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気遣いができない社員の対処法|企業としての適切な対応とは

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気遣いができない社員の存在が職場に与える影響

 職場において、気遣いができない社員の存在は、目に見える業務の遅れや成果の低下だけでなく、組織全体の人間関係や職場の雰囲気にも大きな影響を与えることがあります。たとえば、周囲の社員が手助けをしても、それに対して一言の感謝もない。無神経な言動を繰り返すことで、周囲に不快感やストレスを与えてしまう。このような状況が続けば、チームワークの乱れや社員間の信頼関係の崩壊へとつながりかねません。

 このようなタイプの社員は、必ずしも仕事そのものに支障を来しているわけではないことが多いため、会社としてどこまで介入していいのか判断が難しいところがあります。明確なルール違反があるわけでもなく、懲戒処分の対象になるかどうかも微妙なラインであることが少なくありません。そのため、経営者や人事担当者としては、対応に戸惑い、つい放置してしまうというケースも見られます。

 しかし、放置することによって職場の空気が悪化し、他の社員のモチベーションが下がるなど、組織全体への悪影響がじわじわと広がっていくリスクがあります。たとえ本人に悪気がなかったとしても、他者との関係性に気を配れないことは、集団の中で協働していく職場環境においては見過ごすことのできない問題です。

 気遣いができない社員への対応は、直接的に業務に影響していない場合でも、会社の長期的な健全性を維持する上で、決して軽視してはならない課題です。対応を誤ると、優秀な社員の離職や職場の分断を引き起こすおそれもあるため、慎重かつ的確な対応が求められます。

注意よりも教育が基本となる対応方針

 気遣いができない社員に対して、まず頭に置いておきたいのは、「注意」ではなく「教育」を軸にした対応が基本であるということです。こうした社員は、多くの場合、意図的に無神経な態度を取っているわけではなく、そもそも気遣いや配慮の重要性を十分に理解していない、あるいはその感覚が育っていないという特徴があります。

 つまり、他人に対して失礼な態度を取ったり、感謝の言葉を欠いたりすることが、自分にとって「普通」の言動になってしまっているのです。決して意地悪をしようとか、嫌がらせをしようという悪意があるわけではなく、自動的に、無意識にそうした言動を取ってしまっているというケースが多いのです。

 このような状況で単に「気遣いが足りない」「もっと配慮しなさい」と叱責しても、本人にとっては何が問題なのかすら理解できないこともあります。ですので、感情的に非難するのではなく、まずは「なぜそれが問題なのか」「どうすれば周囲との関係が良好になるのか」といった基本的なことから丁寧に教えていく必要があります。

 イメージとしては、小さな子どもに「こういう時はこう言いましょう」「こういう場面ではこう振る舞いましょう」と教えるようなものです。社会人としては当然できていてしかるべきことだと思えるかもしれませんが、相手の物の見方や感じ方が自分とは大きく異なっている場合には、その常識すら通用しないことがあります。

 そのため、経営者や管理職の側は、「自分ならこうする」といった基準ではなく、「この社員にとって、何がわかりにくいのか」「どこが理解できていないのか」という視点で接することが大切です。気遣いができない社員への対応は、ルール違反の指摘ではなく、社会的な振る舞いを身につけさせるための教育的支援であると考えるべきなのです。

自分基準ではなく相手基準で考える重要性

 気遣いができない社員への対応を考える際、多くの経営者や管理職が陥りがちなのが、「自分ならそんなことはしない」「普通に考えたら分かるはずだ」といった“自分基準”で物事を判断してしまうことです。しかし、このような判断軸では、本人の行動の背景を正しく理解することはできません。結果として、不適切な対応や誤解を生む原因にもなりかねません。

 「相手の立場に立って考えなさい」とはよく言われることですが、ここで注意すべきは、その「相手の立場」を自分の感覚や価値観で置き換えてしまっては意味がないという点です。自分だったらこうする、自分ならこう感じるという思考ではなく、「相手はどういう価値観で動いているのか」「相手にとっては何が“普通”なのか」という、相手の基準に立って考える姿勢が必要です。

 気遣いができない社員は、そもそも気遣いをする必要性を実感していないことが多く、他人に対する配慮や感謝の表現が日常的な行動として身についていないのです。自分の行動が周囲にどう影響を与えているのかという視点を持ち合わせていないため、無意識のうちに周囲を不快にさせたり、協調性を欠いた行動を取ってしまったりすることになります。

