人事異動

賃金減額を伴う人事異動の法的リスクと対策|トラブルを防ぐポイント

動画解説

賃金減額に関するトラブルを防ぐために

 人事異動に伴い賃金を減額することは、企業側にとっては合理的な判断であっても、従業員からすれば生活に直結する問題となるため、慎重に進める必要があります。

 企業としては、業務内容が変わり、責任が軽減されるのであれば、それに応じた賃金の調整を行うのが自然なことだと考えるでしょう。しかし、従業員の立場では、給与が下がることで生活が圧迫され、不満が生じやすくなります。特に、過去に同様の異動がほとんど行われていない場合、従業員が「これはおかしいのでは?」と弁護士や労働基準監督署に相談するケースも少なくありません。

 また、企業が「正当な理由がある」と考えていても、法的に問題がないかどうかは別問題です。賃金減額の実施に際しては、適切な根拠が求められるため、慎重に対応しなければなりません。

賃金減額の法的リスクと根拠の必要性

 賃金減額を伴う人事異動を実施する際には、以下の点を確認する必要があります。

  1. 就業規則・雇用契約書に根拠があるか
     人事異動によって賃金が変更されることがあると、明確に定められているかどうかを確認します。単に「業務内容の変更に応じて給与が変わる場合がある」といった曖昧な記載では、法的に認められない可能性があります。
  2. 過去の運用実績があるか
     これまで同様のケースがあり、従業員が異動による賃金変更を受け入れていたかどうかも重要です。過去に例がない場合、従業員側が異議を唱えやすくなります。
  3. 合理的な説明ができるか
     企業側が「この異動がなぜ必要なのか」「なぜ賃金減額が妥当なのか」を客観的に説明できるよう準備することが不可欠です。単に「業績が悪化した」「役割が変わった」ではなく、具体的な業務内容の変更とそれに伴う責任の変化を示すことが求められます。

賃金減額が許容されるケースと対策

 賃金減額を伴う人事異動のトラブルを防ぐために、以下のような対応を検討しましょう。

  • 役職手当の取り扱いを明確にする
     例えば、「部長から課長への降格により、役職手当がなくなる」といったケースは比較的受け入れられやすいです。このように、明確な基準を設けることで、従業員の納得を得やすくなります。
  • 業務ごとの賃金体系を整備する
     例えば、「営業職は〇万円、事務職は△万円」といった形で、職種ごとの給与体系を明確にしておくことで、異動による賃金変更の納得感を高められます。
  • 事前に個別面談を実施する
     賃金減額を伴う異動を行う場合、本人と十分に話し合い、不満を抱かせないように配慮することが重要です。説明の仕方次第で従業員の理解を得られることも多いため、適切な対応を心がけましょう。

人事異動におけるリスクと企業の対応

 賃金減額が法的に有効であると判断されたとしても、無制限に認められるわけではありません。特に、以下の点に注意する必要があります。

  • 不利益が過大ではないか
     人事異動により賃金が下がること自体は許容される場合がありますが、「通常甘受すべき範囲」を超えていると判断されると、無効とされる可能性があります。たとえば、賃金が大幅に減少する場合や、生活への影響が極端に大きい場合は、慎重な対応が求められます。
  • 異動の目的が正当か
     異動が「嫌がらせ」や「自主退職を促す目的」と見なされると、不当な人事措置として無効とされる恐れがあります。そのため、異動の必要性を具体的に説明できるように準備しておくことが重要です。
  • 従業員との合意形成を図る
     給与減額が伴う異動に対して、従業員の理解と納得を得るために、事前の協議や説明を徹底することが不可欠です。合意を得られれば、後々のトラブルを未然に防ぐことができます。

まとめ

 賃金減額を伴う人事異動は、企業にとって合理的な判断であっても、従業員からすれば大きな不利益となるため、トラブルになりやすいものです。

  • 就業規則や雇用契約に明確な根拠を持たせる
  • 過去の運用実績を確認し、適切な説明を行う
  • 従業員との合意形成を図り、不満が生じないよう配慮する

 これらの点に留意しながら、適切な対応を行うことが重要です。

 四谷麹町法律事務所は、会社経営者の皆様を労働問題のストレスから解放したいという強い思いのもと、日本全国各地の会社経営者のために、労働問題の予防解決に当たっています。

 労働問題は、訴訟や労働審判になる前の段階から適切な対応を行うことで、企業側の負担を軽減し、トラブルの早期解決が可能となります。

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問題社員への初期対応と対処法

問題社員に対して適切な初期対応を行うことは、職場の秩序や他の社員への影響を最小限に抑えるために重要です。ここでは、問題社員への初期段階での対処方法について解説します。

事実確認と記録の徹底
  • 問題行動が発生した日時・内容・状況を正確に記録する
  • 関係者へのヒアリングを実施し、証言を収集する
  • 感情ではなく客観的な証拠を重視する

記録と証拠は、後の注意指導や懲戒処分、さらには法的措置の裏付けにもなります。必ず組織として一元的に管理することが望ましいです。

本人への面談と注意喚起
  • 具体的な問題点を示し、改善を求める
  • 面談内容は記録に残し、本人にも共有する
  • 必要に応じて第三者(人事担当者など)を同席させる

曖昧な表現を避け、どの行為が問題であり、どう改善すべきかを明確に伝えることが重要です。また、本人の言い分にも耳を傾けることで、今後の対策に役立てることができます。

改善期間の設定とフォローアップ
  • 一定の改善期間を設け、経過を観察する
  • 定期的に面談を実施し、進捗を確認する
  • 改善が見られない場合は次の段階へ進む準備を行う

「改善のチャンスを与える」ことが法的にも重要視されるため、公平性と合理性を持った対応が求められます。定期的なフォローで改善の可能性を模索しましょう。

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