問題社員

男女トラブルで職場を乱す社員への適切な対応と配転の考え方

動画解説

はじめに

 職場は本来、社員が業務に集中し、力を発揮するための場所です。しかし、同じ部署内での男女交際がこじれてしまい、そのトラブルが職場に持ち込まれると、雰囲気が悪化し、業務に支障が出ることがあります。単なるプライベートの問題と片付けられないのは、こうしたトラブルが他の社員にも悪影響を及ぼし、組織全体の生産性やチームワークに深刻なダメージを与えかねないからです。

 実際に「相手と同じ部署では働きたくないので異動させてほしい」といった訴えが出てしまうと、会社としても対応を迫られます。経営者や管理職からすれば、私生活にまで干渉することには抵抗を覚えるかもしれません。しかし、職場の秩序や業務の円滑な遂行が脅かされるのであれば、会社として一定の対応を取らざるを得ません。

 本コラムでは、男女トラブルが職場に及ぼす影響を踏まえつつ、配置転換の検討や調査の進め方、さらには男女交際を禁止できるかといった法的観点まで、実務的に考えるべきポイントを整理して解説していきます。

職場で男女トラブルが発生した場合の影響

 男女間のトラブルは、当事者同士の感情的な問題にとどまらず、周囲の社員や部署全体に波及するリスクがあります。仲が良好な間は特に問題が表面化しなくても、関係が悪化したとたんに口をきかなくなったり、業務連絡を拒否したりするなど、業務遂行に支障をきたす行動に発展しやすいのです。そうなれば、プロジェクトの進行が滞り、チーム全体のパフォーマンスが低下してしまいます。

 また、当事者の態度が険悪であれば、他の社員もその雰囲気に巻き込まれます。「どちらかに肩入れすると自分が居づらくなるのではないか」といった心理的負担を感じたり、部署全体がギクシャクしてコミュニケーションが減少したりする可能性もあります。こうした状態が長引けば、モチベーション低下や離職にもつながりかねません。

 さらに、セクハラやパワハラの疑念が生じるケースでは、会社の対応が不十分であった場合に法的リスクを負う可能性もあります。男女交際がもとでトラブルになったとしても、実際のところは「相手の一方的な言動に耐えられなかった」というケースもあり得るからです。そのため、会社が「プライベートの問題だから」と放置してしまうと、後から「適切に対応していなかった」と責任を問われることもあり得ます。

 このように、職場に男女トラブルが持ち込まれることは、単なる私的な問題ではなく、組織全体の健全な運営を揺るがす重大なリスクです。だからこそ、経営者や管理職は、事態を軽視せず早期に対処する姿勢が求められます。

配置転換の必要性と判断基準

 男女間のトラブルが職場に影響を及ぼしている場合、最も有効な手段のひとつが配置転換です。確かに発端はプライベートな問題かもしれません。しかし、現実に当事者同士が同じ部署で働くことによって雰囲気が悪化し、業務に支障が出ているのであれば、それはもはや個人の問題ではなく「職場の問題」です。経営者としては、組織全体の秩序と生産性を守るために対応せざるを得ません。

 配置転換を検討する際に重要なのは「問題の程度」と「職場環境への影響」です。たとえば、口もきけないほど関係が悪化し、業務連絡が滞るような場合や、周囲の社員まで不安や不満を感じているような場合には、できる限り二人を引き離すべきでしょう。反対に、席が離れていて業務上の接点も少なく、多少ぎこちなさはあるものの仕事は進んでいる場合などは、無理に配置転換をせず注意指導やフォローで対応できる場合もあります。

 判断基準のひとつは「どちらに責任があるのか」です。セクハラなど明確に一方の問題行動が認められる場合には、加害者側を異動させるのが原則です。他方で、明確な加害・被害の区別がつかない単純な交際関係の破綻であれば、両者の業務上の役割や適性、部署の人員状況などを考慮しながら、どちらを動かすのが現実的に妥当かを総合的に判断する必要があります。

 また、当事者の希望も参考にはなりますが、それだけで決めるわけにはいきません。組織全体の効率性や公平性を損なわないように配慮しつつ、本人の意向を適度に反映させる形で判断していくのが望ましいといえます。

 このように、配置転換は簡単に決められるものではなく、複数の事情を慎重に検討したうえで最終的に経営者が責任をもって判断することが求められます。

実態調査の重要性

 男女トラブルに関する問題で最も注意すべきなのは、安易に表面的な情報だけで判断しないことです。周囲の社員の噂や、当事者の一方だけの主張に基づいて結論を出してしまうと、誤った対応につながり、さらに職場の混乱を招いてしまう危険があります。そのため、まずは事実関係を正確に把握するための「実態調査」を丁寧に行うことが不可欠です。