 そのような社員に対して、「これくらい普通でしょ」「常識で考えれば分かるはず」といった指導を行っても、本人にはまったく響かないどころか、かえってプレッシャーや混乱を与えるだけです。大切なのは、その社員がどのような感覚で日常を過ごしているのかを丁寧に読み取り、理解の土台をつくることです。

 価値観や感覚が自分とは大きく異なる社員であっても、会社として適切にマネジメントするためには、「相手基準」の発想が不可欠です。職場でのトラブルを未然に防ぎ、社員が互いに安心して働ける環境をつくるためにも、まずは経営者自身がこの発想を持つことが、効果的な対応への第一歩となります。

懲戒処分が可能となるケースとその注意点

 気遣いができない社員に対しては、基本的には教育的指導によって改善を図ることが原則となりますが、すべてのケースにおいて教育指導だけで十分とは限りません。社員の無神経な言動が継続的に周囲へ悪影響を与え、職場の秩序や業務遂行に重大な支障を及ぼしている場合には、懲戒処分を含めたより厳しい対応も検討の対象となります。

 たとえば、気遣いができないというレベルを超えて、他の社員を傷つける発言を繰り返したり、協調性を著しく欠いた行動をとって職場の雰囲気を悪化させているような場合は、就業規則上の服務規律違反と判断される可能性もあります。このような場合、注意指導を経たうえで、改善が見られない場合には懲戒処分を行うことも企業としてやむを得ない対応といえるでしょう。

 しかし、懲戒処分を実施する際には、慎重な判断と丁寧な手続きが不可欠です。気遣いができないという行動が、本人の性格的・能力的な特性に起因するものであり、悪意や反抗心に基づくものではないケースが多いため、安易に懲戒に踏み切ってしまうと、逆に不当解雇や不当処分とされるリスクも生じます。

 また、経営者や上司自身が「自分だったらあり得ない」という主観的な感覚に引きずられてしまい、客観的な状況を見誤ることも少なくありません。このようなバイアスのかかった判断は、法的にも適正な処分とは認められにくく、紛争の火種になる可能性があります。

 そのため、懲戒処分を検討する際には、まずは事実関係を整理し、過去の指導履歴や周囲への影響を客観的に評価したうえで、第三者である弁護士に相談しながら進めることが望ましい対応です。弁護士の助言を受けることで、感情に流されず、冷静で法的に妥当な判断がしやすくなります。

 気遣いができないというだけで懲戒処分に直結することは多くありませんが、職場秩序を乱し、業務に支障をきたしている場合には、教育だけでなく、注意・指導・懲戒といった段階的対応が必要になることもあるという視点は持っておくべきでしょう。

教育しても改善しない場合の配置転換の考え方

 気遣いができない社員に対しては、まず教育的な指導を行い、徐々に配慮のある行動が取れるよう促すことが基本的な対応になります。しかし、中には教えてもなかなか改善が見られない、もしくは改善のスピードが極端に遅い社員も存在します。そのような場合には、教育だけで問題解決を図るのではなく、職務内容の見直しや配置転換といった選択肢を検討することが有効です。

 気遣いや配慮の感覚が乏しい社員にとって、周囲との円滑なコミュニケーションが不可欠な業務や、チームワークが重視される職場環境は、そもそも不向きであることが少なくありません。いくら教育を重ねても、その感覚が根本的に欠如している場合には、本人の負担にもなり、周囲のストレスにもなってしまいます。

 一方で、そうした社員であっても、人への配慮があまり必要とされないような業務においては、能力を発揮できる可能性もあります。たとえば、黙々と一人で進める作業や、対人関係の摩擦が起きにくい職務においては、むしろ集中力や実務力を活かすことができる場合もあります。このように、その人の弱点が目立ちにくい業務に就けることで、本人にとっても職場にとってもプラスになる可能性があります。

 また、気遣いができない社員を管理職に登用することは、原則として慎重にすべきです。部下の状況を把握し、適切に指導し、チーム全体をまとめる力が求められる管理職には、一定の共感力や対人感覚が欠かせません。そうした資質が欠けている社員をマネジメントポジションに置くことは、パワハラなどのトラブルの温床になりかねず、周囲の離職や組織全体の不信感にもつながりかねません。

