。しかし、能力不足と感じていながら採用してしまうことには、見過ごせないリスクが伴います。本記事では、その具体的な問題点と、企業としての適切な対応策について解説していきます。
採用時に「違和感」を覚えていたのに…
面接や選考過程の中で、「この人は少し違うかもしれない」「業務には向いていないのではないか」と、うっすら感じることがあります。しかし現場が忙しく、他に応募者もいないような状況だと、その“違和感”を打ち消し、「とにかく人手を確保したい」という思いから採用に踏み切ってしまうことがあります。
この段階で「やめておこう」と判断できれば理想的ですが、現実には「なんとかなるだろう」と期待を込めて採用してしまうことも少なくありません。結果として、採用後に問題が顕在化し、かえって大きなコストを支払うことになってしまうのです。
採用後に現れる“能力不足”の現実
実際に働き始めてから、予想していた以上に業務がこなせない、教えてもなかなか覚えない、職場の空気に馴染まないといった問題が明らかになります。そして、「こんなはずではなかった」と現場から不満が噴出し、指導する側の社員に大きな負担がかかってしまうのです。
このような状況になると、採用したこと自体が誤りだったのではないかという後悔が残ると同時に、採用を進めた側に対しても責任を問われる空気が職場に広がります。また、明らかに能力不足であっても、採用した以上は労働契約が成立しており、簡単に辞めさせることはできません。
問題社員化するリスクとその影響
能力不足のまま業務を続けさせることで、問題社員(一般にモンスター社員とも言われている。)となるリスクも高まります。現場では指導のしづらさやミスの多発、他の社員のやる気の低下など、さまざまな影響が出てきます。
さらに、そのような社員が「パワハラを受けた」などと主張してトラブルに発展する可能性もあります。特に、本人にとっても納得のいかない形で退職を迫られるような事態になれば、労働トラブルに発展する可能性は格段に高まります。
応募者本人にとっても不幸な結果に
採用された側から見れば、「せっかく就職が決まった」と思った矢先に「向いていない」「辞めてほしい」と言われることほど辛いものはありません。せっかくのチャンスだったにもかかわらず、職場に馴染めずストレスを抱え、体調を崩してしまうようなケースも少なくないのです。
そのような状態で退職を求められた場合、本人は「裏切られた」「他社の内定を断ってまで入社したのに」と感じるでしょう。こうした不信感は企業の信用を損ね、労務リスクとして将来的なトラブルの火種にもなります。
採用には“痩せ我慢”が必要なときもある
人手不足に悩まされているときほど、妥協したくなる気持ちは当然のことです。しかし、採用時に「この人は合わないかもしれない」と感じたならば、痩せ我慢して見送る判断が、後のトラブルを防ぐ最良の選択になることが少なくありません。
その場しのぎの採用が、後々大きな負担を生み出すことを冷静に見据え、むしろ「合う人が見つかるまで探し続ける」という判断のほうが、長期的に見て企業の利益にかなうケースも多いのです。
教育前提での採用には覚悟が求められる
どうしても採用せざるを得ない場合、「すぐに戦力にはならなくても、時間をかけて育てていく」という覚悟を持てるかどうかが重要です。能力不足と分かった上で採用するのであれば、育成の体制を整え、長期的な視点で教育に取り組む必要があります。
しかし、その覚悟がないまま採用し、「やっぱり使えない」と見切りをつけてしまえば、すでに採用した社員にとっては非常に不誠実な対応になってしまいます。育成を前提にするのであれば、社内のサポート体制や業務の見直しまで含めて、計画的に行うことが求められます。
採用に依存しない業務設計の視点
そもそも、「どうしても採用しなければ回らない」という状態そのものを見直す必要がある場合もあります。人手を必要としない仕組みをつくることで、無理な採用を避けられるのです。
たとえば、券売機の導入、AIによる受付業務の代替、作業マニュアルの充実などにより、業務の効率化を図ることが可能です。人件費として払うコストを考えれば、こうした初期投資はむしろ中長期的に見て合理的な判断といえるでしょう。
社会貢献としての採用が抱える課題
「能力の低い人を雇うことが社会貢献につながる」という考え方を持つ経営者の方もおられます。もちろん、そのような信念に基づいた採用であれば、それ自体を否定するものではありません。
しかしながら、そうした善意の採用によって、他の社員に大きな負担がかかってしまえば、社内のモチベーション低下や不満の蓄積につながります。採用された本人も、周囲の歓迎ムードが感じられず居心地の悪さを感じることになれば、結局は離職に至ることも多く、「社会貢献」どころか逆効果になってしまうこともあるのです。
雇用の「質」が問われる時代
近年の日本社会では、「雇用の数」ではなく「雇用の質」が重視されるようになっています。たくさんの人を雇っている企業よりも、少人数でもしっかりとした給与を支払い、安心して働ける職場を提供している企業のほうが、評価される時代になってきています。
企業が能力不足の人材を安易に採用することで、給与原資が分散し、結果として他の社員の待遇改善ができなくなるという現象も起きています。採用という行為は、経営資源の分配そのものであるという視点を持ち、慎重な判断が求められます。
おわりに
採用において「少し能力が不安だけど、人手不足だから仕方ない」と妥協することは、誰しもが経験することかもしれません。しかし、採用とは企業にとって将来の投資であり、慎重に行わなければそのリスクは計り知れません。
能力不足の応募者に気づいた段階で、採用するかどうかを真剣に見極める。そして採用するなら教育の覚悟を持つ。あるいは採用しないで済むように業務設計を見直す。こうした判断の積み重ねが、健全な職場と持続可能な経営につながっていくのです。
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