パワハラ加害者が異動を拒否したら?企業が取るべき正当な対応と判断基準

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パワハラ加害者が「異動を拒否」するとき、企業が取るべき対応とは
パワハラを行った社員が、指導後しばらくしてから「自分は悪くない」と主張し始め、異動を拒んで今の部署に残ろうとする。このような事態は、企業として非常に難しい対応を迫られるケースの一つです。特に、被害者との関係が悪化しており、被害者の退職が現実的に心配されるような状況では、加害者をどう扱うかは企業の判断が直接的に職場環境に影響を及ぼします。
このようなケースでは、会社としての原則的なスタンスは「加害者の異動」です。加害者が異動を拒否していても、被害者の退職リスクが高まっている以上、加害者を被害者と引き離す必要があります。では、その異動はどのタイミングで、どのように行うべきなのでしょうか。
異動のタイミングは「可能な限り速やかに」
異動のタイミングについては、「できる限り速やかに行う」ことが基本です。人間関係が悪化していることが明確で、被害者の退職リスクがあるのであれば、加害者と被害者を一日でも早く引き離す必要があります。もし異動の実行までに時間がかかる場合でも、引き離すための措置を即時に講じなければなりません。
たとえば、事業所が小規模で物理的に鉢合わせを避けることが難しい場合は、「自宅待機」を検討するのも一つの方法です。この場合、原則として会社が賃金を負担することになりますが、被害者を守るためには必要な対応です。パワハラの程度が重く、懲戒処分に値するような事案であれば「出勤停止処分」として無給扱いにする方法もあります。
いずれにしても、被害者が安心して勤務を継続できるよう、加害者との接触を最小限に抑える措置を速やかに講じることが求められます。
説得は必要、だが命令が基本
加害者が異動を拒んでいる場合、まずは会議室などで話し合いの場を設け、「なぜ今の部署で働き続けたいのか」という理由を丁寧に聞き取ることが大切です。その上で、会社側から異動の必要性について具体的に説明を行います。たとえば、「被害者との関係が悪化しており、これ以上同じ職場で働かせることは困難である」「今後の業務運営に支障が出る」など、現実的な根拠を明確に伝えるべきです。
ただし、いくら話し合いを重ねても、説得に応じない社員は一定数存在します。その場合は「打診」ではなく「命令」として、正式に人事異動の辞令を交付することが必要です。「打診」はあくまで本人の意向確認であり、断られても命令違反にはなりません。本当に異動が必要だと判断するのであれば、正式な「人事異動命令」を出していく必要があります。
有効な人事異動命令の条件とは
命令としての異動を行う際には、その有効性にも注意が必要です。第一に確認すべきは「人事異動の権限が会社にあるかどうか」。特に、職種や勤務地に制限のある雇用契約を結んでいる場合、異動の命令自体が権限外とされるリスクがあります。正社員で一般的な契約内容であれば、多くの場合は問題ありませんが、パートや特殊な業務契約などの場合は慎重に判断すべきです。
次に検討すべきは、その異動が「権利の濫用」に当たらないかという点です。たとえば、不当な動機による異動、または著しく過酷で通常耐え難い不利益を加えるような異動は、無効とされる可能性があります。しかし、「パワハラ加害者を被害者から引き離す目的」での異動であれば、正当性があると評価されるケースが多く、問題となることはあまりありません。
懲戒処分を実施していない場合の問題点
今回のように加害者が「自分は悪くない」と言い出し、異動を拒否する背景には、会社側が適切な懲戒処分を行っていないことが影響している可能性があります。たとえば、指導はしたものの「厳重注意書」や「譴責」などの正式な処分を行わなかった場合、加害者本人が「自分はそこまで悪くない」と思い込み、異動の必要性を感じないことがあります。
本来であれば、パワハラの事実があり、被害者との関係が悪化しているような場合には、適切な重さの懲戒処分を行うことが、会社としてのけじめとなり、被害者への配慮にもなります。また、加害者本人に対しても「これは重大な問題行動だった」というメッセージを伝えることになり、事後の対応が円滑になるケースも多いです。
解雇も視野に入れた最終手段
加害者が正当な異動命令に従わない場合、最終的には「解雇」も視野に入ってきます。もちろん、いきなり解雇ではなく、事前に十分な説得活動や話し合い、必要な手続を経たうえで行う必要がありますが、適切な手続きを踏んだ解雇であれば有効と認められる可能性は十分にあります。
また、解雇を通知した場合に発生するトラブルや退職日までの対応についても、弁護士に相談しながら慎重に進めていくことが重要です。
弁護士への相談は「合法性の確認」だけで終わらせない
弁護士への相談でよくあるのが、「この対応は合法ですか?違法ですか?」という質問だけで終わってしまうケースです。もちろん、法的に問題があるかどうかを確認するのは重要なステップですが、それだけでは不十分です。会社として本当に守りたいのは「企業秩序」や「職場環境の安定」であり、そのためには何を伝え、どのように行動すべきか、教育効果や組織運営の観点も含めた助言を受けるべきです。
被害者を守るため、適正な対応を
本日は、パワハラを行ったにもかかわらず今の部署で働き続けたいと主張する社員への対応について解説しました。加害者の異動は通常の対応であり、それを拒まれても、会社としては毅然とした態度で早急な対応を取ることが求められます。説得活動を行い、適正な懲戒処分を実施し、それでも応じない場合には命令としての異動を行い、最終的には解雇も視野に入れる――そうした一連の対応を丁寧に行うことが、被害者を守り、企業全体の信頼を維持するために不可欠です。
四谷麹町法律事務所では、パワハラを含む労務トラブルに関し、懲戒処分や異動命令の進め方、社員への対応策について企業側に立ってサポートを行っております。対応が遅れるほどリスクは大きくなります。パワハラ対応でお悩みの際は、ぜひ当事務所にご相談ください。