報連相ができない社員の対処法とは?人事管理の観点から適切な対応を解説

目次
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報連相の重要性と下手な社員が起こす問題
報告・連絡・相談、いわゆる「報連相」は、チームで仕事を進めるうえで欠かせない基本中の基本です。特に業務が複数人で関わりあって進行するような職場では、情報共有がスムーズにできないと、仕事の進行に遅れやミスが生じやすくなります。
たとえば、報告がなければ進捗が見えず、必要な判断を下すタイミングを逃してしまうことがあります。連絡が漏れれば、関係者が準備できておらずトラブルの元になります。相談がされなければ、間違った方法で仕事が進んでしまい、大きな損失や後戻りが発生する可能性すらあります。
このように、報連相が下手な社員がいると、チーム全体の生産性を下げ、信頼関係にも悪影響を与えかねません。最悪の場合、他の社員のモチベーションが低下し、職場の雰囲気まで悪くなることもあるのです。
したがって、報連相が苦手な社員に対しては、放置するのではなく、会社としてきちんと向き合っていく必要があります。そのために最初にやるべきことが、報連相の「範囲」を明確に伝えることです。
報連相すべき範囲を明確に伝える必要性
報連相がうまくできない社員に対して、まず最初に会社や管理職が行うべきことは、「何を報連相すべきか」という範囲を明確に伝えることです。ここをあいまいにしたままでは、社員が何を報告・連絡・相談すればよいか分からず、当然ながら行動にもつながりません。
この「範囲」の設定は、実は裁量の設定とも密接に関わっています。裁量が広ければ、そのぶん報連相すべき範囲は狭くなります。一方で、裁量が狭い社員に対しては、細かいことまで報連相してもらわなければなりません。つまり、「どこから先は報連相が必要なのか」というラインを決めるのは、社員本人ではなく、管理職や最終的には経営者の役割なのです。
よくある失敗は、「自分の頭で考えてやってみて」と声をかけておきながら、結果として「なんで報告しなかったの?」と叱ってしまうケースです。これは報連相の範囲が不明確なことによる典型例であり、実質的に社員を混乱させてしまっています。
「このレベルの判断は報告が必要」「これは相談の上で決めるべき」「この連絡は関係部署にも伝えておくこと」など、具体的な基準を持ち、それを本人にしっかり伝えることが重要です。それだけでも、報連相の抜けや漏れは大きく減少するものです。
報連相が下手な社員に対して、「なぜできないのか」と責める前に、「何をすべきか」が伝わっているかどうかを振り返ることが、改善の第一歩になります。
裁量と報連相の関係を設計する
報連相の適切な実施には、「裁量の設計」が密接に関係しています。社員にどの程度の裁量を与えるかによって、求められる報連相の頻度や範囲が大きく変わってくるからです。これを意識せずに曖昧なままにしてしまうと、報連相の不足や過剰によって業務の非効率が生まれたり、トラブルの温床となったりすることがあります。
たとえば、経験豊富で判断力もある社員に対しては、ある程度の裁量を持たせ、判断を委ねる代わりに、重要事項だけを報告・相談させるという運用が可能です。一方で、報連相が下手な社員、あるいは経験の浅い社員には、裁量を絞り、細かい内容もすべて報連相するよう明確に指示を出す必要があります。
実際には、「自分で考えてやってみていいよ」と言いながら、「なぜ相談しなかったのか」と後から叱る、といった矛盾した対応が現場でよく見られます。こうした対応は、社員の混乱と不信感を招き、結果として報連相の悪化を招く要因となります。
重要なのは、経営者や管理職が「この社員にはどこまでの判断を任せられるのか」「何を相談や報告の対象にするのか」という基準を明確にし、その方針に一貫性を持たせることです。本人に判断力があると信じて裁量を与えるのであれば、その結果についての報告義務をあえて課さないという選択もできますし、反対に慎重な管理が必要だと判断するのであれば、逐一の報連相を義務付けるべきです。
つまり、報連相の問題は単なる社員の能力不足ではなく、「その社員に与えている裁量設計の問題」でもあるのです。誰にどの範囲まで任せるかという設計力こそ、管理職や経営者に求められる重要な視点と言えるでしょう。
明確な指示を出しても報連相しない場合の原因と対応
報連相の範囲や裁量を明確に伝えているにもかかわらず、社員が報連相をしないというケースも少なくありません。このような場合、問題の根本には「理解不足」と「意識の低さ」のどちらか、または両方が潜んでいることが多いです。それぞれの原因に応じて、適切な対処を講じていく必要があります。
