担当業務の変更に応じない社員への対応法とは?辞めさせずに納得を引き出す経営判断

目次
動画解説
担当業務の変更を拒む社員が増える背景とは
「人手不足の部署があるため、今いる社員に担当業務の変更をお願いしたいが、誰も応じてくれない」。このような状況に頭を悩ませる経営者は少なくありません。特に人手不足が慢性化している企業では、限られた人員をやりくりして業務を回す必要があるため、担当業務の柔軟な移動は避けて通れない課題となっています。
しかし、実際には「今の仕事を続けたい」「その仕事はやりたくない」といった理由から、社員が担当業務の変更に応じないケースが増えているのが現状です。やりたい仕事や関心のある業務は人それぞれ異なり、すべての社員が会社の都合に快く応じるわけではありません。
加えて、会社側としても「命令に従わなければ処分」といった強硬策に出にくいという現実があります。せっかく育った社員に辞められてしまえば、かえって業務に支障をきたし、問題が深刻化してしまいます。たとえ契約上、会社に担当業務の変更を命じる権限があったとしても、それだけで問題が解決するわけではありません。
このような背景から、企業が担当業務の変更を実現するためには、単なる命令や形式的な説明では不十分であり、「社員を納得させ、協力を得るための丁寧な対応」が必要となっているのです。
「命令できる権限がある」だけでは問題は解決しない
担当業務の変更について、就業規則などに基づいて「会社には業務を変更する権限がある」と説明するのは、法的には正しい対応です。多くの正社員には、特定の職種や業務に限定されない「包括的な職務内容」が契約上設定されており、会社側には業務命令や配転を命じる権限があるとされています。
しかし、現場の実情としては、それだけで問題が解決するわけではありません。人手不足の中で社員が辞めてしまえば、会社はさらに厳しい状況に追い込まれます。「従わないなら懲戒や解雇もある」と伝えることは理屈の上では可能でも、実際にそれを行えば、労働力を失い、会社側の損失が大きくなってしまうのです。
また、業務の変更に納得していない社員を無理に配転したとしても、モチベーションが低下したり、業務の質が下がったりする可能性があります。命じた通りに形式的には業務に就いたとしても、内心の不満がくすぶったままでは、戦力として十分に機能しないケースも少なくありません。
したがって、形式的な権限だけに頼った命令ではなく、社員に対して「なぜこの業務変更が必要なのか」「なぜあなたにお願いするのか」を丁寧に伝え、理解を得る努力が不可欠です。経営者には、「説得」という姿勢で向き合うことが、結果的に会社全体の安定と生産性を守る近道となるのです。
経営者に求められる「説得」という発想
人手不足の状況下で担当業務の変更が必要になったとき、経営者に求められるのは「説得する」という発想です。契約や就業規則を根拠に「命令だから従いなさい」と伝えることもできますが、それだけでは社員の納得を得られず、結果的に戦力として活躍してもらえないこともあります。
特に今のように転職市場が活発で、社員が比較的容易に他の職場を選べる時代においては、少しの不満が離職のきっかけになることも少なくありません。会社としても辞められては困るという立場であればこそ、単に命令を下すのではなく、「この状況を理解してもらい、自発的に協力してもらう」という姿勢が不可欠です。
説得というのは単にお願いをするという意味ではありません。会社としての状況、担当業務を変更する理由、社員にとってのメリットや見通しなどを具体的かつ誠実に説明し、「なるほど、それならやってみようか」と思ってもらえるようにすることが、説得の本質です。
命令ではなく、説明と対話によって納得を引き出す。この考え方は、経営者が社員の信頼を得て、組織を動かしていくうえで欠かせない基本的な姿勢であり、特に人手不足の今こそ、その重要性が高まっています。
説得のために説明すべき二つのポイント
担当業務の変更に関して社員を説得する際、経営者が必ず押さえておくべき説明の柱が二つあります。
一つ目は**「なぜ業務の変更が必要なのか」という理由の説明、二つ目は「変更後の労働条件」**についての具体的な説明です。
まず最初の「業務変更の必要性」については、多くの企業が形式的な説明にとどまってしまう傾向があります。「就業規則に書いてあるから」「配転は会社の裁量だから」といった言葉では、社員の心には響きません。必要なのは、会社が今どのような状況にあり、なぜその社員に移ってもらいたいのかという現実的・具体的な説明です。
たとえば、「こちらの部署は人員が確保できているが、別の部署は人手不足で深刻な状況にある」「採用も難航している」「他の社員と比較して、あなたのスキルや適性がその業務にもっとも合っていると判断した」といった形で説明を加えることで、社員も会社の事情を理解しやすくなります。
次に、変更後の労働条件についても丁寧な説明が不可欠です。新しい業務内容や、サポート体制、不安への配慮、必要があれば元の業務に戻る可能性や時期の目安、そして収入に関わる情報(例:手当の上乗せや給与への影響)など、できる限り具体的に示すことが、社員の納得感を高めます。
