問題社員

パワハラだと訴え、指導に従わない社員への正しい対応法とは

動画解説

はじめに:指導をパワハラと主張する社員にどう対処するか

 業務を進めるうえで、社員に注意や指導を行うのは当然必要な場面があります。間違ったやり方をしている社員には改善を促すべきですし、職場内で迷惑行為があれば止めなければなりません。

 ところが最近では、こうした指導に対し、「それはパワハラだ」と反発してくる社員も珍しくありません。この10年以上で「パワハラ」という言葉は急速に一般化し、経営者にとって神経を使うテーマとなりました。

 しかし、社員から「パワハラ」と言われるのを恐れて、本来必要な注意指導ができないようでは、職場の秩序が保てません。たとえば、嫌がらせを受けている社員がいたとしても、加害者に指導できなければ職場の雰囲気は悪化し、最悪の場合は被害者が離職してしまうことさえあります。

 だからこそ、経営者として「必要な注意指導」は毅然と行っていくべきなのです。

「相手がパワハラと感じたらパワハラ」ではない

 まず押さえていただきたいのは、「相手がパワハラだと感じたら、それはパワハラになる」という考え方は誤りだということです。

 厚生労働省の定義によると、パワハラとは次の3つの要素を満たすものです。

・ 優越的な関係に基づいて
・ 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動によって
・ 労働者の就業環境を害すること

 つまり、仮に相手が「パワハラだ」と主張しても、その指導が業務上必要であり、かつ相当な範囲内で行われたものであれば、客観的に見てパワハラとはなりません。

 「私はそう感じたからパワハラです」と一方的に主張されるような職場では、何も言えなくなってしまいます。問題行動を起こす社員を放置することで、周囲の社員が苦しむような環境を生んではならないのです。

客観的な基準で判断される「就業環境の害」

 「就業環境が害されたかどうか」は、あくまで「平均的な労働者の感じ方」を基準に、客観的に判断されます。本人がどう感じたかという「内心」だけで決まるものではありません。

 この「平均的な労働者の感じ方」とは、同じような立場にいる大多数の労働者であればどう感じるか、という視点です。経営者にとってはピンと来ないかもしれませんが、例えば「大多数の一般的な社員であれば、それをパワハラと受け取るだろうか?」という観点で判断するのが基本となります。

 判断が難しい場合には、早めに弁護士にご相談いただければ、リスクの程度を含めて助言することが可能です。

パワハラとならない注意指導の3つのポイント

1. 事実に基づく具体的な指摘をする

 注意指導を行う際に最も大切なのは、「評価」ではなく「事実」に基づいて話すことです。

 たとえば、「協調性がない」といった抽象的な評価ではなく、「○月○日○時に、△△さんに対してこういう発言をした」というように、具体的な事実を伝えることで、教育効果も高まり、パワハラとされるリスクも大きく下がります。

 また、事実に基づく指導であれば、業務と無関係な話になることもなく、客観的にも合理的な指導と認められやすくなります。

 反対に、曖昧で抽象的な言葉(「勤務態度が悪い」など)ばかりで終わってしまうと、何が悪いのか伝わらず、教育効果は低くなります。最悪の場合、指導する側が感情的に見え、パワハラと誤解される可能性も生まれます。

2. 「ギリギリセーフ」を狙わない

 経営者の中には、「これはセーフか、アウトか」という線引きばかりを気にされる方もいます。しかし、これは注意指導の本質から外れた考え方です。

 本来、指導は職場を良くするため、業務を円滑に進めるため、社員の成長を促すために行うものです。であれば、「どのような伝え方が最も効果的か」という観点からアプローチすべきです。

 「パワハラにならないギリギリのライン」を探すのではなく、「効果的で誤解されにくい伝え方」を心がけましょう。結果として、それが最も安全で実りのある対応になります。

3. 注意指導の実践を“練習”しておく

 実は、パワハラに該当しない注意指導を行うには、ある程度の“練習”も必要です。

 知識として「こうすれば大丈夫」と分かっていても、実際に問題のある社員を前にしたときに、感情的にならず、的確に伝えるには訓練が欠かせません。

 たとえば、社内でロールプレイを行うことも有効です。問題社員役と経営者役を設定し、実際に指導場面を再現してみる。できれば第三者にフィードバックをもらうとさらに良いでしょう。

 私自身、弁護士としてこうした「練習相手」をすることもありますが、弁護士相手にうまく話せる方であれば、実際の社員対応では十分通用します。

おわりに:パワハラを恐れず、正しい指導を行うことが経営者の責務

 昨今、コンプライアンスの重要性が高まるなか、経営者の皆さまが「パワハラだ」と言われるのを恐れて萎縮してしまう気持ちも理解できます。

 しかし、忘れてはならないのは、「指導をする目的」です。それは、職場の秩序を守るためであり、真面目に働く社員を守るためであり、組織として良い仕事をしていくためです。

 必要な注意指導であれば、たとえ「パワハラだ」と言われても、恐れずに毅然と対応していただきたいと思います。それが、経営者としての責任であり、職場を守る唯一の方法です。

会社側専門の弁護士のサポート

 四谷麹町法律事務所では、問題社員(モンスター社員)の対応に関して、個別の注意指導の仕方や、懲戒処分の進め方等、具体的なサポートを行っています。訴訟や労働審判になる前の段階から適切な対応を行うことで、企業側の負担を軽減し、トラブルの早期解決が可能となります。問題社員の対応でお悩みの際は、会社側専門の経験豊富な四谷麹町法律事務所にぜひご相談ください。

社労士や弁護士に相談すべきケースとその効果

問題社員への対応においては、一定の段階で専門家である社労士や弁護士への相談が不可欠となる場合があります。法的なリスクを避け、適切な手続きを進めるためにも、外部のプロの知見を活用することは非常に有効です。ここでは、相談すべき典型的なケースと、実際に得られる効果について解説します。

専門家に相談すべき代表的な場面
  • 社員が労働契約や就業規則に違反しているが処分方法に迷う
  • 問題社員との面談内容を法的に正しく記録したい
  • 改善指導を重ねても状況が改善せず、解雇を検討している
  • 問題社員が会社に対して逆に訴訟や労基署への通報を示唆している
  • ハラスメントやパワハラに該当するか判断に迷う行為がある

このようなケースでは、独自判断で対応を進めると、かえって法的リスクを高めるおそれがあります。初動の段階で適切な助言を受けることが重要です。

社労士や弁護士に相談するメリット
  • 企業が取りうる合法的かつ適正な対応策を明確化できる
  • 処分や解雇に関する書面の整備・証拠の確保ができる
  • 法的トラブルへの事前予防とリスク回避が可能になる
  • 社員とのトラブルを冷静かつ公正に収束できる
  • 社内担当者の精神的負担を軽減できる

法的な判断を要する場面では、社労士は労務管理の観点から、弁護士は法的対応の観点から支援を行います。それぞれの専門性を踏まえて適切に選ぶことがポイントです。

問題社員への対応は、感情に流されず、客観的かつ法的根拠に基づいた対応が求められます。少しでも不安がある場合は、早期に専門家へ相談することで、組織全体のリスク軽減につながります。

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