2025.09.26
仕事中に居眠りする社員への正しい対処法|原因別に解説【企業側の労務対応】

目次
動画解説
仕事中に居眠りする社員への対応を考える意義
仕事中に居眠りをする社員がいる場合、企業としては放置できない深刻な問題となります。特にドライバーや危険物を取り扱う職種では、居眠りによって事故が発生する可能性があり、従業員本人だけでなく、周囲の安全にも重大な影響を及ぼしかねません。また、そうした危険な業務でなくても、勤務中に居眠りをしているということ自体が、労働契約の基本に反する行為であることは明らかです。
労働契約とは、会社が賃金を支払う代わりに、従業員が一定の時間内に労務を提供するという双務的な契約です。つまり、勤務時間中は仕事に集中してもらうことが当然であり、雇用主がそれを求めるのは正当な権利です。居眠りをすることは、この契約関係の信頼を損なう行為であり、企業秩序や職場の生産性にも悪影響を及ぼします。
経営者や人事担当者としては、単に「注意して終わり」ではなく、継続的に居眠りを繰り返す社員に対しては、その背景や原因を適切に調査し、しかるべき対応を講じる必要があります。場合によっては、業務の見直しや配置転換、医師の診断を経た体調管理、あるいは懲戒処分の検討など、対応には幅広い選択肢があります。
こうした対応を適切に行うことで、企業としての安全管理体制や労務管理の信頼性が高まり、組織全体の士気や健全性にも好影響を与えることになります。仕事中の居眠りは単なる本人の問題ではなく、職場環境やマネジメントにも関わる課題であるため、会社として責任ある姿勢で臨むことが求められます。
居眠りの原因を把握することの重要性
仕事中の居眠りに対して適切な対応を行うためには、まず「なぜその社員が居眠りをしてしまうのか」という原因を正確に把握することが不可欠です。単に「眠いから寝ている」といった表面的な理解ではなく、その眠気の背景にどのような事情があるのかを丁寧に探っていく必要があります。
例えば、本人が何らかの持病を抱えていたり、夜間に十分な睡眠をとれない病状にある場合があります。このようなケースでは、本人の努力だけでは状況の改善が難しく、医師の診断や治療が必要となります。逆に、単に夜更かしや夜遊びなどの不摂生が原因であれば、本人の生活態度に起因する問題として、厳正な注意指導が求められます。
また、原因が本人だけにあるとは限りません。会社側が過度な業務を課し、深夜に及ぶ長時間労働や連日の休日出勤を強いている場合には、睡眠時間が十分に確保できず、結果として勤務中に眠気に襲われてしまうといったことも考えられます。このような場合には、会社の労務管理体制そのものに原因があるといえるでしょう。
つまり、居眠りという現象は一見すると単純な問題に見えますが、その背後には健康状態、私生活、勤務状況、会社の管理体制など、さまざまな要因が複雑に絡んでいる可能性があります。原因を見誤れば、適切な対処ができず、かえって問題を悪化させてしまうこともあります。
経営者としては、感情的に対処するのではなく、まずは冷静に状況を把握し、必要に応じて医師や産業医の意見を聞いたり、業務の割り振りを見直したりと、原因に応じた柔軟で適切な対応を行うことが重要です。それによって、社員にとっても納得感のある対応となり、企業としての信頼性向上にもつながります。
【ケース1】体調不良が原因の場合の対応
社員が仕事中に居眠りをしてしまう原因が体調不良である場合、まずは本人の健康状態を正確に把握することが大切です。睡眠障害など、夜間に十分な睡眠を取ることができない病気が背景にあるケースもあり、こうした問題は本人の努力だけでは改善が困難です。そのため、最初にすべきことは医療機関の受診を勧め、医師の診断を受けてもらうことです。
医師の診断結果があれば、会社としても今後の対応方針を検討するうえでの重要な判断材料となります。必要に応じて診断書を提出してもらい、勤務可能かどうか、どのような業務ならば可能かといった点について、明確に把握しておくとよいでしょう。また、産業医との面談も有効な手段です。産業医は業務内容と健康状態の関係について専門的な見地から意見を述べることができるため、業務の適否を検討するうえで非常に参考になります。