この二つの説明があって初めて、社員は「自分の立場を理解しようとしてくれている」と感じます。説得は、内容の正確さと誠意ある伝え方があってこそ成立します。次項からは、それぞれの説明ポイントをより詳しく見ていきましょう。
担当業務の変更が必要な理由の伝え方
社員に担当業務の変更をお願いする際に最も重要なのは、その必要性を「具体的に」「誠実に」説明することです。ただ「人手が足りないから」「会社の命令だから」と伝えるだけでは、社員にとっては納得しづらく、かえって不信感を生むこともあります。
まず伝えるべきは、会社が直面している実情です。たとえば、「〇〇部署では人員が不足していて、現場が回らない状況にある」「一方で、今あなたが担当している部署は比較的体制が安定しており、人手の余裕がある」など、社内全体の状況を丁寧に伝えましょう。背景に採用難がある場合は、それも正直に話すべきです。
さらに重要なのが、なぜその社員に依頼するのかという点です。「あなたのこれまでの仕事ぶりを見て、新しい業務でも十分に対応できると判断した」「〇〇さんや△△さんも検討したが、あなたが一番適任だと考えている」といったように、選んだ理由を個別に伝えることで、「単に都合よく使われているのではない」と感じてもらうことができます。
このように、業務変更の必要性を伝える際は、「会社全体としての事情」+「あなた個人を評価していること」の2軸で話を進めることが有効です。形式論に頼らず、経営者自身の言葉で、今会社が何に直面していて、なぜこの変更が不可欠なのかをしっかり説明することが、社員の理解と協力を得る第一歩になります。
変更後の労働条件を明確に伝える
担当業務の変更を求める際、社員の不安を和らげ、納得を得るためには、「変更後の労働条件」を具体的に説明することが不可欠です。変更されるのは仕事内容だけではありません。勤務地、業務量、サポート体制、評価基準、待遇など、さまざまな要素が絡んできます。社員がこれらの点について明確に把握できなければ、不安ばかりが先立ち、協力を得るのは難しくなります。
まずは、新しい業務の内容を詳細に伝えましょう。「どのような仕事をするのか」「これまでの経験とどうつながるのか」「どのような支援があるのか」といった点は、本人の安心材料になります。また、業務に慣れるまでのサポート体制や教育の有無も、あらかじめ説明しておくことで、心理的ハードルを下げることができます。
また、元の業務に戻す可能性があるのであれば、その点にも触れて構いません。たとえば、「採用状況が落ち着けば元の業務に戻す予定である」「一定期間は現業務に専念してもらいたいが、その後の復帰も視野に入れている」など、見通しがあることを伝えることは、社員の納得感を高めます。
さらに、待遇面の説明も大きな説得材料となります。多くの企業では業務変更による給与の変更はありませんが、不本意な異動であれば、特別手当や一時金の支給を検討するのも一案です。「協力してくれた社員にはしっかり報いる」という姿勢が伝われば、前向きに受け止めてもらえる可能性が高まります。
このように、業務内容だけでなく、それに伴う条件変更や会社の支援姿勢についても、事前に誠実に伝えることが、説得の成功には欠かせません。内容の説明だけでなく、「どれだけ社員に寄り添っているか」という姿勢そのものが、最終的な協力の可否を左右します。
形式論ではなく「敬意ある伝え方」が信頼を生む
担当業務の変更について話す際、内容そのものと同じくらい重要なのが「どのように伝えるか」です。就業規則や契約内容を根拠に「会社には業務を変更する権限がある」と説明することは間違いではありませんが、これだけでは社員の心に響きません。命令や形式論だけで進めようとすれば、「一方的に押しつけられた」と感じさせてしまい、反発や失望を招くおそれがあります。
社員にとって、納得のいく説明とは「自分が尊重されている」「会社が自分の立場や感情を理解しようとしている」と感じられるような伝え方です。その意味で、敬意を持って接することが、内容以上に重要になる場面も多くあります。
たとえば、普段の業務指示とは異なる、落ち着いた場所で時間を取って説明することで、社員に「この話は真剣に向き合ってくれている」と伝わります。また、話すのが直属の上司ではなく、社長や役員などそれなりの立場の人である場合、会社としての重要性が伝わりやすくなります。
言葉遣いや態度にも細心の注意を払いましょう。「とにかく移ってもらう必要がある」「規則で決まっているから従ってください」という言い方では、相手に軽んじられているという印象を与えてしまいます。逆に、「あなたのことを必要としている」「今の状況で協力してもらえると非常に助かる」といった伝え方であれば、信頼関係を築く土台となります。
敬意ある伝え方は、単に礼儀正しいという意味ではありません。相手を一人の大切な社員として扱い、誠実に話すことで、納得を得やすくなるという、極めて実務的かつ戦略的な行動です。
説明は場の演出と話し手の格で印象が変わる
