2025.06.16
「人のせいにする社員」への具体的な対応策|他責傾向を放置しないマネジメントとは?

目次
動画解説
他責傾向が強い社員とはどのような人物か
職場でのトラブルや業務の遅延、不備などの指摘に対し、「自分は悪くない」「上司がきちんと指示していない」「同僚が協力してくれない」「アルバイトがミスをした」などと、必ず何かしら“他人のせい”にするタイプの社員が存在します。こうした傾向を持つ社員は、指導を受けても素直に受け止めず、むしろ自分を被害者の立場に置くような言動が目立ちます。
このような社員は、見た目上は協調的に見えても、責任が問われる場面では自らの非を一切認めようとしません。結果として、問題の本質に向き合うことなく、同じようなミスやトラブルを繰り返す傾向が強くなります。他責傾向が強い社員の中には、指摘されるとすぐに「それは自分ではなく●●の責任です」といった反応を取るため、注意指導に非常に神経を使うことになります。
本人は必ずしも悪意があってそのように振る舞っているわけではなく、むしろ「自己防衛の癖」として染みついてしまっているケースが多く見受けられます。これは言わば“自動運転モード”のようなもので、トラブル時には反射的に他人を責める方向に発想が進むのです。したがって、こうした社員に対して「もっと自分で反省しろ」と精神論で責めても効果は薄く、かえって反発を招く恐れさえあります。
他責傾向をそのままにすると会社に生じる悪影響
他責傾向のある社員を放置することは、職場全体に深刻な悪影響をもたらします。まず第一に、チームワークの低下です。人のせいにする姿勢が目立つ社員がいると、その周囲にいる同僚たちは「自分が責められるのではないか」「また矛先がこっちに来るのでは」と常に疑心暗鬼になります。その結果、報連相が滞ったり、積極的な発言が控えられたりと、職場の雰囲気が沈滞していきます。
また、他責傾向の社員によって引き起こされる誤解やトラブルが継続的に起きると、他の社員たちは精神的に疲弊していきます。「どうせまた人のせいにされる」「正直者が損をする」という風潮が広がれば、職場全体の生産性は確実に低下します。
さらに重大なのが、優秀な人材の流出です。まじめに取り組む社員ほど、このような不公平な環境に強いストレスを感じます。自分ばかりが責任を背負わされ、他の社員は責任逃れしているという不満が蓄積されれば、転職を真剣に検討するようになります。結果的に、職場に残るのは“責任感のない者”ばかりになってしまう危険性すらあるのです。
このように、「人のせいばかりにする社員」をそのままにしておくと、企業にとって非常に高い代償を払うことになります。早期に手を打ち、対策を講じることが求められます。
他責傾向そのものを直そうとしない方針の重要性
「人のせいにするな」「もっと素直になれ」といった精神論に基づく注意は、一見正論のようでありながら、実は問題の解決にはほとんどつながりません。それは、考え方や性格といった“内面”の変化を求めるものであり、労働契約上、使用者が社員に対して指導・是正を求められる範囲を超えてしまっているからです。
憲法でも保障されているとおり、思想・信条の自由は極めて重要な権利です。そのため、会社が社員に「このように考えなさい」「このような価値観を持ちなさい」と命じることはできません。したがって、「他責傾向をやめて、自責的な思考を持ちなさい」といった指導は、現実的でも法的にも難しいのです。
重要なのは、「思考の矯正」ではなく「行動の改善」です。たとえ心の中で「上司が悪い」と思っていたとしても、表に出す言動が適切であれば問題にはなりません。つまり、職場の秩序を乱さず、他人を責める発言を控え、業務を円滑に進める行動さえ取っていれば、思考内容までは問われないのです。
ですから、他責傾向が見られる社員に対しては、「他責思考をやめさせる」ことを主目的とするのではなく、「秩序を守り、職場内で適切な行動を取ってもらう」ことに主眼を置いて指導を進めるべきなのです。
このアプローチこそが、現実的かつ法的にも正しい指導の方向性であり、結果的には他の社員たちの士気や職場環境の健全化にもつながっていくのです。
