負担の軽い仕事にも耐えられない社員への対応と試用期間中の判断基準

動画解説
はじめに
中途採用したばかりの社員に、残業もなく比較的負担の軽い仕事を任せたにもかかわらず、適応障害を理由に欠勤し始めてしまうケースがあります。本人は「仕事がストレスで働けない」と訴える一方で、同じ業務を担当している他の社員は問題なくこなしており、社長や人事担当者からすると「なぜこの程度の仕事で働けないのか」と大きな疑問を抱くことになります。
さらに、ハラスメントなどの特別な事情が見当たらない場合には、対応の仕方に迷う企業も少なくありません。「本人の主観と現実とのギャップをどう考えるべきか」「試用期間中にどのような判断を下すべきか」といった課題が突きつけられるのです。
本コラムでは、このように「他の社員にとっては軽い業務」であっても「特定の社員にとっては大きな負担」となりうる事例について、その原因の考え方、初期対応の基本、復帰判断の注意点、さらには試用期間中に企業がどのような判断を下すべきかという観点から解説していきます。
主な原因の考え方
負担の軽い業務であっても、本人が「仕事のストレスで働けない」と訴える場合には、いくつかの原因が考えられます。最も代表的なのは、その社員がそもそもその仕事に向いていない、つまり適性がないケースです。たとえ百人中九十九人が問題なくこなせる業務であっても、一人にとっては極めて大きな負担となり、努力してもなかなか上達せず、失敗が重なって強いストレスを感じることがあります。その結果、体調を崩してしまうことも珍しくありません。
もう一つの原因として、もともと体調面に問題を抱えていた可能性が挙げられます。前職でメンタル面の不調を経験していた人が、面接時にはある程度回復して見えたものの、実際に仕事を始めると再発してしまうというケースは少なくないのです。表面的には「軽い仕事」であっても、本人にとっては再び症状を引き起こすきっかけになり得ます。
加えて、本人は「ハラスメントはなかった」と述べていても、実際には職場の人間関係や業務の進め方にストレスを感じている可能性も排除できません。表向きには平穏に見える環境であっても、本人の感じ方や過去の経験によって強い心理的負担を受けることがあるからです。
したがって、このような状況に直面した場合、企業としては「なぜこの社員だけが働けなくなったのか」という点を丁寧に検討し、適性の問題なのか、健康状態の問題なのか、あるいは職場環境の影響なのかを多角的に把握していくことが必要になります。
初期対応:療養と休養の確保
社員が「仕事のストレスで働けない」と訴え、実際に医師から適応障害の診断書が提出された場合、企業がまず優先すべきは療養と休養の確保です。本人が実際に体調を崩している以上、無理に出社させたり業務を続けさせたりすれば、症状がさらに悪化し、長期にわたる欠勤や深刻な健康被害につながるおそれがあります。
経営者としては「他の社員は問題なく働いているのに、なぜこの人だけが」と考えたくなるところですが、まずは現状を受け止め、休養を認めることが重要です。ここで十分に休ませることが、後の対応を冷静に進めるための前提となります。
また、休養期間中には、単に欠勤を認めるだけでなく、医師の診断書に基づいて療養計画を確認することが望ましいでしょう。場合によっては産業医や外部の専門家に意見を求めることも有効です。これにより「どの程度休養が必要なのか」「復帰の見通しはあるのか」といった情報を把握し、今後の対応方針を立てやすくなります。
加えて、本人が抱えている問題が本当に適性や体調の問題なのか、あるいは職場環境の中に別の要因があるのかを把握するために、休養期間中に状況を丁寧に確認することも大切です。表面上はハラスメントがないように見えても、本人にとっては人間関係や業務進行の方法が強い負担になっている場合もあるからです。
つまり、初期対応の基本は「休ませること」と「状況を正しく把握すること」です。安易に「本人の甘えだ」と決めつけるのではなく、企業として安全配慮義務を果たしながら、冷静に次のステップにつなげていくことが求められます。
復帰を検討する際の注意点
一定期間の休養を経て、社員が復帰を希望する場合、企業としては慎重な判断が求められます。特に適応障害の診断を受けたケースでは、十分に回復していない状態で職場復帰させると、再び体調を崩して欠勤が長期化するリスクが高いためです。
復帰を認めるにあたっては、まず主治医からの診断書を提出してもらうことが不可欠です。そのうえで、診断書だけでは不十分な場合もあるため、産業医との面談を行い、実際に就労可能な状態かどうかを確認すると安心です。さらに、一定期間「試し出社」を設けて様子を見ながら復帰を進める方法も有効です。このような段階的な対応をとることで、本人にとっても会社にとっても無理のない復職が可能になります。
また、復帰の際には業務内容についても配慮が必要です。医師から「軽易な業務から始めるように」との指示がある場合には、それを尊重することが求められます。ただし、長期的に見ても本人がその業務に適応できるかどうかは未知数であるため、短期間のうちに改めて働きぶりを評価し、本採用や今後の雇用継続の可否を検討することが大切です。
