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信頼して任せたのに成果が出ない社員への対応法|任せ方の落とし穴と対策を弁護士が解説

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信頼と成果は別問題と理解する

 経営者や管理職の中には、「部下を信頼して任せることが大切だ」との信念を持つ方が少なくありません。これは一見すると素晴らしい姿勢に思えますが、現実には「信頼したのに成果が出なかった」と失望し、トラブルへと発展するケースが多く見受けられます。信頼そのものは悪いことではありません。しかし、信頼と業績の達成は本質的に異なるものであることを理解する必要があります。

 そもそも、「信頼する」とは相手に対して期待をかける行為であり、いわば感情的な要素を含んだ判断です。一方で、「成果を上げる」ことは、業務目標を達成するための具体的な行動とその結果を意味します。この二つを混同してしまうと、「信頼したからきっとうまくいくだろう」と根拠のない期待をかけた結果、望む成果が出なかったときに、感情的な落胆や責任転嫁に陥ってしまうのです。

 とくに労務問題として相談が寄せられるケースでは、こうした「信頼が裏切られた」という思いが先行してしまい、冷静な対処を難しくしていることもあります。信頼していた社員が期待に応えられなかった、あるいは問題行動に及んでいたという場合、経営者の「裏切られた」という感情だけが先に立ち、合理的な原因分析や対応が後回しになってしまうのです。

 したがって、経営者としてまず重要なのは、「信頼したかどうか」と「成果が出たかどうか」は全く別次元の問題であることを明確に区別して考えることです。そして、その成果が出なかった要因を客観的に分析し、社員個人の資質や環境、上司の指導体制など、あらゆる観点から対応を見直す姿勢が求められます。こうした視点を持つことで、感情に流されず、冷静かつ効果的な社員対応が可能になるのです。

成果を出すのは上司・社長の責任

 部下に業務を任せた結果、成果が上がらなかったとき、多くの経営者や管理職はつい「社員がダメだった」「期待外れだった」と考えてしまいがちです。しかし、組織としての責任の所在を明確にするならば、成果が出なかった責任は、最終的にはその部下に仕事を任せた上司、さらにはその上司を選び組織を構成している社長自身に帰属するものです。

 会社において、誰がどの仕事を担当するか、どの程度の権限や裁量を与えるか、また必要なリソースをどう配分するかは、上司や経営者の判断に基づいて決定されます。つまり、部下が成果を上げられるだけの環境を整え、適切な人材を見極めて任せること自体が、管理職や社長の職務に含まれているのです。成果が出なかったという結果が生じた場合には、「その人に任せた自分の判断は適切だったか」「必要なサポートを提供できていたか」といった自己検証がまず必要となります。

 この視点が欠けていると、たとえ問題の本質が職場の構造的な欠陥や、教育・指導の不足にあったとしても、それを見過ごして部下個人の資質や努力不足に責任を押しつけてしまいます。そのようなマネジメントの姿勢は、職場の信頼関係を損ねるだけでなく、同様の問題が再発するリスクを高める結果となります。

 したがって、「信頼して任せたのにダメだった」という反応をする前に、その任せ方自体が適切であったかどうか、そして部下が成果を出せる状態にあったかどうかを自らに問い直す姿勢が、健全なマネジメントには欠かせません。組織の成果は、単に個人の能力に依存するものではなく、構造や支援体制の整備、適切なリーダーシップのもとで築かれていくものなのです。

任せ方の落とし穴と「丸投げ」との違い

 仕事を任せるという行為は、一見すると部下の成長を促す前向きなマネジメント手法に思えるかもしれません。しかし、その「任せ方」を誤ると、単なる「丸投げ」になってしまい、逆にトラブルの原因になります。信頼して任せることと、責任を放棄して丸投げすることは、似て非なるものです。