フォーカスすべきは「行動の改善」である理由
他責傾向を持つ社員への対応では、「性格を変えさせる」「考え方を直す」といった指導をしてしまいがちです。しかし、それでは根本的な解決にはなりません。なぜならば、性格や思考は一朝一夕で変わるものではなく、またそれを変えること自体が労働契約上の義務でもないからです。
企業が社員に対して正当に要求できるのは、「適切な行動をとること」に限られます。行動は観察可能であり、かつ業務上の評価対象となるため、具体的な指導と改善が可能です。したがって、注意指導においては「どのような行動が問題なのか」「どのような行動に改めるべきなのか」を明確に示すことが求められます。
このように、行動にフォーカスを当てることで、社員側も指導内容を具体的に理解しやすくなり、納得感を持って受け入れることが可能になります。これが、反発を最小限に抑えつつ、持続的な改善を促す最も効果的なアプローチなのです。
具体的な注意指導の方法(5W1Hの指摘と改善指導)
他責傾向のある社員への対応において、最も効果的な方法の一つが「具体的な言動に基づいた指導」です。抽象的に「もっと周囲と協力しなさい」とか「人のせいにしないように」といった助言では、当の本人には響かず、改善にもつながりにくいのが現実です。
このような場合には、「いつ(When)・どこで(Where)・誰が(Who)・何を(What)・なぜ(Why)・どのように(How)」という5W1Hのフレームワークを用いて、具体的な事実に基づいた指摘を行うことが重要です。たとえば、「6月1日の朝会で、Aさんに対して“この失敗はあなたのせいだ”と発言していたが、実際は資料の確認を怠ったあなたにも原因があった」というように、詳細に事実を示しながらフィードバックを行います。
また、指摘する際は「このような言動が、職場の秩序を乱している」「他の社員のモチベーションを下げている」など、会社全体に与える影響も明確に伝えることが効果的です。単なる叱責ではなく、改善の必要性と意味を納得させることが求められます。
さらに、「次からはこういう場面ではこう発言するように」「このような事実確認を必ず事前に行ってから発言するように」といった、改善行動を明確に示すことも忘れてはいけません。「気をつけて」「もっと協調性を」ではなく、「○○の場面では△△する」といった形で具体化することにより、本人が何をすべきかを理解しやすくなります。
こうした注意指導の積み重ねが、徐々に行動の改善へとつながります。もちろん、一度の面談で完璧に改善することは稀です。しかし、具体的な指摘と改善の方向性の提示を繰り返すことで、徐々に他責の姿勢が変わっていくケースも多くあります。指導のポイントは「人のせいにしないで」と責めることではなく、「どのように振る舞えば職場が円滑になるか」を共に考える姿勢を持つことです。
指導時の環境設定と注意点
実際に他責傾向のある社員に注意指導を行う際は、その環境設定にも細心の注意を払う必要があります。普段の業務中に立ち話のような形で注意をしても、相手の集中力が散漫になっていたり、指導の重みが伝わりにくいというリスクがあります。したがって、しっかりと時間を確保し、会議室などで改まった形で話をすることを強くおすすめします。
また、遠隔地勤務の社員や支店勤務の社員に対しては、TeamsやZoomといったオンラインツールの活用も有効です。この場合、必ずお互いがカメラをオンにして、顔を見ながら指導を行うことが重要です。表情や態度はコミュニケーションの大切な要素であり、顔を出すことで注意指導に対する真剣さも伝わります。
「体調が悪いので今日はカメラをオフにしたい」という申し出がある場合には、1回限りであれば認める判断もできますが、常習的なカメラオフは指導効果を大きく下げてしまいます。顔を隠すことで、無意識に責任から逃れようとする心理が働くこともあるため、極力避けるべきです。
こうした環境設定を丁寧に整えることで、相手にとっても「これは単なる軽い注意ではない」と理解してもらいやすくなり、指導内容がより深く伝わるようになります。
指導時の環境設定と注意点