まず考えられるのは「理解不足」です。こちらが丁寧に説明したつもりでも、相手にとっては十分に理解できていなかった、あるいは実務の中でうまく応用できていないといったケースです。この場合は、繰り返し説明を行い、具体例を交えて再度指導することが必要です。単に「しっかり報告しろ」と言うだけではなく、「どのような状況では何を報告するべきか」という基準を明示して共有することが重要です。
それでも改善が見られない場合は、能力的な問題、つまり「適性」の欠如が疑われます。特に臨機応変な対応が求められる職種では、その適性がない社員に対して「判断して行動せよ」と求めること自体が無理な場合もあります。報連相が下手な社員に対して「臨機応変にやってほしい」という指示は、むしろ失敗を招く要因になるため、現実的な指導としては不向きです。
もう一つの原因が、「意識の低さ」、すなわち報連相を「やるべきもの」として真剣に受け止めていない状態です。これは、会社や上司の指示に対する尊重の欠如、あるいは業務遂行に対する責任感の不足といった、態度面の問題が根底にある可能性があります。このような場合には、ただの注意では効果が薄く、面談による厳正な指導や、場合によっては業務命令として書面で明示する対応が求められます。
社員に対して「なぜ報連相ができていないのか」を正確に分析することが、次の対応策を決めるうえでの出発点になります。そして、その対応は一律ではなく、原因に応じて異なるアプローチを取ることが、改善への最短ルートになるのです。
「理解不足」なのか「意識が低い」のか:原因で異なる対応
報連相ができない社員に対しては、その原因が「理解不足」なのか「意識が低い」のかによって、取るべき対応がまったく異なります。この見極めを誤ると、適切な指導ができず、かえって状況が悪化してしまうこともあります。ここでは、それぞれのケースに応じた具体的な対処法を解説します。
まず「理解不足」のケースです。このタイプの社員は、報連相の重要性は理解していても、どの場面で、何を、誰に、どう伝えればよいかという判断が苦手です。つまり、“わかっているけどできない”状態にあるといえます。このような社員には、何度も繰り返して指導し、判断に迷ったときには必ず報連相を行うよう徹底して伝える必要があります。
「迷ったら報連相」というルールを明確にしておくことで、本人の判断基準を補うことができます。指導にあたっては、「このケースでは報告が必要」「このレベルの相談は上司を巻き込む」など、具体的な事例を使って伝えるのが効果的です。報連相を体系的に整理して共有できるチェックリストやガイドラインを作成することも有効です。
一方、「意識の低さ」が原因である場合は、根本的に本人の態度に問題があります。これは、業務命令を軽視している、上司の指示に従う意欲が乏しいといった状況であり、報連相の必要性自体を理解していても「面倒くさい」「自分の判断で進めたい」といった理由で意図的に怠っていることもあります。
このような社員には、まず面談を通じて指示違反であることを明確に伝え、今後の対応方針を話し合う必要があります。面談だけで効果が見られない場合は、業務指示を文書化し、明文化された命令として与えるべきです。これに違反した場合には、厳重注意や懲戒処分といった措置も視野に入れる必要があります。
つまり、理解不足には「教育」と「支援」を、意識の低さには「指導」と「管理」を徹底する。この区別をしっかりと行ったうえで、社員一人ひとりに適切な対応をとっていくことが、報連相の質を高め、業務全体の円滑化につながります。
書面・業務命令化・懲戒の検討
報連相ができない社員に対して、口頭での指導や面談を繰り返しても改善が見られない場合、会社としてはより明確で強い手段を講じる必要があります。その代表的な手法が「書面による業務指示」と「懲戒処分の検討」です。
まず、業務指示を文書化する目的は、何をどうすべきかを明確にし、曖昧さを排除することにあります。たとえば、「この種類の案件は必ず上司に報告すること」「取引先とのトラブルが発生したら、当日中に相談すること」など、具体的かつ明快に記載することで、社員の認識のズレを防ぐことができます。
書面指示の利点は、それが「公式な業務命令」として残る点です。つまり、それに従わなかった場合には、命令違反として扱うことが可能となります。こうした書面は、口頭の注意や面談の記録とあわせてファイリングし、後々の証拠として活用できるようにしておくことも大切です。
