2025.05.29
社員の健康、介護事情を踏まえた転勤対応のポイント

目次
動画解説
中小企業の経営者や人事担当者にとって、社員の転勤対応は避けて通れない課題の一つです。**特に、社員本人の健康上の問題や、家族の介護事情が関わる場合には、より慎重な判断が求められます。企業としては事業運営の必要性から転勤を命じる場面もありますが、一方的に社員の事情を無視して命令を出すことは、法的リスクを招くおそれがあります。本記事では、転勤に関する法的な注意点と、企業が適切に対応するための実務的なポイントについて解説します。
健康上の理由で転勤を拒否された場合の対応
社員が健康を理由に転勤を拒否するケースは、決して珍しいことではありません。たとえば、本人に持病があり、転勤先に適切な医療機関が存在しない場合や、重篤な病気を抱える家族の看病が必要といった事情が該当します。このような状況下で、「転勤は業務命令であるから従うべきだ」と一方的に押し通すことは、企業側として適切な対応とは言えません。健康状態や家庭の事情を無視することは、社員の退職を引き起こすだけでなく、転勤命令そのものが「権限の濫用」と見なされ、法的に無効と判断される可能性があるため、注意が必要です。
法的リスクを回避するために
まず最初に行うべきは、社員の健康状態や家族の事情について丁寧にヒアリングを実施し、必要に応じて診断書などの資料を提出してもらい、客観的な判断材料をそろえることです。その上で、在宅勤務の導入や期間を定めた異動免除、社員の希望を踏まえた勤務地の調整など、代替となる柔軟な措置を検討していくことが、法的リスクを回避するうえでも重要です。
また、法的根拠についても確認が求められます。介護休業法第26条では、企業が社員に転勤を命じる際には、その介護事情を十分に考慮する義務があるとされています。このような法的義務に違反する対応をとると、転勤命令が無効とされる可能性があるため、配慮を欠いた対応には十分注意すべきです。
介護事情による転勤拒否への対応
高齢化が進む現代社会においては、社員が親の介護を理由に転勤を拒否するという事例も増加しています。このような場合、企業としてどのように対応すべきか、慎重な判断が求められます。
配慮義務を怠るとどうなるか
社員の介護事情を無視して転勤を強要した場合、単に社員が離職するだけでなく、労働審判や訴訟に発展し、転勤命令の無効を争点とされる可能性があります。さらに、そうした企業の姿勢が外部に伝われば、企業イメージの低下や採用活動への悪影響、社内の他の社員の士気低下といった副次的なリスクも発生します。
企業が取るべき対応
まずは、介護を必要とする家族の健康状態や、社員自身の負担の程度を含めた介護の実情について、事実関係を的確に確認することが重要です。また、介護認定の有無や、公的介護サービスの利用状況なども把握しておくと、判断材料として有用です。そのうえで、転勤を伴わない職務への配置転換や、在宅勤務・短時間勤務といった柔軟な勤務制度の導入を検討すべきでしょう。加えて、企業としての基本的なスタンスを明確にするために、社内規定に「介護事情による転勤免除の基準」を設け、公平な運用がなされるよう体制を整えることも大切です。
問題社員への対応
一方で、転勤を拒否する社員の中には、企業側が就業規則に基づいた合理的な転勤命令を出しているにも関わらず、交渉に応じる姿勢を示さず、非協力的な態度を取るケースも存在します。このような社員に対しては、企業側も毅然とした対応を取る必要があります。
適切な対応方法
まず、就業規則に転勤に関する明確な定めがあるかを確認し、その内容に基づいて社員に説明を行い、理解を求めることが基本となります。その上で、転勤拒否の理由に合理性が認められない場合には、書面による注意や指導を実施し、それでも改善が見られない場合は懲戒処分も検討しなければなりません。さらに、転勤拒否が企業の業務遂行に重大な支障をきたすと判断される場合には、最終的に解雇を含めた法的手段の選択もやむを得ないといえるでしょう。
まとめ
転勤を命じる際には、社員の健康状態や介護事情に十分配慮し、法的リスクを最小限にとどめる対応が求められます。具体的には、社員の状況を丁寧に確認し、法律に基づいた適切な配慮を行いながら、柔軟な勤務形態の提案を通じて双方にとって納得感のある解決策を見出すことが重要です。加えて、業務命令に従わない問題社員に対しては、就業規則に則った正当な手続きを踏みながら対応を進めることが、組織全体の健全な運営にもつながります。
専門家への相談
転勤対応をめぐる判断に迷う場面では、早い段階で専門家の意見を取り入れることをおすすめします。四谷麹町法律事務所では、企業経営者の皆様が労働問題のストレスから解放されることを目的として、全国の企業への支援を行っています。転勤をめぐるトラブルや、その他の労働問題に関してお困りの際は、ぜひ当事務所にご相談ください。労働審判や訴訟に発展する前の段階からの適切な対応によって、企業にかかる負担を軽減し、トラブルの早期解決を図ることが可能となります。