 もちろん、業績評価としてのご褒美的な意味合いで名ばかりの管理職に就けるというのであれば一定の運用も可能ですが、実際に人を動かす、マネジメントを行うという意味での管理職については適性を慎重に見極めるべきです。

 教育しても改善が見られない、あるいは改善に非常に時間がかかると感じられる社員については、その人にとって無理のない環境を整え、適性に合った職務へと配置を見直すことが、長期的には最も現実的かつ効果的な対処となります。

管理職としての適性と任用の判断

 気遣いができない社員を管理職に任用すべきかどうかという問題は、企業にとって非常に慎重な判断が求められるテーマです。そもそも管理職とは、自らの業務をこなすだけでなく、部下のマネジメントや育成、チーム全体の成果に責任を持つ立場です。そのため、一定の対人感覚や共感力、配慮のある言動が不可欠です。

 ところが、気遣いができない社員の場合、無意識に無神経な発言をしてしまったり、部下に過度なプレッシャーを与えてしまったりすることがあります。本人に悪意がないとはいえ、感謝や労いの言葉が欠けていたり、部下の状況に無頓着であったりすると、チーム内の信頼関係は容易に損なわれてしまいます。最悪の場合、パワハラと受け取られ、部下が辞めていく原因にもなりかねません。

 特に、中小企業では「頑張った社員に報いるために昇進させる」という文化が根強く、マネジメント能力よりも業績や勤続年数が重視される傾向があります。そのため、「真面目に頑張ってきたから」という理由だけで、気遣いが苦手な社員を管理職に登用してしまうこともあります。しかし、それが本人にとっても周囲にとっても不幸な結果を招くことがあることを忘れてはなりません。

 もちろん、名目上の昇進や待遇改善の一環として「管理職手当をつける」「肩書を与える」といった運用であれば、一定の柔軟性をもたせることも可能でしょう。ただし、その場合でも、本来の意味でのマネジメント業務――部下の指導、評価、調整などを担わせることは避けるべきです。

 管理職は、チーム全体の成果に直結する重要なポジションであり、適性のない人材を任命することは、企業全体の生産性や職場の健全性を損ねるリスクを伴います。気遣いができない社員に対しては、その強みや実績を評価しながらも、管理職としての適性については冷静に見極め、必要であれば別の形での評価や報酬制度を設けることが、現実的な対応策といえるでしょう。

任せられる仕事がない場合の選択肢

 気遣いができない社員に対して、適正な業務への配置転換を検討したものの、会社の業務内容や組織体制の都合上、どうしても任せられる仕事が見当たらないという場合もあります。特に中小企業では、人員が限られており、すべての職務に一定の対人対応やチーム連携が求められることが多く、本人の特性に合ったポジションを確保するのが難しいこともあるでしょう。

 このような状況では、まず可能な限りの教育・指導を行い、それでもなお改善が見られない場合には、より抜本的な対応を検討せざるを得ません。具体的には、退職勧奨による合意退職や、就業継続が困難な場合には普通解雇の可能性も視野に入ることになります。

 ここで重要なのは、感情的な判断で解雇に踏み切るのではなく、本人の業務適性や指導履歴、会社としての対応努力の記録を丁寧に残しておくことです。また、気遣いができないという特性は、必ずしも懲戒処分に直結するような明確な違反ではないため、処分の理由付けや対応の妥当性については、慎重に検討しなければなりません。

 特に、解雇という最終手段を検討する際には、「気遣いができないこと」そのものではなく、「業務に重大な支障をきたしており、再配置も困難である」という客観的な理由が必要です。懲戒解雇ではなく、適性の欠如や職務不適合を理由とする普通解雇の扱いになるケースが多く、就業規則や判例に基づく慎重な対応が求められます。

 また、本人との話し合いの中で、合意のもとに退職してもらう「退職勧奨」という選択肢もあります。こちらの方がトラブルを回避しやすく、企業側にとっても現実的かつ穏当な解決手段となりやすいですが、この場合も、交渉の過程で無理な圧力をかけないよう、対応には十分な注意が必要です。

 業務に適性がない社員への対応は、非常にデリケートで判断が難しい問題です。だからこそ、対応を進めるにあたっては、事前に労務に詳しい弁護士に相談し、リスクを見極めながら慎重に手続きを進めていくことを強くお勧めします。