担当業務の変更について社員に納得してもらうためには、話の「内容」だけでなく、「話す場面」や「誰が話すか」も極めて重要です。言い方ひとつ、場の雰囲気ひとつで、相手が受け取る印象は大きく変わります。これは心理的な説得力にも直結する要素です。
たとえば、通常の業務指示と同じように、忙しい中で立ち話のように伝えたり、「とりあえず話しておこう」という空気感で話すと、社員は「軽く扱われている」「大事な話じゃないのか」と感じてしまいます。その結果、話の真剣さが伝わらず、納得も得られにくくなります。
逆に、会議室など落ち着いた場所を用意し、改まった場面で説明することで、会社としての誠意や真剣さが伝わります。さらに、社長や役員、部門長など一定の「立場」がある人が直接話すことで、会社としてその社員を大切に考えているというメッセージにもなります。
また、資料を用意するというのも一つの工夫です。内容を整理した簡単な書面を渡すことで、話が一方通行で終わらず、社員が後から見返せる形になります。もちろん、記載内容には慎重を期すべきですが、文面に自信がない場合は、弁護士の助力を得ることで安全性を高めることもできます。
このように、伝える「内容」だけでなく、「どういう場で」「誰が」「どのように」伝えるかという点まで配慮することが、社員の納得を得るためには欠かせません。説得とは、情報の伝達ではなく、信頼と理解を築くプロセスなのです。
質問を歓迎し、信頼関係を築く姿勢が説得の鍵
説得の場では、単に一方的に説明するだけでなく、社員からの質問を受け入れる姿勢が非常に重要です。「何か質問はありますか?」と形式的に聞くだけでなく、「ぜひ質問してください」「疑問があれば何でも聞いてください」といった、質問を歓迎する姿勢を明確に示すことが、信頼の土台になります。
社員が異動に不安や疑問を持つのは自然なことです。仕事内容、サポート体制、待遇、将来の見通しなど、心の中に引っかかっていることを質問として口に出せる雰囲気を作ることで、「自分の声を大切にしてくれている」と感じてもらえるようになります。
さらに重要なのは、質問に対して丁寧かつ誠実に答えることです。その場で答えられないことがあれば、「確認してから改めてご連絡します」と真摯に対応し、後日きちんと返答することで信頼感が一層深まります。
また、社員が自ら質問をしなくても、「多くの人が気になることだと思いますが…」と経営者の側から先回りして話題を出すことも、説得の一環として有効です。質問に正面から向き合う姿勢そのものが、社員に対する敬意と信頼の証となります。
説得とは、「納得してもらうための情報を与える」行為であると同時に、「相手の不安や疑問を受け止める」行為でもあります。質問を通じて対話の機会を増やし、社員の理解と協力を引き出していくことが、最終的な合意形成につながります。
無理に従わせず、納得を促すことで戦力化する
業務の都合上、社員に担当業務の変更をお願いせざるを得ない状況は、多くの企業にとって避けがたい現実です。特に人手不足の中では、今いる社員の中で柔軟に対応してもらわなければならないケースも増えてきます。しかし、そこで経営者が見誤ってはならないのは、「従わせること」がゴールではないという点です。
社員が内心納得していないまま業務を変更させられた場合、表面上は従っていても、モチベーションが下がり、業務の質が落ちる可能性があります。ひどい場合には退職を選ばれ、さらに人手不足が深刻化するという悪循環にもつながりかねません。
だからこそ、経営者に求められるのは「命令」ではなく「納得を促す」ことです。会社の事情と社員個人の立場を丁寧にすり合わせたうえで、誠実な説明と敬意をもった対話を通じて協力を得る。そうしたプロセスを経て業務変更が実現したとき、社員は自分が必要とされていると感じ、自発的に戦力として機能するようになります。
また、そうした姿勢を社員が感じ取れば、企業全体としての信頼感や一体感も高まります。経営者が社員の理解を得るために努力している姿を見せることが、他の社員への好影響にもつながるのです。
無理に従わせるのではなく、納得を得て共に進む。この姿勢こそが、経営と人材活用を両立させるうえでの基本であり、会社を持続的に成長させていくための土台となります。
四谷麹町法律事務所では、担当業務の変更に社員が応じない場合の対応について、会社側の立場から具体的なアドバイスを行っています。業務変更の必要性の説明方法、変更後の労働条件の整理、社員への伝え方や文書の準備など、実務に即したサポートを提供しています。
また、「どう説得すればよいのか」「どこまで踏み込んで話してよいのか」「どんな言葉を使うと効果的か」といった、言葉の選び方や伝え方の工夫についても、経験豊富な弁護士が丁寧に対応いたします。必要に応じて、書面の作成や、社員への説明内容のリハーサルも行っています。
社員を納得させて異動に応じてもらうには、法的な知識だけでなく、実践的な配慮とコミュニケーション力が求められます。現場での対応に不安を感じた際は、会社側に特化した四谷麹町法律事務所にぜひご相談ください。