 丸投げとは、業務の目的や進め方、責任の範囲などを明確にしないまま、結果だけを求めて業務を押し付けるような形を指します。例えば、「この仕事、頼んだよ。よろしく」と言って、それ以降のフォローも説明もない場合、受け手である社員は何をどうすればいいのか分からず、不安や混乱に陥ります。結果として期待通りの成果が出ることは少なく、最悪の場合、大きなミスや責任の所在が不明確なトラブルに発展することすらあります。

 一方で、「信頼して任せる」というのは、業務の目的や達成すべき成果、進捗の確認方法、裁量の範囲などを明確にしたうえで、社員に責任を持って取り組んでもらうことを意味します。このような任せ方であれば、たとえ社員が途中で困難に直面しても、上司としての適切なフォローが可能ですし、結果責任も管理職や経営者としてしっかりと負う覚悟が求められます。

 つまり、任せるという行為には、「準備」「明示」「支援」という三つの要素が欠かせません。それらがないまま信頼という言葉を口実に業務を振ってしまうと、それは単なる責任放棄であり、社員からすれば「放置された」「丸投げされた」と受け止められても仕方がないのです。

 経営者や管理職として本当に信頼して任せたいのであれば、任せる際のプロセスや支援体制にも細心の注意を払い、社員が成果を出せるための土台をしっかりと築く必要があります。任せた以上、結果は当然として、任せ方自体にも責任が伴うという視点を常に持ち続けることが重要です。

社員の能力を見極めるために必要な確認

 仕事を任せる際、最も重要な前提は「その社員に業務遂行能力があるかどうか」です。信頼や好印象といった主観的な感覚だけで任せてしまうと、思わぬ結果を招くことがあります。特に経営者や上司の言葉に対して、社員は本音を言いづらいものです。「やれますか?」と聞かれれば、実際には不安や経験不足があっても、「大丈夫です」「やってみます」と前向きな返事をするのが自然な反応でしょう。しかし、それが即、実行可能な能力を意味するとは限りません。

 このような「できます」という返答を真に受けて任せてしまう前に、必ず能力の根拠を確認することが必要です。たとえば過去の経験、これまでの実績、具体的にどのような手順で仕事を進めるつもりか、どんな課題が想定されるか、といった具体的な確認を行うことで、社員の理解度やスキルレベルを把握することができます。

 また、能力には幅があります。たとえば、細かい手順を丁寧に指示すれば遂行できる社員もいれば、大まかな方向性だけ示しても自分の頭で考えて柔軟に対応できる社員もいます。任せる側としては、その社員がどのレベルにあるのか、どれほどの裁量を与えても問題ないのかを事前に見極める目を持たなければなりません。

 加えて、意欲だけで仕事を任せることにも注意が必要です。「頑張ります」と熱意を見せる社員ほど任せたくなるものですが、能力が伴っていない場合にはかえってプレッシャーとなり、結果的に本人の成長を妨げたり、トラブルの原因となったりすることもあります。むしろ能力と課題のバランスを見極め、サポートが必要な部分を補いながら任せていく姿勢が、健全な業務運営には欠かせません。

 つまり、仕事を任せる前には、信頼だけで判断するのではなく、客観的かつ具体的な情報に基づいて社員の能力を評価することが不可欠です。その一手間を惜しまないことで、任せた仕事の成功確率が高まり、社員の成長と組織全体の成果にもつながっていくのです。

「指示待ち人間になってしまう」ことへの誤解

 仕事を任せる際に、「あまり細かく指示を出すと、指示待ち人間になってしまうのではないか」と懸念する経営者や管理職の方は少なくありません。確かに、自発性や主体性を育てることは重要ですが、それと「成果を出す」ことは、必ずしも同じではありません。信頼して任せることと、放任することは全く異なります。

 本来、指示を出すことは管理職の重要な職務のひとつです。業務の目的や手順、優先順位、使用すべきツールや基準などを明確に伝えることによって、部下は安心して仕事に取り組むことができます。それを怠って曖昧な状態で仕事を丸投げすれば、部下は何をどう進めればよいのか分からなくなり、不安や混乱が生まれます。その結果、たとえ能力がある社員であっても、パフォーマンスが大きく低下してしまうこともあります。

