2025.09.26
「すぐ辞める社員」への正しい対応とは?早期離職を防ぐための実践的マネジメント戦略

目次
動画解説
すぐに辞める社員が多いことの問題点
せっかく採用した社員が、十分な戦力となる前にすぐに辞めてしまう――このような事態に頭を悩ませている企業は少なくありません。とくに中小企業にとっては、新たに人材を採用し、教育すること自体が大きなコストと労力を要するため、すぐに辞められてしまうことのダメージは極めて深刻です。
単なる採用の失敗では済まされず、現場の生産性の低下、既存社員のモチベーションダウン、教育にあたった社員の徒労感、そして再び採用活動をしなければならないという二重三重の負担が発生します。また、すぐに辞める社員が多いという評判が広まれば、企業イメージの低下にもつながり、ますます人材確保が難しくなるという悪循環に陥ってしまいます。
そのため、「辞めること自体は個人の自由」と片付けるのではなく、会社としての構造的な問題がないかを真剣に検討し、対策を講じる必要があります。とりわけ、辞めた社員の共通点や傾向、在職期間中に何があったのかなどを丁寧に振り返ることで、組織のどこに課題があるのかを可視化することが大切です。
今後の人材戦略を考えるうえでも、なぜ辞めるのか、どうすれば辞めずに済むのかを検討し続けることは、企業経営にとって避けて通れない課題なのです。
辞職理由として「人間関係」を軽視しない
すぐに辞めてしまう社員が続く背景には、さまざまな要因が絡み合っていますが、その中でも特に見逃してはならないのが「職場の人間関係」です。待遇や仕事内容などの表面的な要素よりも、人間関係の悪化が退職の引き金になることは少なくありません。とくに入社直後の社員にとって、上司や先輩との関係性は会社に対する印象を決定づける大きな要素です。
「質問しても冷たい態度を取られた」「教えてもらえず放置された」「細かいことで叱責された」など、些細に見える一つひとつの対応が、新人にとっては精神的な負担となり、職場への不信感を抱く原因になります。そして、そのまま誰にも相談できず、静かに離職していく――このようなケースが実際に多く見受けられます。
だからこそ、会社としては人間関係が良好に保たれるように意識した人員配置や教育を行う必要があります。管理職や先輩社員のマネジメント能力、人への気遣い、教えるスキルといった部分も、重要な経営資源の一つと考えなければなりません。「技術があるから」「勤続年数が長いから」という理由だけで人を指導役に据えるのではなく、人間関係を丁寧に構築できるタイプの人物を育成担当に置くことが、離職率の低下に直結するのです。
また、入社後すぐに適切なフォローを受けられる環境があるかどうかも重要です。「困ったときに相談できる相手がいない」「会社は自分に関心を持ってくれていない」と感じさせてしまうと、早期離職の可能性が高まります。たとえ短期間でも、人間関係で「嫌な思い」をすれば、それだけで辞める理由としては十分なのです。
問題社員・先輩・管理職の言動には即時対応を
すぐに辞めてしまう社員が多い職場では、問題のある社員や管理職、先輩社員の言動が見過ごされているケースが少なくありません。こうした人物による不適切な対応――たとえば無視、嫌味、突き放す態度、極端に冷たい接し方など――が、新人や若手社員の職場定着を妨げていることは、想像以上に多くあります。
職場内での教育や指導は、適正な範囲内で行われるべきものですが、教え方が乱暴だったり、感情的な叱責を繰り返したりする行為は、教育ではなく単なる威圧です。こうした対応は「パワハラ」として法的問題に発展するリスクもあるため、会社としては見逃すわけにはいきません。たとえ悪意がなくても、その接し方が新入社員にとって精神的な苦痛となっているのであれば、早急な対応が必要です。
対応方法としては、当事者との面談を行い、具体的な言動を確認し、必要に応じて注意・指導を行うことから始めます。改善が見られない場合は、厳重注意や配置転換、懲戒処分といった手段も視野に入れる必要があります。重要なのは、会社として問題行動を「容認しない」という明確な姿勢を示すことです。
また、情報の収集体制を整えておくことも大切です。現場で何が起きているかが経営層に届かないまま、被害者だけが静かに辞めていくという事態は避けなければなりません。職場内の課題や不満が表に出やすい仕組みを整え、問題を放置せず、初期段階で対応できる組織体制をつくることが、離職防止への第一歩です。
「性善説で信じていた」「ベテランだから任せていた」――そうした放任主義では、職場内で力を持つ者の言動が、知らぬ間に組織の風土を壊してしまう危険があります。だからこそ、経営者は率先して“守るべきは誰なのか”を明確にし、被害を受ける側の立場に立った迅速な対応を心がけるべきなのです。
社長・経営者として“見殺し”を避ける覚悟