周囲の不満には経営者の対応が効果的

 気遣いができない社員が職場にいると、その言動自体以上に問題となるのが、周囲の社員に生じるストレスや不満です。いくら手助けをしても感謝の言葉一つない、配慮がまったく感じられない、そうした状態が続けば、「この人のためにもう何もしてあげたくない」と思われてしまうのも無理はありません。こうした不満が蓄積すると、職場全体の士気が低下し、場合によっては優秀な社員の離職につながるリスクも出てきます。

 このような状況に対して、最も効果的な対応は、経営者や管理職が周囲の社員に対して、適切な「感謝」と「評価」を示すことです。つまり、気遣いができない本人に代わって、経営者が「いつも〇〇さんのサポートをしてくれてありがとう」「ちゃんと見ていますよ」と声をかけてあげるのです。

 これは単なるフォローではなく、実は論理的にも筋の通った対応です。というのも、社員同士が助け合って業務を進めている場合でも、労働契約の当事者は社員同士ではなく、会社と社員の関係にあります。つまり、社員が職場で配慮やサポートを行った結果として不満を抱えている場合、その調整責任は本来、会社にあるのです。

 また、このようなフォローを経営者自らが行うことには、非常に高い効果があります。「ちゃんと見てくれている」「努力が認められている」と感じられれば、社員のやる気や職場への信頼感は大きく高まります。逆に、放置すれば「誰も見ていない」「感謝されない」と感じられ、離職の動機につながる可能性もあります。

 特に中小企業など、経営者の目が社員全体に届きやすい環境であれば、こうした一言が大きな意味を持ちます。経営者のちょっとした声掛けが、職場の空気を変える力を持っているのです。これは、「そこまでやる必要があるのか」と感じる方もいるかもしれませんが、実際には最もコストがかからず、効果の高いマネジメント手法の一つと言えるでしょう。

 周囲の社員のモチベーションを守り、気遣いのできない社員が与える影響を最小限に抑えるためにも、経営者自身が積極的に関わることが、組織全体にとって非常に有効な対策となります。

経営者の一言が職場を変える

 気遣いができない社員によって職場の空気が悪くなりかけているとき、経営者がかけるたった一言が、その流れを大きく変える力を持っています。たとえば、「〇〇さんのサポート、いつも本当に助かっているよ」「ちゃんと見ているからね、ありがとう」といった一言が、周囲の社員の気持ちを軽くし、やる気を引き出すきっかけとなるのです。

 多くの経営者は「それは本来、当人が言うべきことだ」「なぜ自分が代わりに謝ったり感謝しなければならないのか」と感じるかもしれません。しかし、職場全体の士気やチームワークを維持するという観点からすれば、経営者の一言による影響力は計り知れません。社員同士の小さな摩擦や不満を未然に抑え、安心して働ける空気を作り出すのは、まさに経営者の役割でもあります。

 さらに言えば、これは単なる感情論ではなく、労働契約の当事者としての会社の責任にも通じる考え方です。社員同士が関係を築いているように見えても、実際には社員全員が会社と契約を結び、会社の指揮命令のもとで働いています。だからこそ、誰かが無神経な態度をとっても、それに対して不満やストレスを感じている他の社員をケアする義務が、会社にあるといえるのです。

 特に、気遣いができない社員に対して周囲が我慢を重ねている状態では、「もう手を貸したくない」「自分の努力が報われない」といったネガティブな感情が蓄積していきます。そんなとき、経営者が代わりにお礼を言ってくれたり、評価の言葉をかけてくれたりすれば、「ちゃんと見てくれている」「この会社で頑張ろう」と思えるようになります。

 もちろん、「なぜ自分がそこまでやらなければならないのか」と感じる経営者もいらっしゃるでしょう。しかし、会社の雰囲気を整え、社員の離職を防ぎ、チームの生産性を保つためには、これは極めて効果の高いマネジメント手法です。現場にいる社員にとって、経営者の言葉ほど重みがあるものはありません。

 会社全体を良くするために、経営者が一歩前に出て声をかける。それだけで、職場の空気は驚くほど変わります。社員の支持を得て、より良い組織を作る第一歩として、ぜひ「経営者の一言」を意識してみてください。

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