無断欠勤が多い社員への正しい対応法|懲戒処分の前に経営者がとるべき行動とは

目次
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無断欠勤が多い社員への対応が企業にもたらすリスクとは
社員の無断欠勤が続くと、経営者としては大きな不安と不満を抱えることになるでしょう。特に、1週間以上にわたり会社に一切の連絡をせず欠勤を続けた社員が、何事もなかったかのように出社してきた場合には、戸惑いを覚えるのが当然です。このような社員への対応を誤ると、組織全体の規律が乱れ、他の社員の士気にも悪影響を及ぼしかねません。今回は、こうしたケースにおいて企業がとるべき対応について、弁護士の視点から整理してお話しします。
まず、無断欠勤が多い社員がもたらすリスクについて確認しましょう。企業活動において欠勤は一定程度想定されるものであり、体調不良や家庭の事情による欠勤そのものを問題視することは適切ではありません。しかし、それが「無断」で「長期間」にわたる場合、話は別です。代替人員の確保が必要となるだけでなく、チームの業務に支障をきたし、業務効率の低下や他の社員の不公平感を招きます。さらに、その社員が懲戒処分に該当するような規律違反を繰り返す場合、組織の秩序維持という観点からも対応が求められます。
また、「体調が悪かった」「連絡できないほどだった」というような説明をそのまま鵜呑みにしてしまうと、企業側としての判断が甘くなり、他の社員にも誤ったメッセージを与えることになります。社員の自己申告を尊重する姿勢は大切ですが、同時に組織としての客観的な対応基準を設け、ルールに基づいた対応を徹底することが必要です。
欠勤初動対応の原則:「会社側から動く」ことが基本
次に、無断欠勤が発覚した際、経営者としてまず行うべきは「会社側からの主体的な連絡」です。欠勤が1日でもあれば、通常であれば社員側から連絡を入れるのが当然です。しかし、そもそもそのような自覚や責任感に欠ける社員である以上、「本人が連絡してくるまで待つ」という対応は機能しません。これは「放置」となり、企業側の管理責任が問われる可能性もあるため、早期に会社から動き出すことが原則です。
具体的には、まず電話による連絡を試みましょう。電話に出ない場合は、留守番電話に「会社に連絡を入れてほしい」と伝言を残すことが重要です。あわせて、メールやLINEなど他の連絡手段も用いるとよいでしょう。これらの連絡は記録に残る形で行うことが望ましく、特にメールや書面での通知は後日の懲戒処分の判断において有力な証拠となります。
注意すべきは、これらの連絡を1回限りで終わらせないことです。無断欠勤が続く限り、毎日1回以上は連絡を試み、企業として連絡を取る努力を継続しているという履歴を残しておくことが極めて重要です。管理職に任せきりにせず、経営者として管理職が実際に連絡を行っているかどうかの確認も欠かしてはなりません。企業側が主体的に動いているという姿勢が、後々の対応の正当性を裏付ける根拠になるのです。
無断欠勤後に出社してきた社員にどう向き合うか
さて、ようやく出社してきた社員に対しては、単に「よかったね」で終わらせるのではなく、状況を丁寧に確認する必要があります。「体調不良で連絡ができなかった」といった説明がなされた場合でも、具体的にどのような症状で、どのような状態だったのかを聞き取ることが大切です。「どのような症状でしたか?」「通院はされましたか?」「どの病院にかかり、診断内容はどうでしたか?」「薬は処方されましたか?」といった問いかけを通じて、実際の状況を具体的に把握していきましょう。
このような具体的なヒアリングを通じて、社員の申告内容に信憑性があるかを判断することが可能となります。実際には、体調が悪すぎて病院に行けなかったという説明や、家族がいなかったため通院できなかったなどの説明がなされることもあります。その際には「連絡だけでも家族を通じてできなかったのか」「この1週間、食事はどうしていたのか」など、生活実態もあわせて聞き取っていくことが効果的です。抽象的な説明に終始せず、事実ベースでの確認を行うことで、本人の説明が真実味を帯びるか、あるいは不自然な点が浮かび上がるかを見極めることができるのです。
「体調不良で連絡できなかった」という主張の検証方法
体調不良を理由とする長期欠勤は、それ自体が直ちに問題になるわけではありませんが、「連絡できないほどの体調不良」という主張には合理性が求められます。仮に社員が「動けないほど体調が悪かった」と主張しても、その間の生活状況(食事、通院、家族の援助の有無)などを丁寧に確認することで、真実性を探ることができます。
また、「病院に行く余裕はなかった」と説明する場合でも、その根拠を確認していくことが重要です。家族や友人の援助、タクシー利用の可能性、連絡手段の有無などを一つひとつ確認していくことで、単なる言い逃れでないかを判断できるようになります。経営者としては、あくまで冷静かつ丁寧にヒアリングしながら、必要に応じて第三者(労務担当者や顧問弁護士)の立ち会いを求めることも有効です。
診断書の提出がない場合の対応とルールの運用
就業規則において、一定期間以上の欠勤に対して診断書の提出を義務付けている場合には、そのルールに基づいて対応する必要があります。例えば3日以上の欠勤で診断書が必要とされている会社で、社員が1週間無断で休んだにもかかわらず診断書を提出しない場合、企業として明確に「診断書の提出を求める」意思表示を行うべきです。
この際には、「就業規則に基づく義務」であることを伝えたうえで、提出期限を設けた文書通知を行いましょう。万が一、社員がこれに従わない場合は、提出命令違反として、懲戒処分の検討対象となります。もっとも、懲戒処分を行うためには手続的な正当性が必要ですので、通知の記録、説明の機会付与、弁明書の提出機会など、適切な段階を踏んだうえで判断することが不可欠です。