すぐに辞める社員が続く背景には、現場レベルの問題だけでなく、経営層の無関心や対応の遅れも大きく関係していることがあります。とくに深刻なのが、「信じて任せていた」「自分は口を出さない方針だから」といった理由で、管理職や先輩社員の不適切な言動を放置し、結果として新入社員や若手社員を“見殺し”にしてしまっているケースです。
実際には、職場で辛い思いをしていても、経営者に直接声を上げられる社員はほとんどいません。何も言わずに、ただ静かに退職していく。その裏には、SOSが届かない環境、届いても動いてもらえないという失望感が隠れています。これは経営者として決して見過ごしてはならない問題です。
社員を守る立場にあるのは、最終的には経営者です。たとえ管理職が現場を任されていても、最終責任を負うのは社長であり、会社の価値観や方針を示すのも経営者の役割です。「人を信じて任せること」と「問題に目をつぶること」は別物です。現場の状況に目を光らせ、必要であれば直接介入し、問題の芽を早期に摘む。その覚悟が、会社に安心して働ける空気を根付かせます。
また、「長くいる社員を大事にしすぎる」ことも落とし穴になります。長年在籍している社員の意見を優先するあまり、新しく入ってきた社員の声を軽視してしまうと、会社は固定化された人間関係の中で閉塞感を生み、新しい風を拒絶する体質になってしまいます。結果として、会社の成長機会も失われかねません。
経営者として、「今いる人だけを守る」のではなく、「これからの会社を支える人材を守る」という視点を持ち続けること。その覚悟こそが、組織に新陳代謝と信頼感をもたらし、離職の連鎖を断ち切る力になります。
社員の適性を見極め、仕事とのミスマッチを防ぐ
すぐに辞めてしまう社員のなかには、単純に仕事が合っていなかった、というケースも少なくありません。いくら頑張っても成果が出ず、周囲と比較して自信を失い、やがて「自分には向いていない」「他の仕事を探した方がいい」と考えてしまう。こうした「適性のミスマッチ」による退職は、労働環境や人間関係以上に、当人にとって深刻な問題です。
人にはそれぞれ向き・不向きがあります。ある人には難しい仕事も、別の人にはごく自然にこなせる。これは能力の差ではなく、適性の問題であることが多いのです。とくに新入社員や若手社員は、自分の強みや特性に気づいていないこともあり、職場でのつまずきによって「自己否定感」に陥ることもあります。
そこで重要なのが、会社側が「この社員はどのようなタイプか」「どのような仕事なら力を発揮できるか」を見極める姿勢を持つことです。採用段階での適性確認も大切ですが、入社後にこそ、その人の本来の能力が見えてくる場面があります。そうした情報をもとに、適材適所を実現するための柔軟な配置転換を検討することが、離職を防ぐ大きなポイントとなります。
また、仕事の向き不向きを見極めるためには、業務ごとの必要スキルや求められる特性を明確にする「業務分析」も欠かせません。「この仕事は一見シンプルだが、集中力が必要」「この業務はマルチタスクが苦手だと厳しい」など、業務の本質を理解しなければ、適切なマッチングはできません。
結果として、社員が自分の能力を発揮しやすい仕事に就くことができれば、やりがいや充実感を持って働けるようになり、自然と離職意向も低下していきます。「続けるか辞めるか」は、適性と配属のバランスによって大きく左右されるのです。
仕事そのものを再考し、難度や役割の設計を見直す
人材の確保が難しくなるなかで、「すぐに辞める社員が多い」原因を個人の資質ややる気の問題に矮小化してしまうのは危険です。とくに昨今のように、多様な背景や能力を持つ人材を受け入れなければならない社会環境においては、仕事の設計そのものを見直すという発想が必要になります。
たとえば、コミュニケーション能力に課題がある社員が辞めてしまったケースを考えてみましょう。これまでであれば、「サービス業だから対人スキルが必要」「お客様相手に無口では困る」として片付けられていたかもしれません。しかし、すべての職務で高いコミュニケーション能力が求められるわけではありません。業務を分解・再構築することで、対人対応が得意な人に接客を任せ、バックオフィス作業を別の人が担うといった役割分担が可能になります。
同様に、ITスキルが低い社員が続かないという問題に直面したときも、業務を自動化する、マニュアルを簡素化する、AIや専用ソフトの導入によって難易度を下げる、といった工夫が考えられます。これは単なる業務効率化ではなく、「多くの人が無理なくこなせる仕事にする」ための戦略でもあるのです。
こうした見直しには手間と時間がかかりますが、裏を返せば「その会社でしか働けない人材」を受け入れられるようになるということでもあります。人材の母集団を広げ、定着率を高めるには、個々の適性に合わせた業務設計が求められる時代なのです。
また、こうした業務設計の見直しは、社員一人ひとりに「自分が必要とされている」という実感を与える効果もあります。「あなたがいなければ成り立たない業務がある」というメッセージが伝わる職場では、社員の離職意欲は自然と下がるものです。
