能力不足の社員にどう指導すべきか?教育に悩む現場で使える実践的アプローチ

目次
動画解説
はじめに
採用した社員が期待していたレベルに達しておらず、「極端に能力が低い」と感じられるケースに直面することがあります。特に人手不足が深刻な中小企業では、「能力不足の社員にどう対応すべきか」という問題は避けて通れない課題となっています。本記事では、能力不足の社員に対してどのように教育・指導を行うべきか、その実務的な方法と注意点について解説します。
抽象的な指導では伝わらない
まず理解しておくべきことは、一般的な教育・研修の内容では、極端に能力が不足している社員には十分に伝わらないという点です。通常であれば通じるような抽象的な言い回しや簡略な指示では、指示された内容をきちんと理解できず、業務を正確に遂行することが困難になります。
そのため、教育・指導においては、何をどのようにやるのかというプロセスを極めて具体的に示す必要があります。たとえば「この資料をまとめておいて」ではなく、「Aの資料を左から順番に並べ、Bの書式に転記し、C課にメールで送信する」といったレベルまで具体化しなければならないのです。
教える側の負担は増える
当然ながら、指導が具体的であればあるほど、教える側の負担は重くなります。指示内容を細かく伝え、時には実演し、やらせてみて間違いをフィードバックする。こうした一連のプロセスには時間と労力がかかります。他の業務を抱えながら、そのような個別指導にまで時間を割くのは、現場の社員にとって大きな負担になるでしょう。
このような状況では、「もう何度教えても覚えてくれないから諦めた」という声が出るのも無理はありません。しかし、採用の背景には企業としての人員確保の苦労があるわけで、簡単に“戦力外”として放置することはできないのが現実です。
理解力の問題か、やる気の問題か
能力不足の社員の中には、指示を守らない、覚えない、やろうとしないという印象を与える人もいます。しかしそのすべてが“やる気の問題”とは限りません。実際には、指示の内容自体を正確に理解できていないケースも多く、決して悪意があるわけではないこともあるのです。
このような場合には、責めるのではなく、理解の程度を確認しながら丁寧に教える必要があります。そして、言葉だけで伝えるのではなく、実際にやって見せるという方法も有効です。教育とは本来、受け手の立場に立って行われるべきものであり、相手の理解力に合わせた伝え方を工夫する必要があります。
教育指導が機能しないときの視点転換
どれだけ丁寧に教えても改善が見られない場合には、その社員にとって現在任されている仕事がそもそも向いていない可能性があります。人にはそれぞれ得意・不得意があり、今の職務が適性に合っていないだけという場合もあります。仕事を変えてみると別人のように活躍し始める社員も実際に存在します。
企業としても、能力不足の社員を「一律に評価」するのではなく、「どの仕事なら活躍できるのか」という視点に立ち、適性を見極めて配置転換することが有効です。本人の体調や精神状態にも配慮しながら、やりがいを持って取り組める仕事を探すという工夫は、本人のためにも会社のためにもなるアプローチといえるでしょう。
配置転換が困難な場合の対応
もっとも、多くの中小企業では、そもそも複数の職種やポストがあるわけではなく、「空いている部署がない」「別の業務を割り当てる余裕がない」という現実があります。そのような場合には、いくら教育・指導を重ねても業務を遂行できない状態が続き、本人にも相当なストレスがかかることになります。
その結果、適応障害やうつ病といった健康問題を抱える可能性も否定できません。本人が体調を崩してまで現在の職務にこだわるのが本当に正しいのか、企業としても「健康に配慮する責任がある」という観点から冷静に判断する必要があります。
雇用継続の限界を見極める
特に本人が明確に「この仕事がつらい」「体調に影響が出ている」と訴えているような場合には、無理に雇用を継続すること自体が本人にとって不利益となる可能性もあります。たとえ本人が「頑張りたい」と言っていたとしても、それが慢性的な苦痛を伴う状況であれば、むしろ別の職場での再スタートを促す方が本人のためにもなるのです。
企業側としても、雇用を維持することが“善”と考えるのではなく、雇うことが本人の幸福や健康を損ねている可能性があることを正しく認識し、必要に応じて退職を促すという判断を取るべき時もあるのです。
教育指導は「戦力化」だけが目的ではない
教育・指導の目的は、単に“戦力になる人材を育てること”だけではありません。社員一人ひとりの個性や適性を見極め、最適な働き方を一緒に模索することも、企業の重要な責務です。極端に能力が低いと感じられる社員に対しても、その人なりのやり方で仕事に向き合えるよう配慮する姿勢が、企業全体の信頼と一体感を高めることにつながります。
教育にかかる手間や労力は、短期的には負担となるかもしれません。しかし、その積み重ねが企業の持続的な発展を支える重要な土台となるのです。
結論と実務的な対応のすすめ
能力不足の社員に対する教育指導は、簡単ではありません。抽象的な指導では伝わらず、具体的かつ丁寧なアプローチが求められます。また、配置転換や職務内容の見直しを通じて適性に合った業務を与えることも大きな効果を発揮する可能性があります。
それでも状況が改善しない場合には、本人の健康状態や職場環境全体への影響も踏まえ、退職を含む対応を検討することも必要となるでしょう。社員一人の問題であっても、放置すれば職場全体に悪影響を及ぼす恐れがあるからです。
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