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挨拶しない社員を懲戒処分すべき?経営者が取るべき対応を弁護士が解説

挨拶をしない社員への不満と経営者の悩み

 「挨拶ができない社員がいる」という相談は、経営者や人事担当者からよく寄せられるテーマのひとつです。挨拶は人間関係を円滑にし、職場の雰囲気を和らげる効果があります。それにもかかわらず、簡単な「おはようございます」「お疲れさまです」といった言葉をかけない社員が存在することに、困惑や苛立ちを覚える経営者も少なくありません。

 挨拶をしないことが続けば、同僚や上司との関係が悪化し、組織の協力体制にも影響を及ぼします。さらに、顧客や取引先に対して挨拶を怠れば、会社全体の信頼性を損なうリスクすらあります。そのため、経営者としては「このまま放置してよいのか」「懲戒処分など強い対応が必要なのか」と悩む場面が出てくるのです。

 しかし、挨拶をしないこと自体を懲戒処分の対象にできるのかどうかは、実務上非常に判断が難しい問題です。ここからは、挨拶と懲戒処分の関係について整理していきます。

挨拶は懲戒処分の対象になるのか?

 挨拶をしない社員に対して「懲戒処分はできるのか」という問いは、多くの経営者が抱える疑問です。結論からいえば、挨拶を怠っただけで直ちに懲戒処分の対象とするのは難しい場合が多いといえます。

 労働契約や就業規則の中で、挨拶そのものを具体的に義務づけているケースはほとんどありません。一般的に記載されているのは「誠実に勤務する」「職場の秩序を守る」といった抽象的な規定です。したがって、挨拶をしないことを理由に懲戒事由として直ちに認めるのは難しいのです。

 もっとも、顧客や取引先との関係においては、挨拶が業務の円滑な遂行に直結します。この場合、会社として「業務上の必要行為」と位置づけることは可能です。その一方で、社内の人間関係における挨拶については、契約上の義務というよりも「常識」や「職場文化」の問題と捉えられることが多く、懲戒処分の根拠とするには不十分な場合が少なくありません。

 したがって、懲戒処分の可否を判断するには「業務上どの程度必要なのか」「会社が事前にどのようにルール化していたのか」を確認することが不可欠になります。

懲戒処分の可否を判断する二つのポイント

 挨拶をしない社員に対して懲戒処分を検討する場合、最も重要となるのは「業務上の必要性」と「ルール化の有無」という二つの観点です。

 まず、業務上の必要性です。顧客や取引先に対応する職種では、挨拶が信頼関係を築くための基本行動であり、業務遂行に直結します。そのため「挨拶が欠ければ業務に支障が出る」と説明できるケースでは、一定の懲戒処分を検討する余地が出てきます。一方で、社内の人間関係にとどまる場合には、挨拶が業務に不可欠とまでは言いにくく、懲戒処分の根拠としては弱くなります。

 次に、ルール化の有無です。就業規則やマニュアル、社内研修などで「挨拶をすること」を明確に示しているかどうかが、懲戒処分の妥当性を左右します。単に「常識だから」「空気を読めば分かるはず」といった前提では、懲戒処分を正当化することは困難です。会社として挨拶の必要性を明示していたかが重要な判断材料となります。

 この二つの要素を踏まえずに懲戒処分を行えば、不当な懲戒として争われるリスクもあります。懲戒処分を検討する際は、まず「業務上の必要性」と「ルール化の有無」を冷静に確認することが不可欠です。

実務上は軽い懲戒処分にとどまるケースが多い

 挨拶をしない社員に対して、いきなり重い懲戒処分を行うことは実務上ほとんどありません。たとえ顧客対応に支障があったとしても、まずは注意や指導といった軽い対応から始めるのが一般的です。

 その理由は、挨拶の有無が直接的に業務成績や成果に結びつくケースは限られているからです。もちろん印象や信頼性には影響しますが、数値で示せるような業務成果に直結するとは言いにくいため、いきなり重い懲戒処分を行えば「行き過ぎた対応」として不当と判断されるリスクがあります。

 また、挨拶が習慣化していないだけの社員にとっては、繰り返しの教育や指導で改善が期待できる場合も多いです。こうしたケースでは、戒告や口頭注意といった軽い懲戒処分にとどめることで十分な効果が得られます。

