無断録音を正当化する社員への対処法|裁判で証拠採用されても職場では許されない理由を弁護士が解説

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動画解説
社内の無断録音に不安を感じる経営者が急増中
「無断録音でも裁判では証拠として認められるのだから、録音をやめる必要はない」と主張する社員が、社内で録音を継続し、他の社員たちに不安を与えている──最近、こうした相談が増えています。職場における会話や業務のやり取りが録音されているとなれば、落ち着いて仕事ができず、社内の信頼関係も大きく損なわれかねません。
経営者としては、早急にこのような社員の行動を止め、職場の秩序と安心感を回復したいところです。しかしながら「裁判では証拠として認められる」という情報に対し、会社としてどう対応すべきか、迷う方も多いのが現実です。
民事裁判で無断録音が証拠とされる背景とは
民事裁判においては、無断で録音された音声データが証拠として採用されるケースが多くあります。その理由は、民事訴訟における証拠採用の判断が、裁判官の裁量に広く委ねられているためです。たとえ違法な手段で収集された証拠であっても、刑事事件のように厳格な証拠排除ルールは適用されず、民事の場では証拠価値を認める裁判官も少なくありません。
ただし、これはあくまでも裁判所が「証拠として使ってよい」と判断したにすぎず、「その行為自体が正当だった」と評価されたわけではありません。無断録音の是非と、裁判での証拠採用の可否とは、まったく別の問題です。
裁判で証拠として認められることと、職場での是非は別問題
社員が「裁判で認められるのだから、録音はしてもよい」と主張する場合、混同しているのがこの「証拠価値」と「行為の正当性」という二つの異なる次元の話です。民事裁判で証拠として使えるかどうかは裁判所が判断する問題であって、それが録音行為自体の正当性を保証するものではありません。
職場での無断録音が許されるかどうかは、別の論点です。たとえ裁判で録音が証拠として採用されたとしても、企業内のルールに違反していれば、就業規則違反や服務規律違反として処分対象になる可能性が十分にあります。この区別をしっかりと認識しておく必要があります。
無断録音の禁止は労働契約上正当か?
社員が会社と結ぶ労働契約には、業務に支障をきたすような行為をしてはならないという義務が含まれています。無断録音行為は、職場の秩序を乱し、同僚の心理的安全性を損なう行為であり、雇用契約の趣旨から見ても明らかに逸脱したものです。
常識的に考えても、会話を無断で録音されるような相手とは、安心して仕事ができません。社内にそのような社員が存在すること自体が、他の社員にとって大きなストレスとなり、職場環境の悪化を招くのは明らかです。無断録音の禁止は、労働契約に基づく正当な規律権の行使として十分に認められる対応です。
無断録音を明示的に禁止する就業規則の意義
無断録音の禁止は、労働契約上当然に認められるとしても、より分かりやすく、強く社員に伝えるためには、就業規則にその旨を明記しておくことが効果的です。多くの就業規則には「社員として相応しくない行為を行ってはならない」という服務規律が定められていますが、それに加えて録音・録画の禁止を明文化することで、より明確な対応が可能となります。
例えば、「勤務中、職場内での無断録音・録画を禁止する」といった条文を定めておけば、注意や懲戒の根拠がはっきりし、社員への説明もしやすくなります。過去に録音トラブルがあった企業であれば、こうしたルール整備はとくに有効です。
「やめなさい」と伝えても止めない社員への初期対応
無断録音の問題に気づき、「録音はやめなさい」と注意しても、それに従わない社員がいる場合、初期対応の仕方が非常に重要になります。まずは軽く済ませようとせず、会議室などに呼び、しっかりと時間を取って面談を行いましょう。立ち話や遠回しな言い方では、「本気で注意されている」とは受け取られません。
面談では、「なぜ録音を禁止しているのか」「それが職場秩序にどのような影響を及ぼすか」といった点を丁寧に説明し、相手の誤解を正していくことが大切です。特に「裁判で証拠になるから正当だ」というような主張には、前述のとおり「裁判で使えることと職場で許されることは別問題」であることを明確に伝えましょう。
反論や言い訳に対しても落ち着いて対応できるよう、事前に要点を整理し、必要であれば弁護士に相談して準備することをおすすめします。
厳重注意・懲戒処分・解雇というステップの考え方
録音行為が繰り返される、あるいは注意に従わない場合には、厳重注意や懲戒処分など、段階的な措置を検討する必要があります。無断録音自体が問題であることに加え、「やめなさい」と指示されたにもかかわらず従わないという点が、さらに重大な服務規律違反と見なされます。
まずは厳重注意書を交付し、その中で具体的にどの行為が問題なのか、どうして禁止されているのかを明記します。それでも改善が見られない場合は、就業規則に基づいて懲戒処分を行いましょう。懲戒処分の内容は事案に応じて異なりますが、継続的かつ悪質な違反がある場合には、より重い処分も視野に入れて判断することが求められます。
トラブル回避のための弁護士への相談活用法
社員が無断録音を正当化し、会社の指示に従わない状況では、感情的にならず、法的根拠を踏まえた冷静かつ一貫した対応が必要です。そのためにも、社内対応の各段階で、弁護士に相談しながら進めることが非常に有効です。
「どのような言葉で注意すべきか」「どのタイミングで厳重注意や懲戒処分に移るべきか」「就業規則や録音禁止規定の文言をどう整備するべきか」など、具体的な助言を受けることで、リスクの少ない対応が可能になります。
また、最終的に解雇を検討せざるを得ないようなケースでは、法的な妥当性と実務上のリスクを慎重に見極める必要があります。解雇トラブルは、会社にとって時間的・経済的な負担が大きいため、専門家の支援を受けることが不可欠です。
四谷麹町法律事務所では、無断録音の問題に関して、録音の禁止規定の整備や、社員への注意指導の方法、懲戒処分の進め方など、実務に即したアドバイスを提供しています。さらに、状況に応じて企業側代理人として、問題社員やその代理人弁護士との交渉を代行することも可能です。
早い段階から適切な対応を行うことで、職場の秩序を守り、無用なトラブルを回避できます。無断録音を繰り返す社員への対応でお困りの際は、ぜひ会社側専門の弁護士にご相談ください。