体調不良が原因で通常の業務遂行が困難であると判断される場合には、無理に勤務を継続させるのではなく、休養を勧めることも必要です。場合によっては有給休暇の取得を促す、あるいは診断書に基づいて一定期間の欠勤を命じるといった対応も選択肢に入ります。症状が深刻で、長期的に業務ができないと判断されるときには、就業規則に従って休職扱いとすることも検討すべきです。
一方で、症状はあるものの休職を要するほどではなく、特定の業務であれば支障が少ないというケースもあります。そのような場合には、事故や健康被害のリスクが高い業務からは外し、より安全で負担の少ない業務への配置転換を行うことが現実的な対応となります。たとえば、運転業務や危険作業を伴う仕事を担当している社員が頻繁に居眠りをするようであれば、事故防止の観点からも、そのまま業務を続けさせるべきではありません。
体調不良を理由とした居眠りについては、単なる注意で済ませる段階を超えており、会社としての安全配慮義務や適切な労務管理が問われる局面です。放置すれば重大な労災や企業責任を問われる可能性もあるため、慎重かつ丁寧な対応が求められます。
なお、休職制度を活用した場合、休職期間が満了しても復職できない場合には、自然退職や普通解雇といった扱いが可能なこともあります。これらの判断は就業規則や過去の運用状況にもよりますので、対応に迷う場合には弁護士に相談しながら進めることをお勧めします。
【ケース2】不摂生が原因の場合の対応
社員が仕事中に居眠りをする原因が、不規則な生活や夜更かしといった私生活上の不摂生によるものであれば、これは明確に本人の責任に帰する問題です。病気ではなく、夜遅くまで趣味や交友に没頭しているために睡眠時間が確保できず、その結果として勤務中に眠気が生じているのであれば、これは企業が毅然とした態度で臨むべきケースです。
このような場合には、軽い注意で済ませるのではなく、しっかりと会議室などで落ち着いた状況の中で本人に対して指導を行うことが大切です。立ち話やその場しのぎの注意では効果が期待できず、むしろ事態を軽視されかねません。5分や10分程度でも構いませんので、明確に時間を設けて、「勤務時間中はしっかり働くことが求められる」という労働契約上の基本的な義務を丁寧に伝える必要があります。
その際には、プライベートな時間に夜更かしをしていること自体を問題視するのではなく、その影響で「勤務時間中に必要な労務提供ができていない」という点を中心に説明することが重要です。労働契約は給与と引き換えに労働力を提供することを前提としています。勤務中に仕事ができていないのであれば、それは契約違反であり、会社として改善を求める正当な理由になります。
本人のプライベートに対する干渉と受け取られないように注意を払いながらも、「仕事中にきちんと働くことができるよう、生活習慣を見直す必要がある」というメッセージを伝えるようにしましょう。こうした指導を何度行っても改善が見られない場合には、厳重注意書の交付や、懲戒処分の検討も視野に入れる必要があります。
ただし、懲戒処分は労務管理上のリスクを伴うため、その実施にあたっては弁護士に相談しながら慎重に判断することが望まれます。居眠りが業務に支障を与えている程度や回数、注意指導の経緯などを客観的に記録しておくことで、後々の対応がスムーズになります。
また、明らかに業務が遂行できないほど眠気が強い場合には、その日は早退扱いとし、給与を控除することも一つの選択肢となります。これは、労働契約に基づいた労務提供ができていない以上、勤務として認めないという考え方に基づくものです。ただし、こうした対応もケースごとの判断が必要であり、慎重に進めることが求められます。
【ケース3】長時間労働が原因の場合の対応
社員が勤務中に居眠りをする理由として、会社による長時間労働の強要が背景にある場合、問題の本質は社員個人ではなく会社側にあると言えます。深夜までの残業や連日の休日出勤によって、十分な睡眠が取れずに出勤しているような状態では、勤務中に眠くなってしまうのは避けがたいことであり、それは労務提供の質を下げるだけでなく、労働安全上も重大なリスクを孕んでいます。
