問題社員

挨拶は義務か常識か?職場での位置づけと経営者が取るべき対応を弁護士が解説

挨拶は職場で本当に必要なのか

 挨拶は、社会生活を送るうえで当たり前の行動だと考えられています。特に職場においては、単純な「おはようございます」「お疲れさまです」といった一言が、人間関係を円滑にし、業務をスムーズに進める大きなきっかけとなります。顧客に対してだけでなく、同僚や上司との間で交わす日常的な挨拶も、職場の雰囲気を和らげ、協力関係を築く基盤となります。

 しかし、経営者や上司の立場から見れば「なぜこんな簡単なことができないのか」と感じる社員がいるのも事実です。挨拶は多くの人にとって無意識にできる行為ですが、全員にとってそうであるとは限りません。挨拶が習慣になっていない社員にとっては、声をかけること自体が意識しなければできない行動なのです。

 職場での挨拶は、業務そのものを遂行するために不可欠な行為ではありませんが、人間関係や信頼関係を形成するための重要な要素であることは間違いありません。したがって、挨拶を「必要ない」と片づけてしまうのではなく、その役割を改めて理解したうえで、経営者としてどのように位置づけるかを考える必要があります。

挨拶は労働契約上の義務といえるのか

 挨拶は職場において重要な役割を果たしますが、ではそれが労働契約上の義務とまでいえるのでしょうか。結論からいえば、挨拶そのものが労働契約に明記されているケースはほとんどなく、法的に義務づけられているとは言い難いのが実情です。

 就業規則や労働契約書には、「誠実に勤務する」「秩序を守る」といった抽象的な表現はあっても、「挨拶をすること」と具体的に書かれていることは稀です。したがって、挨拶を怠っただけで直ちに労働契約違反になるとまでは言えません。

 もっとも、顧客対応や取引先との関係においては、挨拶が業務の一部とみなされる場合があります。例えば、営業職や接客業では、挨拶は取引やサービスの信頼性に直結するため、事実上「業務上の義務」に近い性質を持ちます。一方で、社内での同僚や上司との挨拶は、業務遂行に直結しないことが多く、契約上の義務としては扱いにくい領域です。

 このように、挨拶を「労働契約上の義務」とするのは難しい一方で、企業の方針や職場文化として「挨拶を重視する」と明示し、従業員に伝えることで、実質的な行動規範として位置づけることは可能です。義務かどうかという線引きよりも、自社にとって挨拶をどのように意味づけるかが、経営者に求められる視点といえるでしょう。

顧客対応で求められる挨拶の役割

 顧客や取引先とのやり取りにおいて、挨拶は単なる礼儀ではなく、業務の一部としての重要性を持ちます。最初の「おはようございます」「よろしくお願いいたします」といった一言が、その後の会話や交渉の雰囲気を左右し、信頼関係の入り口をつくるからです。

 反対に、相手から挨拶をされても応じなかったり、そっけない態度をとったりすれば、それだけで「不誠実な社員」「対応に不安のある会社」という印象を与えかねません。特に初めての顧客にとって、挨拶をきちんとするかどうかは、企業全体の評価につながる要素となります。

 このため、営業職や接客業など顧客対応が中心となる職種においては、挨拶は「常識」ではなく「業務上必須の行動」と言えます。経営者としても、マニュアルや研修に挨拶を明記し、社員に徹底することで、顧客との信頼を守ることができます。挨拶は小さな行為であっても、その積み重ねが企業の信用力に直結するのです。

社内挨拶は義務ではなく「職場文化」に左右される

 社内での挨拶は、人間関係を円滑にするうえで役立つものですが、顧客対応のように業務遂行に直結するわけではありません。そのため、挨拶をどこまで重視するかは、会社の方針や職場文化によって大きく異なります。

 例えば、チームワークを重視する企業では、出社や退社の際の挨拶を徹底させ、社員同士の連帯感を高める手段としています。反対に、効率や成果を優先する企業では、挨拶よりも黙々と業務を遂行する姿勢を評価することもあります。つまり、同じ「挨拶」であっても、その重要性は企業文化や社風によって大きく変わるのです。

