問題社員

能力不足社員を採用してしまった場合の退職勧奨の進め方

動画解説

はじめに

 今回は、極端に能力が不足している社員を採用してしまった場合に、どのように退職勧奨を進めるかについてお話しします。ある程度の能力不足であれば、教育や指導によって成長を促すことが可能です。しかし、極端に能力が低く、業務に支障をきたし、周囲の社員に過度な負担がかかるような場合、職場環境全体が疲弊してしまいます。

 そのような状況で、「新たに別の人材を雇いたい」と思っても、既にその社員を採用済みであるため、簡単にはいかないのが現実です。こうした場合、最終的に退職勧奨による合意退職を検討せざるを得ないこともあります。本記事では、退職勧奨を進める際の実務的・法的ポイントを詳しく解説します。

本採用後の退職勧奨の難しさ

 今回の前提として、当該社員は使用期間を経て本採用となっているケースを想定します。このような場合、本人は「自分はこの会社で必要とされている」と考えているのが通常です。そのため、突然「能力不足だから辞めてほしい」と言われても、納得しづらい状況になります。

 特に、「能力が低すぎるから当然辞めるべきだ」という一方的な見方は、トラブルの元になります。本人からすれば「この能力で本採用されたのだから、もう大丈夫だと思っていた」という認識があり、それを否定するには慎重な説明が求められます。

納得感を得るための説明方法

 では、どのようにすれば納得してもらえるのでしょうか。最も大切なのは、「能力不足である理由を、具体的な事実に基づいて説明すること」です。「うまくいっていないよね」「皆が困っている」などの曖昧な表現ではなく、実際の業務や出来事を挙げて説明する必要があります。

 例えば、「○月○日の業務で○○を担当してもらったが、基本的な手順を理解しておらず、指示と異なる対応をしてしまった。その結果、納期に遅れが出た」といった具合です。このように、能力不足と評価される根拠を、日付・行動・結果という要素で具体的に示すことが重要です。

 もちろん、入社当初は誰でも仕事が分からないものです。しかし、指導しても繰り返し同じミスをする、説明しても改善が見られないという状況であれば、能力不足の根拠として説明しやすくなります。

他の業務への配置転換の検討

 退職を勧奨する前に、その社員に適した別の業務がないかを検討することも重要です。「向いている仕事がないかを探す」という姿勢は、会社側の誠実な対応として評価されやすくなります。

 実際に他の業務を試してみて、それでもうまくいかなかった場合や、どう考えても適した業務が見当たらないと判断できた場合には、その検討過程を丁寧に説明すべきです。社員に「自分に合う仕事を探してくれたけれど、結果としてなかった」と納得してもらえる可能性が高まります。

長年勤務している社員の場合

 中には、10年、20年と長く勤務している社員に対して「能力不足だから辞めてほしい」と感じるケースもあります。このような場合、本人にとっては「今まで受け入れられてきた」という認識が強くあるため、納得を得るのはさらに難しくなります。

 そのようなときは、「業務内容の高度化」や「組織再編」など、会社の状況変化により従来の能力水準では適応が難しくなったという説明が必要です。もちろん、それが会社の都合であることを理解してもらうには相当の工夫が求められます。

退職条件の上乗せによる合意形成

 能力不足の社員に退職してもらう際、退職条件を工夫することでスムーズな合意に繋がることがあります。たとえば、「一定期間の給与保障」や「未使用の有給休暇の買い取り」といった条件を提示する方法です。

 「能力がない人になぜ退職金を上積みする必要があるのか」と感じる経営者も多いと思いますが、今後も雇い続けて生産性の低い状況が続くよりも、合理的な金額で円満に退職してもらう方が、結果的にはコストを抑えられる場合もあります。

 また、退職条件が妥当なものであるかは、「なぜ退職してもらう必要があるのか」をしっかり説明できるかにかかっています。具体的な説明があることで、必要以上の退職金を支払わずに済むこともあります。

まとめ

 能力不足の社員に対して退職勧奨を行うには、時間と労力が必要です。しかし、ポイントを押さえて対応すれば、法的トラブルを避けつつ、会社にとっても本人にとっても前向きな解決に繋がります。

 その際に最も大切なのは、「具体的な事実に基づく説明」と「誠実な姿勢」です。この二つを軸に、場合によっては退職条件の上乗せも検討しながら、丁寧に退職勧奨を進めていくことが求められます。

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 四谷麹町法律事務所では、能力不足の社員に対する個別の注意指導の仕方や、懲戒処分の進め方等について、具体的なサポートを行っています。訴訟や労働審判になる前の段階から適切な対応を行うことで、企業側の負担を軽減し、トラブルの早期解決が可能となります。問題社員の対応でお悩みの際は、会社側専門の経験豊富な四谷麹町法律事務所にぜひご相談ください。

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