採用プロセスからミスマッチを減らす工夫
すぐに辞めてしまう社員を減らすためには、入社後の対応だけでなく、そもそもの採用段階から「定着する人材を選ぶ」ための工夫が欠かせません。入社後に「思っていた仕事と違った」「社風が合わない」といった理由で早期離職に至るケースは、採用時の情報の齟齬や適性の見誤りが根底にあります。
まず重要なのは、求人情報の「透明性」です。業務内容や求めるスキル、職場の雰囲気、評価制度、残業の有無など、実態と異なる期待を持たせないよう、事前に具体的かつ正直な情報を提供することが、ミスマッチの予防につながります。たとえネガティブに映る情報であっても、事前に開示しておくことで「それでも働きたい」という動機のある人材に絞ることができます。
次に大切なのが「適性の見極め」です。学歴や資格といった表面的な指標だけでなく、性格や価値観、過去の経験、チームでの役割傾向などを掘り下げて確認する面接や適性検査の導入も有効です。とくに「どのような環境で力を発揮できるか」「何が苦手か」といった観点で候補者を理解することが、職場での活躍と定着を支えるポイントになります。
さらに、採用段階で「リアルな業務体験」を提供することも、ミスマッチを減らす効果があります。たとえば職場見学や仕事体験、OJT的な短時間の実習などを行えば、実際の業務の流れや雰囲気を体感してもらえます。事前に現場を知ってもらうことで、「こんなはずじゃなかった」という入社後のギャップを防ぐことができます。
採用は一時の選抜ではなく、長期的な戦力を見据えた「入り口の設計」です。入社後の手間を減らすためにも、採用段階で丁寧に人を見るという姿勢が、結果として離職率の低下に直結していくのです。
社員の定着は“経営者の意識”で大きく変わる
すぐに辞める社員が多い職場では、「何をしても人が定着しない」と諦めムードが漂いがちです。しかし、こうした状況を打破するために最も重要なのは、経営者自身の意識です。社員の定着率を左右するのは、労働条件や業務内容だけではなく、「この会社で働き続けたい」と思わせる空気を、経営者が作れているかどうかに大きく左右されます。
たとえば、社員が困っている時に「それはお前の努力が足りない」と突き放すのではなく、「どこに障害があるのか」「どうすれば力を発揮できるのか」を一緒に考える姿勢があるか。これは、社員にとって会社への信頼感を左右する大きな分かれ道です。人は「理解されている」「味方がいる」と感じたときにこそ、踏ん張って頑張ろうという気持ちになるものです。
また、経営者が自ら現場に目を配り、社員の声に耳を傾けることで、会社全体に「人を大切にする文化」が根づいていきます。社員が意見を言いやすい雰囲気、相談しやすい関係性があれば、問題が大きくなる前に芽を摘むことも可能です。人が辞めるのを防ぐには、何よりも“辞めたくなる前”に気づける感度の高い組織であることが求められます。
もちろん、経営者一人ですべてをカバーすることは難しいかもしれません。しかし、組織のトップが「社員一人ひとりに目を向け、適材適所を考え、守るべきときには守る」というスタンスを示すことで、周囲の幹部や管理職の意識も変わります。組織は上から変わる。これは経営における不変の真理です。
離職を防ぎ、社員を定着させる取り組みは、地味で手間のかかるものです。しかし、その努力が組織の活力と安定を生み、最終的には企業の競争力に直結します。経営者の意識が変われば、会社の未来も大きく変わるのです。
まとめ
すぐに辞める社員への対応は、単なる「個人の根性」や「忍耐力」の問題として片付けることはできません。人手不足が深刻化する現代の労働環境においては、社員一人ひとりの背景や適性に配慮し、会社全体として柔軟かつ戦略的に対応していくことが不可欠です。
マネジメント能力の高い管理職の配置、問題社員への迅速な対応、適性を見極めた業務配属、採用段階でのミスマッチ予防、業務そのものの設計見直しなど、対策は多岐にわたります。そして何よりも、社員の定着率を左右するのは、経営者自身の「人を見る力」と「見守る覚悟」です。
「すぐに辞める社員が多くて困っている」と感じたときこそ、会社を見つめ直し、改善のきっかけをつかむチャンスでもあります。社員が安心して働ける環境づくりは、会社の成長と安定につながる重要な経営課題です。
四谷麹町法律事務所では、社員の早期退職問題や職場環境改善に関するご相談を多数お受けしています。問題社員への対応や管理職の育成、適性に応じた人材配置の検討まで、法的リスクを踏まえた実践的なアドバイスを提供しています。
「採用してもすぐに辞めてしまう」「どのようにマネジメントを見直せばいいか分からない」といったお悩みをお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。初期段階からの適切な対応が、会社全体の活力を守る第一歩となります。