 懲戒処分はあくまで最終手段であり、教育や職場文化の醸成によって改善できる余地があるうちは、軽い懲戒処分で対応するのが適切だといえるでしょう。

重い懲戒処分を行う場合に必要な根拠とは

 挨拶をしない社員に対して重い懲戒処分を科すには、それに見合うだけの明確な根拠が必要です。単に「常識だから」「雰囲気が悪くなるから」という理由では、懲戒処分を正当化するのは困難です。

 重い懲戒処分を検討できるのは、挨拶を怠ることが直接的に業務の遂行を妨げている場合です。たとえば、顧客や取引先に対して継続的に挨拶を拒み、取引関係が悪化したり、会社の信用に重大な影響が及んだ場合には、懲戒処分の必要性を説明しやすくなります。

 さらに、会社として事前に「挨拶をすること」を明確に指示し、ルールとして定めていたかどうかも重要です。明確なルールがあり、それを繰り返し伝えても改善が見られなかったという経緯があれば、懲戒処分の合理性が強まります。

 要するに、重い懲戒処分を行うためには「業務上の重大な必要性」と「明確なルール違反」という二つの条件を満たすことが不可欠です。この説明ができないのであれば、重い懲戒処分は避けるべきでしょう。

懲戒処分より教育・習慣化を優先すべき理由

 挨拶をしない社員への対応では、懲戒処分に踏み切る前に、教育や習慣化の指導を優先することが望ましいといえます。その背景には、挨拶をしない社員の多くが「反抗心から意図的に挨拶を拒んでいる」のではなく、単に挨拶の重要性を理解していなかったり、習慣として身についていないだけという事情があるからです。

 挨拶が自然に出てくる人にとっては「なぜそんな簡単なことができないのか」と感じられるかもしれません。しかし、習慣がない人にとっては、挨拶をするために意識を切り替える必要があり、その負担は想像以上に大きいこともあります。そのため、繰り返しの教育や声かけによって少しずつ意識を促し、行動を定着させていくことが効果的です。

 懲戒処分は一時的な戒めにはなりますが、根本的な改善につながらないことも少なくありません。むしろ、適切な教育や繰り返しの指導を行うことで、挨拶が自然に身につき、職場全体の雰囲気が改善する可能性があります。経営者としては、懲戒処分を急ぐのではなく、教育と習慣化を通じて社員の行動を育てる姿勢を持つことが重要です。

苦手な社員には適正配置という選択肢も

 挨拶の重要性を理解していても、どうしても声に出せない、あるいは強い苦手意識を持つ社員もいます。定型的な「おはようございます」さえも負担に感じてしまう人は少数ながら存在し、努力や教育だけでは改善が難しい場合もあります。

 このようなケースでは、懲戒処分によって改善を迫るよりも、適正配置を検討することが有効です。たとえば、顧客対応が中心の部署では挨拶が業務に直結しますが、社内作業や専門職的な業務では挨拶の比重がそれほど高くないこともあります。本人が活躍しやすい環境に配置転換することで、会社にとっても社員にとってもプラスになる可能性があります。

 もし自社に適した部署がない場合には、本人の適性を踏まえて転職を検討せざるを得ないケースもあります。挨拶が苦手という特性を「努力不足」と片づけるのではなく、一つの適性として理解し、配置や業務内容を柔軟に考えることが、長期的には会社全体のパフォーマンス向上につながります。

まとめ:懲戒処分に頼らず職場文化としての定着を目指す

 挨拶をしない社員への対応は、経営者にとって悩ましい問題です。顧客対応においては業務上不可欠な行為であり、場合によっては懲戒処分の対象となり得ますが、多くのケースでは重い懲戒処分に踏み切るほどの根拠を見いだすのは難しいのが現実です。

 懲戒処分を行うかどうかを判断するには、まず「業務上の必要性」と「ルール化の有無」という二つのポイントを確認する必要があります。とはいえ、実務では軽い注意や戒告にとどまることが多く、重い懲戒処分を行うには明確な根拠が欠かせません。

 一方で、挨拶をしない社員の多くは習慣がないだけであり、教育や繰り返しの指導を通じて改善できる可能性があります。さらに、どうしても苦手意識が強い場合には、適正配置を検討することも一つの有効な手段です。

 最終的に重要なのは、懲戒処分に頼るのではなく、会社全体で挨拶を大切にする文化を醸成することです。経営者や管理職が率先して手本を示し、職場の一体感をつくり出すことで、自然と挨拶が定着し、組織全体の信頼性と雰囲気の改善につながっていくでしょう。

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