毎日2時間遅刻、指導しても口論ばかりの社員にどう対応すべきか? 再雇用を避けたい企業が取るべき実務対応

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動画解説
毎日2時間遅刻する社員への対応をどう考えるべきか
毎日2時間近く遅刻して出社し、それを注意されても改善せず、さらに口論になるだけという社員がいた場合、企業として看過できるものではありません。今回のご相談では、50代後半の社員が対象で、勤務態度は最低評価、全く戦力になっていないとのこと。加えて、自己申告制による労働時間の報告制度のもとで、遅刻しているにもかかわらず給与は満額支払われているという現状も明らかになっています。
これは、単なる勤務態度の問題を超え、企業のマネジメントそのものの信頼性や、職場秩序の維持にかかわる重大な課題です。本人の問題行動だけでなく、それを放置してしまっている企業体制にも問題があると考えるべきです。
「定年まで我慢」は本当に正しい選択か
相談内容からは、「定年でなんとかしよう」という思いがにじみ出ています。しかし、それは問題を先送りするだけで、職場の混乱や周囲の士気低下を招く要因にもなります。たとえ定年後の再雇用を拒否できたとしても、それまでの期間、周囲の社員が不公平感や不満を抱えながら働くことになるのでは、本末転倒です。
そもそも、社員が毎日2時間近く遅刻するという明白な問題行動がある以上、定年を待たず、今すぐにでも対応すべきです。目の前の問題から目を背けている限り、再雇用の是非以前に、職場全体の健全な運営が損なわれてしまいます。
管理職が機能していないなら経営者が動くべき
過去に上司が注意したものの、口論になっただけで改善しなかったという経緯があるようですが、それはその上司のマネジメント力不足を示しているに過ぎません。対応できない管理職に任せ続けることは、企業の組織運営上、大きなリスクです。
対応能力のある管理職に交代するか、経営者自身が関与して対応を進めるべきです。社員一人の問題を放置することで、組織全体に悪影響を及ぼす事態を防ぐには、経営者の決断と行動が欠かせません。問題の本質は「誰がその社員に向き合えるのか」という点にあります。
遅刻を放置せず、明確に指導と処分を進める
2時間遅刻が繰り返されているにもかかわらず、それに対する明確な注意や処分が行われていないということは、会社がそれを黙認していると見なされかねません。「言い返せば押し通せる」と社員に思わせてしまうようでは、組織の規律は崩れてしまいます。
まずは会議室などで正式に話し合いの場を設け、「遅刻は認められない」「今後は厳重に対応する」と明確に伝えるべきです。そのうえで、改まらない場合には、厳重注意書の交付や懲戒処分の実施を含めて、段階的かつ具体的に対応していく必要があります。
管理職の力量不足はマネジメント体制の見直しで補う
このような問題に直面している場合、そもそも管理職が問題に正面から向き合えていないことが根本の原因であることも少なくありません。注意をした結果、社員と口論になったというだけで対応を諦めてしまうようでは、管理職の役割を果たしているとは言えません。
会社としては、対応能力のある人材を新たに配置するか、既存の管理職に対する教育・再評価を行うべきです。経営者としても、「任せているから」と放置するのではなく、実際にどのような対応がなされているのかを確認し、適宜介入する必要があります。
既得権益化した遅刻常態にどう対処するか
問題社員の行動が長期間にわたって放置されていた場合、その状態が本人にとって“既得権益”のように感じられてしまっていることがあります。「遅刻しても大丈夫」「上司が強く言ってこない」「会社は黙認してくれている」といった誤った認識が根付き、ますます態度が改まらない悪循環に陥ります。
こうした状態を断ち切るためには、まずは明確な方針転換を示す必要があります。これまで黙認していたことも、今後は認めないという立場をはっきり伝え、それに基づいた行動を示すことで、ようやく再スタートが切れるのです。
自己申告制と満額支給が生む制度上のリスク
遅刻が常態化しているにもかかわらず、タイムカードがなく、自己申告により満額給与が支払われているという運用は、企業にとって重大なリスクです。特に、後日トラブルが発生した場合、「会社が虚偽申告を黙認していた」とみなされる可能性もあり、社会的信用にもかかわります。
労働時間の正確な把握は、労務管理の根幹です。自己申告制を採用しているのであれば、管理職が実態を把握し、不正確な申告にはきちんと是正を求める体制を整えることが不可欠です。
社内ルールと実態のズレを是正する責任
「遅刻しても給与は満額支給される」という事実が、制度として定められているわけではないにもかかわらず、慣習的に行われているとすれば、それは組織としてのマネジメント不全です。経営者としては、実態とルールの乖離を正し、社内全体に一貫した運用がなされるよう仕組みを再構築すべきです。
ルールを明文化し、それを徹底することによって、社員に対しても明確な基準を示すことができ、職場秩序の維持にもつながります。
定年後再雇用拒否は「今のマネジメント」次第
「この社員を定年後は再雇用したくない」という気持ちはよく理解できますが、その判断は現時点のマネジメントの在り方に大きく左右されます。現在の状況では、本人だけでなく、会社側の管理にも問題があると見なされるため、再雇用拒否の正当性を主張するのは難しいといえます。
まずは現在の問題行動に対して適切な注意指導や懲戒処分を行い、それでも改善されないという実績を積んだうえで、再雇用を断る判断を行う必要があります。つまり、再雇用を拒否するには、それに足るだけのマネジメントの努力が会社側に求められるのです。
正しい指導と処分が社員の自主的退職を促すことも
厳格なマネジメントを進めることで、本人が「この会社では自分のやり方は通用しない」と感じ、自ら再雇用を希望しないという結果につながる可能性もあります。会社がルールを明確にし、毅然とした対応を取り続ければ、社員もその環境に適応するか、退職を選ぶかの判断を迫られることになります。
このように、直接的な拒否をしなくても、正しい手順を踏んでマネジメントを行うことで、会社側の望む結果を実現することが可能です。
職場秩序の回復に向けた経営陣の覚悟が問われる
社員一人の問題行動を放置しておくと、それが職場全体に悪影響を及ぼします。注意しても改善せず、上司との口論を繰り返し、遅刻が常態化していても満額の給与が支払われているという現状は、もはや個人の問題ではなく、組織の統治能力そのものが問われる事態です。
定年を待っての解決ではなく、「今」こそが対応のタイミングです。経営者自身が主体的に動き、問題に真剣に向き合うことで、企業文化を健全な方向へと修正することができます。
四谷麹町法律事務所では、問題社員への対応に関して、注意指導の仕方、懲戒処分の進め方、給与制度の見直し、再雇用の可否判断に至るまで、企業の実情に応じた具体的なサポートを提供しています。また、社内のマネジメント体制の見直しや管理職への指導体制の構築支援も行っています。
定年前後に限らず、日常のマネジメントでお困りの際は、会社側専門の経験豊富な四谷麹町法律事務所に、ぜひご相談ください。