 「指示待ち人間」とは、単に上司の指示があるまで動かない受け身な人を指す言葉ですが、全員がそのような状態になるわけではありません。むしろ、仕事の全体像や判断基準が曖昧な場合、主体性を持って動くこと自体が難しいという状況もあるのです。逆に、しっかりとした指示や期待値の共有があれば、部下はその範囲内で自分なりに工夫したり、改善提案をしたりと、自然と自発的な動きが生まれてくることもあります。

 したがって、部下を「指示待ち人間にしないために」とあえて指示を控えるようなやり方は、かえって逆効果になりかねません。重要なのは、必要なときには明確な指示を与えつつ、状況や能力に応じて段階的に裁量を広げていくことです。それが真の意味での「任せる」ことであり、部下の主体性を引き出しながら成果を確実に上げるための合理的なアプローチなのです。

成果重視か、育成重視かの明確な判断

 仕事を誰にどう任せるかを判断する際、常に意識すべきなのが「その目的は何か」という点です。つまり、今回の仕事は成果を求めているのか、それとも社員の育成を主な目的としているのか、この判断が曖昧なまま進めてしまうと、どちらの目的も達成できず、上司も部下も不満だけが残る結果になりかねません。

 もし成果を最優先するのであれば、業務を任せる社員の能力が確実にその水準に達しているか、支援体制は整っているか、進捗を管理する仕組みはあるかなど、複数の要素を冷静に検討したうえで人選を行う必要があります。ここでいう「成果」は、品質や納期、コスト、対外的な信用など、会社の経営に直結する要素を意味します。したがって、「できるかどうか分からないが、本人がやりたいと言っているから」といった理由で任せてしまうのは、大きなリスクを伴います。

 一方で、育成を目的とするのであれば、多少の失敗や非効率も織り込み済みで業務を任せるべきです。この場合、業務遂行の結果だけでなく、その過程での気づきや成長が価値になります。したがって、「成果が出なかった」としても、それ自体が失敗ではなく、むしろ貴重な学びとして評価されるべきでしょう。

 問題は、育成を目的として仕事を任せていたにもかかわらず、結果として成果が上がらなかったことに過剰な失望を感じたり、部下を責めたりするような対応を取ってしまうケースです。こうした対応は、部下のモチベーションを大きく損なうばかりか、組織全体に「失敗は許されない」という空気を生み出し、挑戦や成長の機会を奪ってしまいます。

 したがって、任せる前に「この業務は成果を求めるのか、それとも育成を重視するのか」を明確に自分の中で位置づけ、任せ方や評価基準をそれに応じて調整することが極めて重要です。その判断の軸がしっかりしていれば、任せる側にも任される側にも納得感が生まれ、業務の成功確率も格段に高まります。

能力不足が判明した社員への対応

 仕事を任せた結果、部下の能力不足が明らかになることは、どの職場でも起こり得ることです。重要なのは、そのときにどう対処するかです。まず大切なのは、成果が出なかったことをすぐに本人の責任として片づけないこと。むしろ、任せた側の責任として受け止め、次のアクションを冷静に考えることが、上司や経営者としての基本姿勢です。

 具体的な対応としては、まずは業務内容を見直し、社員にとって何が難しかったのか、どこでつまずいていたのかを分析することが必要です。そして、その分析結果をもとに、指示内容をより具体的にする、作業工程を細分化して段階的に取り組ませる、定期的に進捗確認を行うなど、支援体制を再構築していくことが求められます。

 また、仕事のやり方そのものが十分に伝わっていなかった場合には、丁寧な説明と実地でのサポートも不可欠です。中には、「基本的なことだから説明しなくても分かるはず」と思ってしまうこともあるかもしれませんが、能力に課題がある社員にとっては、基本的なことほど丁寧な指導が必要になります。マイクロマネジメントとまでは言わずとも、適度に寄り添いながら業務を進める工夫が重要です。