そして、それでも改善が見られず、明確な業務命令に繰り返し違反するようであれば、「業務命令違反」として懲戒処分の対象となることもあります。これは「報連相しなかった」という行為そのものよりも、「必要な業務命令に従わなかった」という点が問題とされるのです。
懲戒処分には段階があります。初回は「厳重注意書の交付」にとどめ、再発があれば「減給」「出勤停止」「けん責」など、会社の就業規則に定めた手続きに従って対処していく必要があります。もちろん、処分に踏み切る前には、面談や警告書の交付など、段階的な手順を踏むことが求められます。
社員にとっても会社にとっても、懲戒処分は最後の手段であるべきです。しかし、報連相ができないことが業務全体に深刻な影響を与え、周囲の社員の負担やストレスの原因となっているような場合には、毅然とした対応が必要です。放置すればするほど、職場全体の秩序や士気が崩れていきます。
社員が業務命令に違反した場合には、対応を先延ばしにせず、段階的に対処する。そのプロセスにおいては、記録を残し、法的リスクにも備えておく。こうした姿勢が、組織としての信頼性と安定性を支える土台となるのです。
部下・管理職・経営者の責任と意識改革
報連相がうまくできない社員への対応は、単にその本人の能力や性格の問題にとどまりません。実はその背景には、管理職や経営者側のマネジメント体制や意識にも原因が潜んでいることが少なくありません。つまり、報連相が機能していない状況は、組織全体の問題として捉える必要があるのです。
まず、部下である社員に対しては、報連相の重要性を繰り返し伝えるとともに、具体的な基準や手順を教え、分からないことがあれば気軽に相談できる環境を整えることが必要です。「分からないから相談できない」「報告したら怒られるのでは」と思われるような職場風土では、報連相の定着は困難です。これは部下個人の責任ではなく、上司の指導や対応姿勢の問題としても見なければなりません。
そして管理職には、部下の状態を常に把握し、どの程度の裁量を与えるか、どこまで報連相させるかを判断する責任があります。報連相がうまくいかない原因が「指示不足」「指導不足」にあることも多く、適切な範囲の明示や日々の声がけなど、きめ細やかなマネジメントが不可欠です。報連相は一度教えて終わりではなく、繰り返し確認し、定着させるための継続的な支援が求められます。
経営者にとっては、組織としての報連相の基準や文化を整備するという、より広い視点からの対応が求められます。誰にどの仕事を任せるか、どこまでの裁量を与えるか、その判断の責任は最終的には経営者にあります。また、報連相ができない社員を放置した結果として業務に支障が出るような事態は、経営の問題として跳ね返ってくるため、見て見ぬふりをしてはならないのです。
「報連相は社員の当然の義務だ」という意識だけでは、現場での問題は解決しません。むしろ、できない社員がいるのはなぜか、どうすればできるようになるのか、それでも難しい場合はどう配置するのかまでを考えるのが、本来のマネジメントです。
報連相の問題は、社員個人の責任に押しつけるのではなく、組織全体で育てていくものだという意識改革が、管理職にも経営者にも求められます。そうした姿勢が、報連相を通じた信頼と連携のある組織を築く礎となるのです。
継続フォローと改善のモニタリング体制
本日は、報連相が下手な社員への対処法についてお話ししてきました。報連相は業務の基盤であり、情報共有の質がそのまま組織の判断力やスピード、信頼関係に直結します。にもかかわらず、報連相の不備が続く場合、それは単なる個人の問題ではなく、組織の在り方そのものに関わる課題と捉えるべきです。
最も大切なのは、報連相を「できて当然」と捉えるのではなく、「できるように育てる」仕組みを構築するという視点です。報連相の範囲や裁量の設定、理解不足への教育、意識の低さへの指導、最終的には業務命令や懲戒処分まで視野に入れた対応は、すべて段階的に行われるべきものであり、明確な意図と記録を伴って初めて効果を発揮します。
また、改善に向けて行った取り組みは、定期的に見直しとモニタリングを行い、状況の変化に応じて柔軟に対応を調整する必要があります。できなかったことが少しずつでもできるようになっているか、逆に管理の目が離れたとたんに崩れてしまっていないか。そういった視点から日々のマネジメントを積み重ねていくことが、報連相の安定定着に向けた鍵となります。
四谷麹町法律事務所では、こうした報連相に関する業務命令の出し方や注意指導の進め方、適切な配置転換の検討、さらには指導しても改善しない場合の懲戒処分の可否や実務的な手順について、会社側の立場で具体的なサポートを行っています。
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