懲戒処分を検討する前に整理すべきポイント
社員に無断欠勤が多く、診断書の提出もなく、事実確認においても説明に合理性が見られない場合には、懲戒処分の検討が現実的な選択肢となってきます。ただし、懲戒処分は企業側の一方的な制裁措置であるため、その実施にあたっては慎重かつ正確な手続きが求められます。処分の正当性が後日、労働審判や訴訟で争われる可能性を見据えたうえで、事前に整理すべきポイントがいくつかあります。
まず、就業規則において該当する違反行為が「懲戒事由」として明記されていることが前提です。たとえば「正当な理由のない無断欠勤が●日を超えた場合は懲戒の対象とする」などの規定があるかを確認してください。続いて、当該社員に対して事前に注意・指導を行っていたか、つまり「段階的な是正指導」がなされていたかも重要です。初回の違反行為でいきなり重い処分を下すと、「相当性を欠く」と判断されるリスクが高まります。
また、社員の言い分を十分に聴取する「弁明の機会」を与えることも、懲戒処分を有効とする上で不可欠なプロセスです。一方的に処分通知を出すのではなく、ヒアリングを行い、その場で本人が何をどう考えていたのか、事情があったのかを記録に残しておくことが将来の紛争予防につながります。
懲戒処分に踏み切る際の手続と留意点
懲戒処分を実施する際には、必ず就業規則に基づいた適正な手続きを踏む必要があります。企業としての主張を裏付ける証拠(連絡の記録、欠勤日数、聞き取りメモ、診断書提出命令の文書等)を整理し、処分の対象行為が「企業秩序に与えた影響」と「社員としての義務違反の程度」に照らして妥当かどうかを検討しましょう。
処分の種類としては、戒告、譴責、減給、出勤停止、諭旨解雇、懲戒解雇などがありますが、今回のようなケースでは、いきなり重い処分に踏み切ることは慎重にすべきです。たとえば、再三の注意に従わず、診断書の提出命令にも応じなかった場合であれば、譴責または出勤停止等の処分を検討することが現実的です。あくまで、「命令違反」という事実が明白であり、かつ記録が残っていることが前提になります。
また、懲戒委員会の設置や、社外弁護士の関与による処分の妥当性チェックなど、客観的なプロセスを経ることで、企業としての対応に正当性を持たせることが可能になります。特に中小企業においては、処分が「社長の感情的判断」と誤解されやすいため、社内外の視点を取り入れた手続きを意識することが望ましいといえます。
管理職が機能しない場合の社長のマネジメント対応
このような対応を進めるうえで、しばしば障害となるのが「管理職が動かない」という問題です。経営者が方針を示していても、実際の現場対応が管理職で止まってしまっているケースは決して少なくありません。とくに、社員との関係悪化を恐れて注意や指導を避ける傾向がある管理職の場合、放置が常態化し、懲戒処分に至るべきタイミングを逸してしまうリスクがあります。
この場合、経営者としてはまず管理職に対して、欠勤者への対応方針を明確に伝える必要があります。「誰が」「いつまでに」「どのような方法で」対応するかを具体的に指示し、結果報告を義務付けることで、管理責任を明確化します。仮に管理職が対応を怠った場合は、指導や評価に反映させることも検討すべきです。
また、対応力に課題がある管理職に対しては、外部講師や弁護士による研修、対応マニュアルの整備などを通じて、教育の機会を設けることも有効です。組織全体で「曖昧なままにしない」「事実に基づき動く」という共通認識を醸成することが、結果として社員管理の質を高め、再発防止にもつながります。
弁護士の活用:判断に迷ったときの具体的な相談内容とは
無断欠勤や規律違反の対応に際して、「これは懲戒処分に踏み切ってよいのか」「どの程度の処分が妥当なのか」と判断に迷う経営者も少なくありません。こうした場合、労働問題に精通した弁護士に早めに相談することを強くおすすめします。弁護士は、法律や判例だけでなく、実務的な処分手続や証拠の集め方、書面作成、従業員との対話の進め方など、経営判断を支える助言を行います。
とくに注意すべきは、感情に任せた対応を避けることです。「けしからんから懲戒解雇だ」と判断する前に、「リスクを最小限にしながら会社を守るには、どの手順を踏むべきか」を明確にしておくことが、経営上の安定につながります。加えて、再発防止の観点から就業規則の見直しや体制整備の提案も可能ですので、単なる問題対処にとどまらず、中長期的な経営リスクマネジメントとして弁護士を活用していただくとよいでしょう。
まとめ
無断での欠勤が多く、反省の色も見えない社員に対し、企業として適切に対応することは、単にその社員への制裁の意味にとどまりません。会社としての規律を守り、他の社員の公平感を確保し、組織全体の健全な運営を維持するための「経営判断」そのものです。
そのためには、放置せず、曖昧にせず、事実とルールに基づいた対処を継続して行う姿勢が求められます。そしてその対応は、トップである経営者の決断力と行動力に大きく依存します。管理職や弁護士など外部リソースも適切に活用しながら、欠勤への対応を組織全体の強化につなげていく視点を持つことが、経営者にとっての重要な責任であるといえるでしょう。
四谷麹町法律事務所では、問題社員への対応に関して、個別の注意指導の仕方や、懲戒処分の進め方、社員への対応方法について具体的なサポートを行っています。訴訟や労働審判になる前の段階から適切な対応を行うことで、企業側の負担を軽減し、トラブルの早期解決が可能となります。問題社員の対応でお悩みの際は、会社側専門の経験豊富な四谷麹町法律事務所にぜひご相談ください。