問題社員

「解雇してくれ」と言う社員の真意とは?企業がとるべき適切な対応とリスク回避策

動画解説

社員から「解雇してほしい」と言われたときに経営者が取るべき対応とは

 企業経営をしていると、思いもよらぬトラブルに直面することがあります。その一つが、「社員の側から解雇してほしい」と要求されるケースです。一見、自主退職のようにも思えるこの発言。しかし、対応を誤れば、後に「不当解雇」として争われ、労働審判や裁判に発展するリスクを抱えることになります。今回は、こうしたケースに直面した際に、会社側が取るべき実務的な対応について、ポイントを押さえて解説していきます。

解雇を求める社員に実際に多く見られるトラブルとリスク

 「解雇してください」と申し出てきた社員に対し、会社がそのまま解雇を受け入れた結果、「そんなつもりで言ったのではない」「不当に解雇された」と主張されることがあります。実際に、離職票に「解雇」と記載して処理を進めたところ、後から内容証明で「不当解雇だ」と抗議が届いたり、労働審判や団体交渉の申し入れが来る事例は珍しくありません。

 これは「社員が自ら望んで辞めた」と考える経営者の認識と、法的な評価とのズレに起因するものです。社員側の発言があったとしても、それが退職の同意と認められるとは限らないのです。

解雇を受け入れることで発生する「解雇無効」のリスク

 解雇には、労働契約法により「客観的に合理的な理由」と「社会通念上相当であること」が求められます。この条件を満たさない解雇は、権利の濫用として無効とされる可能性が高いのです。

 実際に、解雇に至った経緯を冷静に振り返ると、「もともと解雇する予定はなかった」「社員に言われたから応じただけだった」というケースが多くあります。つまり、会社側が慎重な法的検討をせずに「じゃあ解雇で」と処理してしまった結果、訴訟に発展し、数百万円単位の未払賃金を請求される危険があるのです。

解雇の判断には慎重な事実確認と意図の分析が不可欠

 社員が「解雇してください」と口にする背景には、さまざまな事情があります。たとえば、「会社都合で退職したい」「解雇予告手当を得たい」「働きたくないけど給料は欲しい」など、その意図を見誤ると、対応を誤ることになります。

 そのため、経営者や人事担当者としては、社員の発言の真意を慎重に分析し、「その発言が解雇への同意なのか」「誘導された発言ではないか」「証拠が残っていないか」など、多角的に検討を行う必要があります。

よくある4つのパターン別・社員の「解雇してくれ」の真意と対処

 実務上、解雇要求には次の4つの類型が多く見られます:

  1. 本人に辞める気はないが、退職勧奨への反発として「解雇したら?」と反論するケース
  2. 会社都合退職として離職票を処理してもらいたいがために「解雇」を求めるケース
  3. 解雇予告手当を得ることを目的に「即時解雇」を主張するケース
  4. 働かずに給料を得ることを目的に、トラブルに持ち込みたいケース(最も注意が必要)

 このうち、最もリスクが高く、かつ実際にトラブルに発展しやすいのが4つ目のパターンです。次章では、この手強いタイプへの対応策について、詳しく解説していきます。

特に注意すべき「不労所得狙い型社員」との向き合い方

 近年、労働法や労働者保護制度の知識を逆手に取り、「解雇されること自体」を目的化し、その後に「解雇無効」を主張して賃金を請求する社員も見られるようになってきました。中には、無断録音などを行い、会社側が不利になる発言を引き出そうとする社員もいます。

 このような社員に対しては、言葉遣い一つが大きなトラブルの引き金になります。たとえ感情的になって「もう来なくていい」と口走っただけでも、証拠が残されていれば「解雇の意思表示」とされる可能性があります。

無断録音や言質のリスクを避けるための発言・対応の注意点

 実際、裁判では社員が密かに録音した音声が証拠として採用されることが多く、会社側が不利に扱われる場面も珍しくありません。そのため、社員との面談や退職勧奨の場面では、常に「録音されているかもしれない」という意識を持って臨むことが重要です。

 解雇という言葉は極力避け、「現時点では退職を求めていない」「引き続き協議の余地がある」など、柔らかく慎重な表現を心がけましょう。発言が感情的になったり、曖昧な言い回しになったりすることもリスクにつながります。

合意退職に向けた戦略的交渉と資金的判断

 トラブルを回避し、円満に退職してもらうためには、一定の条件提示が必要なこともあります。退職勧奨の場面では、「退職理由の明示」とともに、「退職にあたっての条件提示」が重要になります。

 特に、会社都合退職を希望する社員や、解雇予告手当を狙う社員に対しては、「特定受給資格者として扱うかどうか」「退職金の上乗せを行うか」「退職合意書の取り交わしをするか」など、丁寧な交渉が求められます。社員の意図と会社のリスクを見極めながら、金銭面の折り合いをつけることが、結果として最も合理的な解決につながる場合もあるのです。

経営者が間違えやすい「知っていること」と「できること」のギャップ

 知識として「言葉に注意しなければならない」「解雇と言ってはいけない」と分かっていても、実際の現場で冷静に対応できるとは限りません。社員の挑発的な発言や、長時間の交渉の中で、つい感情的になってしまう経営者も少なくありません。

 こうした事態を避けるためには、模擬練習や事前のロールプレイなど、実際の対応を想定した準備が有効です。顧問弁護士や労務専門家とともに、リスクのある面談への対応をシミュレーションしておくことで、想定外のトラブルにも冷静に対処できるようになります。

社内リスクとコストを最小限にするための現実的な解決手段とは

 問題社員に対して、裁判を起こされるリスクを避けながら退職を促すには、「いかに早い段階でリスクを把握し、適切な打ち手を講じるか」が鍵になります。感情的な判断や勢いでの解雇は、法的リスクと社内混乱を招きます。

 その一方で、無理に雇用を継続することで、他の社員の士気や職場環境が悪化するケースも少なくありません。こうした場合、短期的な出費はあっても、「手切れ金」として退職条件を整え、早期に問題を解決する判断が求められることもあります。

個別対応の重要性と、専門家に相談することの意義

 社員の「解雇してくれ」という発言は、必ずしも表面的な言葉の通りに受け取ってよいものではありません。背景にある意図や状況を丁寧に見極め、会社にとって最もリスクの少ない選択を導くためには、専門的な視点が必要です。

 四谷麹町法律事務所では、解雇や退職勧奨に関する問題社員対応について、実際の面談対応から、退職条件の整理、合意退職の進め方、無断録音対策まで、企業側の立場に立った支援を行っています。個別の事案に応じたリスク分析や対応方針の策定を行い、トラブルを未然に防ぎます。

 社員から「解雇してくれ」と言われ、対応に迷った際は、ぜひ会社側専門の法律事務所である四谷麹町法律事務所にご相談ください。

新着記事

  • 会社側の労働審判の対応|企業側専門の弁護士が語る実務の流れと対策法

  • 企業側が労働審判で不利にならないために──弁護士選任と初動対応の重要性

  • 第1回労働審判期日が企業の命運を分ける理由とは?弁護士が解説する初動対応と実務対策

  • 労働審判対応における弁護士の重要性と企業側の実務対応ポイントの解説

  • 労働審判で不利にならないために|弁護士と進める企業防衛の実務対策

過去記事

オンライン経営労働相談

会社経営者を悩ます労働問題は、四谷麹町法律事務所にご相談ください。
労働問題の豊富な経験と専門知識で、会社経営者の悩み解決をサポートします。

経営労働相談のご予約はこちら