 経営者にとって大切なのは、自社がどのような価値観を大切にしているかを明確にし、それに合わせた方針を示すことです。挨拶を重視する会社であれば、ルールや研修でしっかりと位置づける必要がありますし、逆に重視しないのであれば無理に義務づける必要はありません。職場文化と経営方針の一貫性を保つことが、社員の納得感を得るうえで不可欠なのです。

義務化するならルールやマニュアルで明確に示す

 もし経営者が「挨拶を必ず実践してほしい」と考えるのであれば、曖昧な期待にとどめるのではなく、ルールやマニュアルで明確に示すことが必要です。「常識だから」「空気を読めばわかるはずだ」と思っていても、挨拶が習慣になっていない社員にとっては行動につながりません。

 まずは「挨拶をするように」とはっきり伝えることが第一歩です。そのうえで、マニュアルに「出社時・退社時は必ず挨拶をする」「顧客に会ったら最初に挨拶をする」といった形で具体的に定めれば、社員も指示として理解しやすくなります。

 また、ルール化は単に強制するためだけでなく、社員が安心して行動できる基盤をつくる効果もあります。「これが会社の方針だ」と明確になれば、個人ごとの判断に委ねられる余地が少なくなり、職場全体で統一された行動がとれるようになります。

 経営者が挨拶を重要視するのであれば、その思いをルールとして形にし、誰もが迷わず実践できる環境を整えることが大切です。

経営者や管理職が率先して示すべき姿勢

 挨拶を職場に浸透させたいと考えるのであれば、経営者や管理職が率先して行動で示すことが不可欠です。上からの指示だけでは「なぜ自分たちだけがやらなければならないのか」という不満を生みかねませんが、上司や先輩が自然に挨拶している姿を日常的に見れば、社員も「これはこの職場の当たり前なのだ」と受け止めやすくなります。

 特に顧客対応の場では、経営者や上司が模範を示すことが社員への最も効果的な教育となります。社長や上司が顧客に対して明るく挨拶している姿を目の当たりにすれば、社員もそれを真似しやすくなり、指示よりも強い影響力を持ちます。

 一方で、経営者や管理職自身が挨拶をしていない職場では、いくら社員に指導をしても説得力を持ちません。社員からすれば「なぜ自分だけが」と考えてしまうのも無理はないでしょう。だからこそ、まずは経営者や管理職自身が挨拶を徹底し、手本を示すことが重要です。

 挨拶は職場文化の象徴ともいえます。その文化を根づかせるためには、言葉よりも行動で示すリーダーシップが求められるのです。

常識と契約のあいだで経営者が取るべきスタンス

 挨拶は、社会的には「常識」とされる一方で、労働契約上の明確な義務とまでは言い難い行動です。この中間的な性質ゆえに、経営者がどう位置づけるかによって、職場での意味合いが大きく変わります。

 もし「挨拶は会社にとって重要だ」と考えるのであれば、ルールやマニュアルで明示し、教育や研修を通じて従業員に浸透させる必要があります。その際、経営者や管理職が率先して挨拶を行うことが、文化を根づかせるうえで何よりも効果的です。

 一方で、挨拶が業務遂行に必ずしも直結しない場合には、過度に義務化することが逆効果となることもあります。挨拶をしないことを懲戒処分の対象とするのは難しいケースが多く、処分よりも教育や習慣化の指導を優先させる方が現実的です。

 つまり、経営者が取るべきスタンスは「自社では挨拶をどのように位置づけるのか」を明確に定め、その方針を一貫して示すことにあります。常識と契約の狭間で迷うのではなく、経営理念や職場文化と整合性を持たせた対応をとることで、社員も納得しやすくなり、結果として挨拶が自然と根づいていくのです。

新着記事

  • 挨拶しない社員を懲戒処分すべき?経営者が取るべき対応を弁護士が解説

  • 挨拶は義務か常識か?職場での位置づけと経営者が取るべき対応を弁護士が解説

  • 挨拶ができない社員の対処法とは?常識と労務管理の両面から考える

  • 年休取得を「拒否できる状況」とは?時季変更権の誤解と正しい理解

  • 時季変更権の誤った行使が企業に与えるリスクとは?管理職任せにしない労務管理のポイント

過去記事

オンライン経営労働相談

会社経営者を悩ます労働問題は、四谷麹町法律事務所にご相談ください。
労働問題の豊富な経験と専門知識で、会社経営者の悩み解決をサポートします。

経営労働相談のご予約はこちら