 実態調査では、当事者双方からの事情聴取が基本となります。被害を訴える側の言い分だけでなく、加害者とされる側の主張もしっかりと聞き、客観的な証拠と照らし合わせながら判断していく必要があります。LINEやメールなどのやり取りが残っていれば、可能な範囲で提出を依頼し、それを参考にすることも有効です。また、発言や行動の食い違いが大きい場合には、当時の状況を知る第三者の社員から事情を聴取するなど、補足的な調査を行うこともあります。

 このように、調査を丁寧に行うことで「単なる交際関係の破綻」なのか「セクハラやパワハラに該当する問題行為」なのかを見極めることができます。もし誤った認識で対応してしまえば、本来守るべき社員を守れないどころか、不必要な処分や異動を行ってしまう可能性があるため、調査の精度が非常に重要となるのです。

 経営者や管理職としては、迅速な対応も求められますが、拙速な判断は避けなければなりません。十分な実態調査を行ったうえで、初めて正しい対応方針を決めることができるのです。

経営者が負う判断責任

 実態調査を行った後、最終的にどのような措置を取るのかを決断するのは経営者の役割です。たとえ人事部や弁護士に相談して助言を受けたとしても、最終責任を負うのは会社のトップである経営者です。どちらを異動させるのか、あるいは異動を見送るのか、その決定には常にリスクが伴いますが、判断を先延ばしにすればするほど職場全体に悪影響が及んでしまいます。

 経営者の判断において重要なのは「会社全体にとって何が最も望ましいか」という視点です。当事者の希望も大切ですが、それだけで結論を出すと不公平感を生んだり、他の社員の不信感を招いたりするおそれがあります。したがって、事案の性質や会社の規模、配転可能な部署の有無など、複数の事情を総合的に考慮し、最終的な決断を下す必要があります。

 経営者がこうした判断を行う際には、どうしても「絶対に正しい」選択肢が存在しない場合が多いものです。いずれを選んでも一定のリスクが残ることを前提に、それでも会社にとって最も妥当と考えられる対応を選び取るのが経営者の責任です。その姿勢こそが、社員たちに「会社は問題を真剣に受け止めている」という信頼感を与え、組織全体の安定につながります。

男女交際禁止は可能か

 今回のようなトラブルに直面すると、経営者として「いっそ社内や同じ部署での交際自体を禁止できないか」と考える方も少なくありません。しかし、社員の私生活に対する規制は、法的にも社会通念的にも大きな制約があります。特にプライベートな時間や会社外での交際まで禁止することは、合理性を説明できなければ違法・無効と判断されるリスクが高いといえます。

 合理性を説明できる場面としては、例えば特殊な職務で男女交際が業務の公正性に直結してしまう場合など、ごく限られたケースにとどまります。一般企業で「同じ部署内での交際禁止」を服務規律として定めることは不可能ではありませんが、それを破ったからといって直ちに懲戒処分が認められるかというと、かなりハードルは高いのが実情です。

 むしろ現実的な対応としては、交際そのものを禁止するよりも「仕事中は仕事に専念すること」「会社施設内で過度な私語や親密な振る舞いをしないこと」といったルールを明確にし、職場環境に支障が出ないように管理していくことが有効です。加えて、もし交際関係が原因で人間関係が悪化するおそれがある場合には、必要に応じて配置転換を検討する方が、実務上も法的にも妥当といえるでしょう。

 つまり、男女交際を一律に禁止するという発想ではなく、職場での秩序維持に必要な範囲でルールを整え、問題が生じた際には配置転換や注意指導などで柔軟に対応することが、経営者にとって現実的かつリスクの少ない解決策となります。

まとめ

 男女間の交際は本来プライベートな領域に属するものであり、会社として完全に規制することは難しいものです。しかし、交際がこじれてトラブルに発展し、職場の雰囲気や業務に悪影響を及ぼすようになれば、それは明らかに経営者が対応しなければならない「職場の問題」となります。

 基本的な対応の方向性としては、まず実態調査を丁寧に行い、どちらに非があるのか、セクハラやハラスメントといった違法行為が含まれていないかを確認することが重要です。その上で、問題が大きければ配置転換などを検討し、当事者同士を引き離すことで組織全体への影響を最小限にとどめることが望ましいでしょう。

 また、男女交際そのものを禁止するという対応はハードルが高く、現実的ではありません。むしろ「勤務中は仕事に専念すること」「会社施設内では過度に親密な態度を取らないこと」といったルールを明確にし、秩序を維持する仕組みを整える方が実効性があります。

 経営者にとって難しい判断を迫られる場面ではありますが、曖昧に放置してしまうと職場全体の士気が下がり、生産性にも悪影響を及ぼしかねません。個別の事情を丁寧に見極めつつ、必要であれば弁護士などの専門家に相談し、法的リスクを回避しながら最善の選択をしていくことが大切です。

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