復帰の可否を判断する場面では、会社の安全配慮義務が常に問われます。安易に復帰を認めて体調を悪化させてしまえば、法的な責任を問われる可能性もあるのです。したがって、復職判断は「本人が希望しているかどうか」だけで決めるのではなく、「医師の判断」「職場での安全確保」「業務に適応できるか」という要素を総合的に検討する必要があります。
試用期間中の対応と本採用拒否の可能性
今回のように「中途採用したばかりの社員」が入社早々に適応障害を理由として長期欠勤に至った場合、試用期間中の対応が非常に重要になります。なぜなら、試用期間はそもそも社員が業務に適応できるかどうかを見極めるために設けられている制度であり、この段階で適応が難しいと判断されれば、本採用を見送ることが可能だからです。
本採用を拒否する、すなわち法的には解雇にあたる判断を行う際には、慎重に手順を踏むことが求められます。まずは本人に対して現状を丁寧に説明し、「このまま勤務を続けるのは困難である」という理由を明確に伝えたうえで、合意退職の話し合いを試みるのが望ましいでしょう。会社の判断が本人の体調面や将来のキャリアを守るためでもあることを説明し、納得を得ることができれば、円満に解決できる可能性が高まります。
それでも合意に至らない場合には、試用期間満了をもって本採用を拒否する、あるいは試用期間中に通知を行って労働契約を終了させることを検討せざるを得ません。ここで大切なのは、曖昧なまま本採用をしてしまわないことです。一度本採用となれば、休職制度の利用や長期的な雇用保障が前提となり、問題の解決が格段に難しくなります。
したがって、経営者としては「試用期間中にしっかり見極め、結論を出す」ことが欠かせません。場合によっては試用期間を延長する選択肢もありますが、安易に先送りするのではなく、できるだけ限られた期間内で適切に判断するのが本筋です。判断が難しいときには、弁護士に相談しながら手順やリスクを確認し、会社として最も適切な対応を選択していくことが求められます。
弁護士に相談しながら進めることの重要性
負担の軽い仕事にもかかわらず適応障害を理由に欠勤が続く社員の対応は、経営者にとって非常に判断の難しい問題です。復職の可否や本採用拒否の手続きなどを誤れば、解雇無効や損害賠償請求といった法的リスクに直面する可能性があります。そのため、会社としては独断で進めるのではなく、早い段階から弁護士に相談しながら対応を進めることが重要です。
弁護士に相談することで、まず法的にどのような選択肢があるのか、どの手順を踏むべきかを具体的に把握できます。単に「リスクがあります」といった一般論にとどまらず、次にどのような行動を取ればよいのか、本人にどのように説明すべきかといった実務的なアドバイスを得られる点も大きなメリットです。
また、社員との面談や合意退職の交渉を進める際にも、弁護士の関与があることで会社側の立場が明確になり、無用なトラブルを避けやすくなります。経営者が一人で判断を抱え込むのではなく、法的知識と経験を持つ専門家と連携することで、より安全かつ現実的な解決策を見いだすことが可能になるのです。
四谷麹町法律事務所では、このような社員対応に関する相談を数多く受けてきました。復職の可否の判断や試用期間中の対応、退職勧奨の進め方などについて、実務に即したサポートを提供しています。判断が難しい事案ほど、早めに弁護士と連携して対応を進めることで、企業の負担を軽減し、トラブルを未然に防ぐことができるでしょう。
まとめ
中途採用したばかりの社員が、残業もなく負担の軽い仕事であるにもかかわらず「仕事がストレスだ」と訴え、適応障害を理由に欠勤を始めるというケースは、経営者にとって非常に対応が難しい問題です。原因としては、その社員に仕事の適性がなかったり、もともと体調に不安を抱えていたりする可能性が考えられます。いずれにしても、結果として「働けない」という現実がある以上、会社としては安易に復職を認めることなく、まずは十分な療養を優先させ、復帰に際しても主治医の診断書や産業医面談などを通じて慎重に判断することが必要です。
また、試用期間中の社員であれば、この段階で適応が困難と判断した場合には、本採用を見送る決断を検討するべきです。合意退職を目指すのが望ましいですが、やむを得ない場合には試用期間満了時に本採用拒否を行うことも選択肢となります。ここで曖昧なまま本採用してしまえば、その後の対応は格段に難しくなり、企業の負担が大きくなるでしょう。
こうした繊細な対応を進めるにあたり、経営者が独断で判断するのはリスクが大きいものです。法律的な基準や実務上の手順を理解し、円滑に解決へ導くためには、弁護士のサポートを受けながら進めることが非常に有効です。
四谷麹町法律事務所では、社員の適応障害や能力不足に関する対応について、復職の可否判断や退職勧奨の進め方など、実務に即したアドバイスを提供しています。問題社員の対応でお悩みの際には、経験豊富な弁護士とともに早期に適切な対応を講じることで、企業の負担を軽減し、トラブルの拡大を防ぐことができます。