問題社員

注意しても改善しない社員への対応法|顧客対応に問題がある“自覚のない社員”への現実的な対処とは

動画解説

はじめに

 会社を経営していると、社員の顧客対応に悩まされる場面は少なくありません。中でも最も困難なのは、誰が見ても顧客対応が不十分であるにもかかわらず、本人は自分が良い対応をしていると本気で思い込み、注意や指導をしても「自分は悪くない」と反論し続け、改善の努力を見せないタイプの社員です。このような社員にどのように向き合えばよいのかという問題は、多くの経営者が直面する共通の課題です。

 本記事では、弁護士の立場から、こうした社員に対処する際に必要な法的視点と実務上の工夫を詳しく解説していきます。

本人が本気で「自分は正しい」と思っているという現実

 経営者の多くは、問題社員について「本人も自分の問題を理解しているはずだが、言い訳しているだけだ」と考えがちです。しかし実際には、本気で「自分は正しい」と信じ込んでいるケースの方が圧倒的に多いのです。顧客からのクレームが寄せられても「相手が理不尽だっただけだ」と受け止め、注意を受けても「むしろ自分は顧客に喜ばれている」と解釈してしまう社員も存在します。こうした「認識のズレ」を前提にせずに一般的な注意指導を繰り返しても、効果はほとんどなく、むしろ反発を招くことになります。

抽象論ではなく事実ベースの指導が不可欠

 問題社員に対して効果的な指導を行うには、抽象的な言葉ではなく具体的な事実をもとに話をする必要があります。「もっとしっかりやれ」や「気を引き締めろ」といった言葉では、本人はすでに自分はできていると信じているため、指摘の意味がかみ合いません。これに対して「本日の14時に来店した顧客に対して、あなたはこのように答え、その結果このようなクレームが寄せられた」というように、日付、時間、相手の反応まで含めた具体的な事実を示すことが重要です。

 事実に基づく指導はパワハラと評価されるリスクも低く、教育効果も高まります。抽象的に「君は顧客対応が下手だ」と言うよりも、具体的に「あの顧客に対してこの場面でこう答えたことが問題だった」と指摘する方が、本人も無視できませんし、法的にも安全です。

本人に「良い対応」を語らせる手法

 もう一つ有効な手法として、本人に「自分が良い顧客対応をした」と思っている事例を語らせるという方法があります。「今日はこういう場面があって、お客様に喜ばれた」と本人に説明させれば、その内容が本当に妥当かどうかを確認することができます。多くの場合、その説明は曖昧で、客観的に見れば「良い対応」とは言えないものが多いのです。このプロセスを通じて本人に「自分は思い込みで評価していたのかもしれない」と気づかせることができれば、改善への一歩につながる可能性があります。

 ただし、こうした手法を試しても本人の認識が変わらないことも少なくありません。その場合には、別の観点から問題を整理する必要があります。

適性の有無を見極めることの重要性

 顧客対応という業務は、コミュニケーション能力や柔軟な判断力、相手の感情を察知する力などを必要とします。いくら丁寧に指導しても改善が見られない場合、その社員にはそもそも適性がない可能性があります。適性がない人材に無理にこの業務を続けさせることは、本人にとっても大きなストレスとなり、適応障害などの健康問題につながることすらあります。会社としても教育コストばかりが膨らみ、周囲の社員への負担も増していきます。したがって、一定の限界を見極めることは経営上避けられない判断です。

配置転換による解決の可能性

 本人に顧客対応の適性がないと判断される場合、配置転換は一つの有効な選択肢です。社内に顧客対応を必要としない部署があるのであれば、そこに異動させることで能力を発揮できる可能性があります。営業は苦手でも資料作成やデータ分析には強みを持っているという社員もいます。人材を適材適所に配置することは、組織全体の効率化にもつながりますし、本人にとってもストレスを軽減する結果となります。

改善しない場合の最終手段

 しかし、配置転換の余地がなく、改善も見られない場合には、退職勧奨や解雇を検討せざるを得ない場面が出てきます。日本の労働法制において解雇は非常に厳しく制限されており、解雇が有効とされるのは客観的合理性と社会的相当性が認められる場合に限られます。そのため、解雇や退職勧奨を検討する際には、問題行動の記録を残し、指導内容を文書化し、複数回の指導を経ても改善が見られなかったことを明確に示すことが不可欠です。

 さらに、実際に解雇や退職勧奨を行う場合には、必ず弁護士に相談し、適正な手続きを踏むことが求められます。独自判断で強引に進めれば、労働審判や訴訟に発展し、かえって大きな経営リスクを抱えることにもなりかねません。

経営者に求められる覚悟

 経営者としては「せっかく採用した社員を辞めさせるのは可哀想だ」と感じることもあるでしょう。しかし、適性のない業務を無理に続けさせることは本人にとっても不幸です。本人にとっても会社にとっても、そして周囲の社員にとってもプラスにならない場合には、割り切った判断を下すことも経営の責任です。

 問題社員への対応は、会社全体の士気を守り、顧客からの信頼を維持するために避けて通れない経営課題です。改善に向けた努力を尽くしても状況が変わらない場合には、会社としての方向性を明確にし、適正な対応を取らざるを得ません。

まとめ

 顧客対応に問題があるにもかかわらず自己正当化を繰り返し改善しない社員は、経営にとって大きな負担となります。その本質は本人が本気で「自分は正しい」と思い込んでいる点にあり、抽象的な言葉ではなく具体的な事実を示す指導が必要です。本人に「良い対応」を語らせることで誤解に気づかせる工夫も有効ですが、それでも改善が見られない場合には適性の有無を冷静に見極め、配置転換を検討することが求められます。それでも解決しない場合には、退職勧奨や解雇といった法的に適正な手段を取らざるを得ません。

 問題社員の対応は決して容易ではなく、経営者にとって精神的にも大きな負担となります。しかし、的確な指導と法的に正しい手続きを重ねることで、会社全体の健全な労務環境を守ることができます。顧客対応に問題を抱える社員を放置すれば、顧客離れや社内の士気低下を招き、経営そのものに深刻な影響を与えかねません。早期に的確な対応を行うことこそ、会社を守り、社員一人ひとりが安心して働ける環境を作るために不可欠な経営判断なのです。

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