実際に他責傾向のある社員に注意指導を行う際は、その環境設定にも細心の注意を払う必要があります。普段の業務中に立ち話のような形で注意をしても、相手の集中力が散漫になっていたり、指導の重みが伝わりにくいというリスクがあります。したがって、しっかりと時間を確保し、会議室などで改まった形で話をすることを強くおすすめします。
また、遠隔地勤務の社員や支店勤務の社員に対しては、TeamsやZoomといったオンラインツールの活用も有効です。この場合、必ずお互いがカメラをオンにして、顔を見ながら指導を行うことが重要です。表情や態度はコミュニケーションの大切な要素であり、顔を出すことで注意指導に対する真剣さも伝わります。
「体調が悪いので今日はカメラをオフにしたい」という申し出がある場合には、1回限りであれば認める判断もできますが、常習的なカメラオフは指導効果を大きく下げてしまいます。顔を隠すことで、無意識に責任から逃れようとする心理が働くこともあるため、極力避けるべきです。
こうした環境設定を丁寧に整えることで、相手にとっても「これは単なる軽い注意ではない」と理解してもらいやすくなり、指導内容がより深く伝わるようになります。
担当者の選定と上司のマネジメント力の影響
他責傾向のある社員への対応は、誰がその任に当たるかによって成果が大きく異なります。言語能力が高く、相手にわかりやすく説明できる上司や人事担当者が指導することで、改善の可能性が高まります。
一方で、部下の管理があまり得意でない上司に対応を任せてしまうと、「うまく言えない」「細かい事例を挙げて説明できない」といった理由から、かえって事態を悪化させてしまう恐れもあります。このような場合は、人事部門や、より経験のある管理者に対応を委ねるのが適切です。
また、注意指導が一時的に成功しても、その後の継続的なマネジメントが不十分であれば、社員の行動はすぐに元に戻ってしまうことがあります。したがって、初回の面談だけでなく、その後のフォロー体制まで含めて、しっかりと社内で体制を整えていくことが求められます。
社長自身が対応すべきケースとその備え
会社の規模が小さく、管理職の人数が限られている場合には、社長自身が他責傾向のある社員と向き合わなければならない場面もあります。このような場合、たとえ対人対応や説明が苦手だとしても、会社全体の秩序を守るためには、腹をくくって対応する覚悟が必要です。
しかし、「自分一人では不安だ」「話し方に自信がない」と感じる場合には、弁護士などの専門家と相談しながら準備を進めることをおすすめします。話す順序、使う言葉、想定される反応とその対応まで、事前にイメージしておくことで、面談の質が大きく向上します。
また、感情的にならず冷静に対応することが大切です。あくまで冷静かつ論理的に「行動の改善」を求める立場で臨むことで、無用なトラブルを回避しつつ、職場秩序を保つ方向へと導くことができます。
継続的なマネジメントと専門家の活用
他責傾向のある社員に対しては、一度の指導だけでなく、日常的なマネジメントを継続的に行う必要があります。改善の兆しが見えても、元に戻る可能性は十分にあります。そうならないためには、一定期間のフォローアップ面談や、定期的なフィードバックの実施が重要です。
また、対応に悩んだ場合には、弁護士によるコンサルティングを受けるのも非常に有効です。単に法律の知識を得るだけでなく、「どのような言葉で」「どのタイミングで」「どのような順序で」指導を行えば効果的なのかといった、日本語レベルでの指導設計まで相談することができます。
特に、社内で対応が難しい社員については、専門家の知見を借りることで、より客観的かつ法的な妥当性のある対処が可能となります。
四谷麹町法律事務所では、問題社員への対応に関して、個別の注意指導の仕方や、懲戒処分の進め方、社員への対応方法について具体的なサポートを行っています。訴訟や労働審判になる前の段階から適切な対応を行うことで、企業側の負担を軽減し、トラブルの早期解決が可能となります。問題社員の対応でお悩みの際は、会社側専門の経験豊富な四谷麹町法律事務所にぜひご相談ください。