このようなケースでは、まず会社が自身の労務管理体制を見直す必要があります。「社員の裁量に任せている」「本人が好きで残っているだけ」といった説明では責任を回避することはできません。そもそもその裁量の枠組みや残業の判断を容認しているのは会社であり、社員の体調や勤務状況を管理するのも会社の責任です。疲労が蓄積している社員に対しては、「もう帰って休みなさい」と指示を出すことができる立場にあるのも会社なのです。
社員が明らかに疲れており、勤務中の居眠りが常態化しているようであれば、まずは残業を禁止し、休日出勤も控えさせる必要があります。体調を崩すような勤務が続けば、労災や健康障害のリスクも高まりますし、万が一事故などが発生した場合には、企業の法的責任も問われかねません。
もちろん、急な人員調整によって「この仕事を誰がやるのか」という不安が生じることもあるでしょう。しかし、その解決は社員個人に委ねるべきものではなく、会社として責任をもって調整・手配するべき課題です。業務に穴があくリスクを最小限にするためには、計画的な人員配置や業務分担の見直しが求められます。無理に社員を働かせて体調を崩させてしまえば、結果的に企業の信用や人材の損失につながります。
また、社員が業務時間外に長時間職場に残っているものの、実際には効率的に仕事をしていないというケースも見受けられます。「長時間働いた」という記録があっても、実際の労働密度が低く、業務の進捗が伴っていない場合には、それはマネジメントの問題でもあります。こうした場合には、明確に業務終了を指示し、無駄な残業を減らすよう、日常的に意識づけを行ってください。
特に、オフィス内に残っていることを会社側が把握しているのであれば、直属の上司などが直接声をかけ、実際に社員が職場を離れるところまで確認するようにすると効果的です。このようなマネジメントの徹底こそが、長時間労働を原因とする居眠りや体調不良を防ぐ基本となります。
長時間労働が原因で居眠りが発生している場合、その勤務時間中の居眠りや早退については、会社の責任としての配慮が必要です。単なる自己都合の早退とは異なり、会社の業務によって引き起こされた疲労であるならば、賃金の支払いについても柔軟に考える余地があります。このような判断に迷う場合には、労務リスクを正しく見極めるためにも、弁護士に相談しながら進めるのが安心です。
労務管理・マネジメントとしての対応ポイント
仕事中に居眠りを繰り返す社員への対応において、経営者や管理職が意識すべきなのは、「居眠り自体を咎める」ことではなく、「なぜそのような状態に陥っているのか」を見極め、それに応じた管理・指導を行うことです。原因に応じた対応を取らなければ、状況は改善せず、かえって職場環境の悪化を招く可能性すらあります。
まず、注意すべきは「その社員が、仕事に支障を来すほどの睡眠不足にある」という客観的な状況です。この点を曖昧にしたまま「とりあえず注意をしておけばよい」と考えるのは不適切です。体調不良であれば医師の診断、不摂生であれば具体的な指導、長時間労働が原因であれば業務調整と、それぞれ求められる対応は異なります。
注意指導を行う場合も、その伝え方には配慮が必要です。たとえば、夜更かしや生活リズムの乱れが原因であっても、会社として直接そのプライベートに口出しすることはできません。しかし、勤務時間中に仕事ができていないという事実をもとに指導を行うのであれば、それは企業として当然の対応であり、合理性が認められるものとなります。重要なのは、「プライベートに介入するのではなく、仕事に支障が出ているという事実に基づいて話す」という姿勢です。
また、早退や欠勤の判断についても、勤務が明らかに困難である状態にある場合は、無理をさせるのではなく、いったん帰宅させるという選択肢も必要です。この際に、賃金をどう扱うかについてはケースバイケースとなりますが、少なくとも本人に対する説明と記録はしっかり残しておくことが、後のトラブル防止につながります。
懲戒処分を検討する場合には、十分な証拠と手順の確保が不可欠です。問題行動が継続しており、指導や注意が繰り返されているにもかかわらず改善が見られない場合であれば、懲戒処分の正当性が認められる余地があります。しかし、実際に処分に踏み切る前には、状況の整理と法的リスクの確認を行い、可能であれば弁護士の意見を得るのが望ましい対応です。