 さらに、人員や予算といった環境要因が障害となっていることもあります。業務量が明らかに多すぎる、他部署からの協力が得られていない、使用しているツールが非効率といったケースも含めて、仕事がうまくいかない原因は本人の能力以外にも多く存在します。こうした環境面の整備もまた、管理職や経営者が担うべき役割です。

 それでも結果が伴わない場合には、配置転換や業務内容の見直しなど、組織としての判断も必要になってきます。ただし、この判断も「できなかった社員が悪い」といった感情的なものではなく、「組織全体として最も成果を出せる配置はどこか」という視点から行うべきです。

 部下がうまくいかない状況にあるとき、それをどう受け止め、どう建設的に動くかによって、上司としての信頼も変わります。感情的にならず、冷静に、かつ前向きに対応することが、組織の健全な成長に直結していくのです。

成果を出すための社長・管理職の役割

 会社における成果は、最終的に社長や管理職の判断と行動に帰結します。部下が思うように動かなかった、期待した成果が出なかったというのは、あくまで表面的な現象であり、その背景には「誰を」「どのように」「どんな条件で」任せたのかという意思決定が存在します。したがって、その意思決定を行った側にこそ、最大の責任があるといえるでしょう。

 社長や管理職の役割とは、単に部下に仕事を振ることではなく、適切な人材を見極め、必要な環境や支援体制を整え、指示や裁量の与え方を調整しながら、部門全体、会社全体として成果を最大化させることにあります。つまり、成果を出すためには「任せっぱなし」にするのではなく、任せた後の支援や管理こそが重要なのです。

 また、成果を出すためには人の能力だけでなく、業務量の調整、予算の確保、他部署との連携など、組織全体のバランスを整えることも必要不可欠です。どんなに優秀な社員であっても、周囲の支援がなければ力を発揮できませんし、逆に普通の能力の社員でも、適切な環境と明確な指示があれば十分に力を発揮することができます。

 もし、どうしても成果が上がらない場合には、その社員が悪いと決めつける前に、自分たちのマネジメントに改善の余地がないかを省みることが、健全な組織運営の第一歩です。人のせいにするのは簡単ですが、それでは根本的な解決にはなりません。経営者や管理職としての力量は、こうした困難な状況にどう向き合い、組織を前進させるかによって問われるのです。

 社員個人の責任を追及するよりも、自分たちがどのように組織を整え、動かすかに目を向ける。これこそが、成果を出すための社長・管理職の真の役割であるといえるでしょう。

まとめ:信頼と成果を両立させるために必要な視点

 信頼して仕事を任せたのに成果が上がらない——このような場面に直面すると、つい「社員が悪い」「信頼を裏切られた」と感じてしまいがちです。しかし、本質的に大切なのは、信頼と成果は必ずしも比例するものではないという理解です。信頼があるから任せるという姿勢自体は前向きで尊いものですが、その結果として成果が上がるかどうかは、また別の問題なのです。

 成果を出すには、適切な人選、具体的な指示、環境整備、そして支援体制の構築など、社長や管理職による戦略的な判断が欠かせません。「任せた以上は責任も自分にある」という覚悟を持ち、そのうえで部下の力量や状況に応じた適切な関わり方を選択することが求められます。

 信頼するとは、ただ放任することではなく、必要に応じて見守り、支え、導く姿勢を持つことです。そして、仮に任せた結果うまくいかなかった場合でも、その失敗を次にどう活かすか、どのように軌道修正するかによって、組織全体の成長につなげることができます。

 経営者として、また管理職として重要なのは、「信頼」と「成果」のバランスを見極めながら、常に自らの判断と責任を自覚し、最終的に会社の力となる成果を導いていくことです。その視点を持つことが、組織の持続的な成長に繋がっていくのです。

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