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初めての業務を拒否する社員への対応法|業務命令の正当性とマネジメントの実務を弁護士が解説

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初めての業務を嫌がる社員への対応に悩む経営者の皆様へ

 会社で業務を振り分ける中で、特に「初めての仕事だから嫌です」「不安なのでやりたくありません」と拒否する社員に対応を求められることがあります。確かに、初めて取り組む仕事には不安がつきものですし、社員側の心情としても理解できる部分はあります。しかし一方で、会社側としては業務の遂行が必要であり、全ての「不安だから」「やりたくない」という申し出をそのまま受け入れていたのでは、業務が回らなくなってしまいます。

 したがって、こういった場面では、その業務をやらせなければならないのか、あるいは今回はやめておくのか、その都度慎重に判断していく必要があります。今回は、初めての業務を嫌がる社員に対して、法的観点およびマネジメントの観点から、会社が取るべき対応について詳しく解説していきます。

業務命令が可能かどうか:まずは労働契約の確認から

 対応を考える前提として、その業務が労働契約の範囲内かどうかを確認しなければなりません。日本の労働契約では、契約社員に限らず正社員も契約に基づいて業務を行っています。ですから、その契約の内容から逸脱した業務、たとえば社長のプライベートな用事などを命じることは許されません。

 「初めての業務」であっても、業務内容が就業規則や雇用契約上予定されている範囲に入っていれば、原則として命令は可能です。正社員の場合、多くは職種限定がなされておらず、「配転あり」「担当業務の変更あり」などの規定が就業規則にあるため、たとえ現在の担当外であっても、契約の範囲内とされることがほとんどです。

 一方で、契約社員やパート、アルバイトについては、担当業務が明確に限定されているケースも多く、契約外の業務を命じることは原則としてできません。そのため、まずは雇用契約書や就業規則を確認し、業務命令を出すことが適法かどうかを検討する必要があります。

マネジメントの視点:命令すべきかどうかの判断

 仮に契約上、業務命令が可能であるとしても、即座に「やりなさい」と指示すればいいというものではありません。企業経営には、限られた労働力を有効に活用するという視点が必要ですし、社員の育成や業務の適正配置も考慮しなければなりません。

 たとえば、初めての業務がその社員の成長に資すると判断される場合、ある程度の失敗を許容しながら育成のために任せるという選択肢もあります。また、その業務が部署や業種において基礎的なものであり、「この程度のことは誰でもやってきた」とされる場合には、特定の社員だけを免除することは他の社員との不公平を生みます。

 したがって、業務命令の適法性だけではなく、「今、その業務をその社員にやらせることが組織として適切かどうか」を、経営者や管理職が責任をもって判断しなければなりません。

業務命令を出す際の配慮とサポート

 社員に新しい業務を命じる際は、いきなり命令書を渡すのではなく、まず面談などを通じて十分な説明と説得を行うことが大切です。会議室に呼び、「なぜこの業務をあなたに任せるのか」「その業務が会社にとって、またあなたにとってどのような意味を持つのか」といった実質的な理由を丁寧に説明します。

 あわせて、「どのようなサポート体制があるのか」「失敗してもそれはあなたの責任ではなく、マネジメント側の責任である」と伝えることで、社員の不安を和らげる効果が期待できます。

 形式的な説明だけではなく、実際に支援体制を整備し、それを明言しておくことが重要です。「助けると言ったのに何もしてくれなかった」という事態を避けるため、約束できる支援内容だけを伝えるようにしてください。

命令後の対応:注意書から懲戒処分へ

 面談や説明を重ねた上で、業務命令を明確に出したにもかかわらず、なお社員が指示に従わない場合には、次のステップとして、記録に残る対応が必要となります。たとえば、口頭での命令に加えて、メールや社内チャットなどで文書として命令内容を通知することで、後々の証拠となる形で「指示を出した事実」を残しておきましょう。

 それでも指示に従わない場合は、「業務命令違反」としての厳重注意書を交付することが適切です。注意書には、具体的な事実経過、すなわち「いつ、誰が、どのような指示を出し、どのような説得活動を行い、それでも従わなかったか」といった点を詳細に記載し、本人にも内容を明示します。これにより、形式的な指導ではなく、実質的かつ教育的な効果を伴った対応になります。

 さらに状況が改善されない場合には、懲戒処分の対象とすることも検討されます。ただし懲戒処分に関しては、法的リスクも伴うため、社内で独断で判断せず、必ず弁護士に相談しながら進めることが重要です。処分理由や経緯を客観的に整理し、妥当な内容と手続きであるかを確認することで、無用な労使トラブルを防ぐことができます。

弁護士との連携でリスクを最小限に

 初めての業務を命じた際の社員の拒否対応は、決して珍しい問題ではありませんが、その対応次第で職場全体の空気や企業の労務管理体制に大きな影響を及ぼす可能性があります。適切な説明や説得、そして命令、それに続く注意や懲戒処分といった対応を、法的観点とマネジメント観点の両方から正しく行うことが求められます。

 四谷麹町法律事務所では、こうした場面における初期対応の方法から、就業規則の見直し、個別社員への指導、注意書・懲戒処分書面の作成まで、実務に即した支援を提供しています。さらに、弁護士が企業側の立場で直接アドバイスすることで、感情的な対立を避けつつ、企業としての方針をしっかり伝えるサポートも行っています。

 社員が新しい業務に抵抗を示し、対応に迷う場面では、法的リスクを最小限に抑えながら、適切な対応を進めることが何よりも重要です。個別の事情に応じた対応についてお困りの際は、ぜひ企業法務に精通した四谷麹町法律事務所へご相談ください。

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