そしてもう一つ大切なのが、無駄な残業を常態化させないマネジメントです。社員が「なんとなく残っている」「やることが曖昧なまま居残っている」といった状況を放置している場合、それは会社の管理責任の問題です。そうした状態を見つけたら、管理職が直接声をかけ、業務終了を促す。帰るように指示する。その積み重ねが、健全な労働環境を維持する基礎となります。
労務管理は単なる規則の運用ではなく、会社の文化や経営姿勢そのものが反映される重要な分野です。社員一人ひとりの状態に目を配り、適切に対処していくことが、組織の秩序と信頼を守る第一歩となります。
社内制度としての選択肢と経営者の判断
居眠りを繰り返す社員に対して、会社としてどのような制度や対応方針を持つかは、最終的には経営者の判断に委ねられる部分が大きい問題です。一般的には、就業規則に基づいた休職制度の運用や、一定の懲戒処分を行うという対応が想定されますが、それだけが唯一の正解ではありません。社員の健康状態や勤務状況、そして企業としての価値観によって、最も適切な制度設計を行うことが可能です。
例えば、医師の診断書や産業医の意見によって「現状では勤務が難しい」と判断された場合、通常であれば欠勤や休職を命じることが考えられます。就業規則で休職期間が明記されていれば、その期間が満了した後に自然退職や普通解雇とすることも制度上は可能です。これは、従来からある典型的な労務管理の枠組みといえます。
一方で、社員の健康状態が完全に業務を妨げるほどではなく、ある程度の配慮を前提に業務を続けられる場合、会社側がどのように向き合うかは経営判断の領域です。例えば、勤務時間を柔軟に調整したり、業務負担の軽い部署への配置を行ったりといった方法で、病気や体調の問題を抱える社員にも長く働き続けてもらうという選択肢もあります。
このような配慮は、法的義務というよりは、企業の理念や経営方針に基づいた取り組みです。義務でないからこそ、経営者が「どのような会社をつくりたいか」という視点をもって判断することが重要になります。病気を抱えた社員を支える体制を整えることで、他の社員にも安心感を与え、会社全体の定着率や信頼性を高める効果も期待できます。
もちろん、そうした対応がすべての企業にとって現実的とは限りません。体制が整っていない企業にとっては、ルール通りに休職と復職の可否を判断するという運用が最も現実的であり、それ自体に何ら問題はありません。重要なのは、経営者としての方針を明確にし、それに従った制度や対応を一貫して運用することです。
社員の健康問題や居眠りといった労務上の課題をどう扱うかは、単なる制度運用にとどまらず、経営者の姿勢や会社の方向性が問われる問題です。だからこそ、一時的な感情や場当たり的な対応ではなく、自社にとってふさわしい選択肢を冷静に検討することが求められます。
まとめ:企業リスクを抑えつつ、現実的な対処を
仕事中に居眠りをする社員への対応は、単なる注意で済ませるには難しい、さまざまな要因が絡む問題です。事故のリスクが高い業務であれば、社員本人だけでなく、企業の責任まで問われるおそれがありますし、たとえ危険性が低い職種であっても、労働契約上、勤務時間中は誠実に労務を提供することが求められる以上、継続的な居眠りは見逃すことができません。
重要なのは、原因を正確に見極めることです。体調不良、不摂生、長時間労働など、背景によって対応の在り方は大きく異なります。安易な判断で懲戒処分に踏み切ったり、逆に放置したまま問題を長引かせたりすることは、いずれも会社にとって大きなリスクとなり得ます。
また、対応の選択肢は、必ずしも就業規則にあるルールだけではありません。休職制度の活用や医師・産業医との連携、業務の調整、柔軟な働き方の導入など、企業の体制や経営方針に応じた方法を検討することも可能です。自社にとって現実的で、かつ社員にも納得感のある対応を取ることが、結果的に職場全体の秩序と信頼を守ることにつながります。
会社経営者にとっては、「そこまで対応しなければならないのか」と感じるような場面もあるかもしれません。しかし、社員一人ひとりの状態に目を配り、問題の本質をとらえ、丁寧に対処することこそが、健全な組織づくりの礎になります。
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