パワハラ・セクハラ

ハラスメント申告後に新事実を追加する社員への正しい対応法とは?企業側の適切な判断と処分手続きの進め方を解説

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ハラスメント申告後に新事実を追加してくる社員への対応に悩む経営者の皆様へ

 社内でのハラスメント申告に対応し、事実調査を行い、会社として懲戒処分の内容を決定。その結果を申告者に説明したところ、処分が「軽すぎる」と不満を示すとともに、それまで申告していなかった新たな事実を追加で申告してくる社員がいます。このようなケースでは、対応を誤ると企業としての信用を損ねかねないため、慎重かつ的確な判断が求められます。本稿では、懲戒処分に対する申告者の意向との向き合い方や、後から申告された新事実にどのように対応すべきかを、法的・実務的視点から詳しく解説していきます。

被害者の処罰感情と懲戒処分の決定権のバランス

 まず確認すべきは、懲戒処分の決定に際して、申告者(被害者)の処罰感情をどの程度考慮すべきかという点です。確かに、被害者の感情や要望は軽視すべきではなく、処分を決定する際の一つの要素として考慮されるべきものです。

 しかしながら、懲戒処分は感情に基づいて決めるものではなく、会社が客観的・合理的な根拠に基づいて決定すべきです。会社は、就業規則などのルールに基づき、社会通念や過去の事例、社内秩序など総合的に判断し、適切な重さの処分を決める必要があります。

 そのため、被害者から「もっと重い処分にしてほしい」と言われた場合でも、その意向をそのまま採用するのではなく、必要に応じて理由を丁寧に説明し、会社の決定内容に納得してもらうよう努力することが求められます。感情的な要求に屈して処分を不当に重くしてしまうと、後に「懲戒権の濫用」として処分が無効と判断されるリスクもあるため、十分に注意してください。

追加申告された事実への対応はどうあるべきか

 次に、新たな事実を追加で申告された場合の対応についてです。たとえば、すでに懲戒処分の決定が下され、通知を出す直前の段階で、申告者から「実はこういうこともありました」と別の事実を申告された場合、それにどう対応するかは悩ましい問題です。

 対応としては、すでに決定済みの処分は予定どおり実施し、新たな事実については別途調査を行い、必要があれば再度懲戒処分を検討するという形が基本になります。ただし、この新たな事実が、既に処分された内容と密接に関連している場合には、処分の一括見直しも検討対象となります。

 なぜなら、類似・関連性の強い事実について個別に懲戒処分を行うと、処分を受ける側から「二重処罰ではないか」「不公平ではないか」といった疑問が生じることがあるからです。こうしたケースでは、調査と判断を一度にまとめて行ったほうが、処理としても妥当性が高く、被処分者の納得感も得やすいでしょう。

一度決まった懲戒処分と新たな事実の処理の仕方

 懲戒処分がすでに決定されており、新たな事実がその直後に申告されたという状況では、その新事実の性質や影響度を見極めたうえで適切な処理方法を選択することが大切です。

 たとえば、新たな事実が軽微で、既に決定された処分の内容に影響を与えるものではないと判断できる場合には、そのまま処分を進めても差し支えないでしょう。ただし、新しい事実が重大であり、当初の判断に影響を与えるほどであれば、処分の一時保留や再検討を含めた柔軟な対応が求められます。

 このような場面では、会社の就業規則や処分決定に至ったプロセス、社内の公平性なども踏まえて総合的に判断する必要があります。対応を誤ると、懲戒処分自体が無効となるリスクや、社内外からの批判を受ける可能性もあるため、判断に迷った場合は弁護士と連携し、慎重に進めることを強くおすすめします。

今後の申告追加を防ぐ工夫と事前対応策

 こうした後出しの申告が一度ならともかく、二度三度と繰り返される場合、会社としても調査対応に多大な労力を要し、秩序を乱すことにもなりかねません。そのため、再発防止のための対策も必要です。

 一つの方法としては、「今回の申告に関しては、これまでのすべてのハラスメント行為を出し切ってください。今回出されなかったものについては、今後の対応対象外とします」といった形で、明確な期限とルールを伝えることが挙げられます。

 これは、申告者の言い分を一切否定するのではなく、「今後の対応を明確にするために必要なプロセスです」と丁寧に説明することで、納得してもらうことが重要です。こうした対策により、会社の調査体制を過度に混乱させることなく、一定の秩序を保ちながら申告に対応することが可能になります。

弁護士と連携し、個別の判断で対応する重要性

 最後に、これらの対応方針を決定するうえでは、会社の就業規則や懲戒の考え方、社風や過去の事例など、さまざまな事情を総合的に考慮する必要があります。そして最終的には、経営者が自らの責任で判断を下すという姿勢が不可欠です。

 とはいえ、懲戒処分やハラスメント対応は法的リスクを伴う領域ですので、判断に迷った際は労働問題に詳しい弁護士と連携し、慎重に進めてください。弁護士の助言を得ることで、対応の正当性や合理性を確保し、会社としてのリスクを最小限に抑えることができます。

 四谷麹町法律事務所では、ハラスメント問題の初動対応から、懲戒処分の検討、申告への具体的な対処方針の立案まで、会社側専門の弁護士が実務的にサポートいたします。社員対応に関する判断に迷われた際は、ぜひ一度ご相談ください。

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