2025.08.20
職場で上司を誹謗中傷する社員の対処法

目次
動画解説
はじめに
職場で上司に対して「パワハラだ」「管理放棄だ」などと誹謗中傷を繰り返す社員が現れると、その影響は本人と上司との関係にとどまらず、職場全体の雰囲気や組織の健全性にまで及びます。特に、当該社員の言動がエスカレートして周囲の社員にも広がってしまうと、組織の信頼関係が揺らぎ、日常の業務に悪影響を及ぼすことは避けられません。
こうした問題を「上司と部下の個人的なトラブル」として処理しようとすると、会社としての対応が遅れ、結果的に被害を受けている上司を守れないばかりか、会社自身が責任を問われる事態に発展する可能性もあります。なぜなら、会社には社員の健康や安全を守る「安全配慮義務」があり、その義務を果たさないと、被害を受けた上司から会社自体が法的責任を追及されることになり得るからです。
したがって、上司に対する誹謗中傷問題は、決して「当事者同士の問題」として片づけてはいけません。これはあくまで会社全体の課題であり、経営者や人事部門が主導して対応すべき組織的な問題です。本コラムでは、会社として取るべき具体的なステップや判断のポイントについて解説していきます。
会社の責任と安全配慮義務
社員が上司に対して誹謗中傷を繰り返すような場合、その被害を受けている上司は強い精神的苦痛を感じ、業務に支障をきたすことがあります。ここで忘れてはならないのが、会社には社員の安全や健康を守る「安全配慮義務」があるという点です。安全配慮義務とは、労働契約に付随して会社が負う義務であり、社員が心身ともに健康を保ちながら働けるように配慮しなければならないという責任を意味します。
つまり、上司が誹謗中傷によって精神的に追い詰められているにもかかわらず、会社が何も手を打たず放置してしまえば、それは義務違反となり、会社自体が法的責任を問われかねません。さらに、誹謗中傷を繰り返す社員の行為が不法行為と評価されれば、会社は「使用者責任」を負う立場になります。これは、社員が職務に関連して行った不法行為について、使用者である会社も一定の責任を負うという法律上の仕組みです。
したがって、この問題を「上司と部下の間の個人的なトラブル」として処理するのは大きな誤りです。会社としての立場を明確にし、誹謗中傷を放置しないという姿勢を示すことが重要です。具体的には、事実関係を調査し、必要に応じて注意指導や懲戒処分を行い、被害を受けている上司を守るための環境整備を行うことが求められます。会社が主体的に対応することで初めて、組織全体の秩序と信頼を守ることができるのです。
誹謗中傷の具体的事実の確認
上司に対する誹謗中傷への対応を考える上で、最も重要な出発点は事実関係の確認です。「誹謗中傷をした」という表現だけでは、何が問題なのか具体的に判断することはできません。処分や指導の根拠となるのは抽象的な評価ではなく、具体的な言動だからです。
そのため、まずは問題社員がいつ、どこで、誰に対して、どのような発言や行動をとったのかを明らかにする必要があります。例えば「上司をパワハラだと複数回呼んだ」「管理能力がないと同僚に言いふらした」といった、具体的な発言内容やその場の状況を記録することが重要です。本人からの聞き取りだけではなく、周囲の社員からの証言や、場合によってはメールやメッセージなどの客観的証拠も集めることが望まれます。
こうした調査は、上司に任せきりにするのではなく、会社が責任を持って実施しなければなりません。人事担当者や経営層が中心となって丁寧に確認を行うことで、問題を「上司と部下の個人的な争い」として片付けるのではなく、組織全体の課題として扱うことができます。
事実確認をしっかりと行えば、その後の注意指導や懲戒処分においても合理的な説明が可能になります。逆に、調査が不十分なまま対応してしまうと、不当な処分と受け止められ、かえって労使トラブルに発展するリスクもあります。したがって、誹謗中傷への対応は、まず「具体的な事実」を把握することから始めるのが基本です。
会社が取るべき懲戒処分と対応策
上司に対する誹謗中傷が確認された場合、会社としては注意や指導にとどめるのか、あるいは懲戒処分を行うのかを検討する必要があります。ここで重要なのは、処分の有無や重さを誹謗中傷という抽象的な評価ではなく、調査で明らかになった具体的な事実に基づいて判断することです。
まず、発言が一時的で軽微なものであれば、口頭での注意や厳重注意書の交付といった比較的軽い対応で十分な場合もあります。しかし、繰り返し同様の発言を行って職場環境を悪化させている場合や、上司の精神的健康に深刻な影響を与えている場合には、より重い懲戒処分が検討されるべきです。減給や出勤停止といった処分を通じて、会社が事態を重く受け止めていることを明確に示すことが必要になります。
また、配置転換を行ったとしても、誹謗中傷が収まらず新たな職場でも同じ問題を引き起こしているのであれば、配置転換だけでは十分とはいえません。懲戒処分と併せて、再発防止のための教育指導を行うことが不可欠です。さらに、最終的に改善の見込みがないと判断されれば、懲戒解雇を含めた厳しい対応を検討せざるを得ない場合もあります。
会社がこうした対応を取る際に忘れてはならないのは、懲戒処分を適正な手続きで行うことです。就業規則に定められた懲戒事由や手続きを踏まえずに処分を下せば、後に処分が無効とされるリスクがあります。そのため、事実調査の結果を整理し、処分の理由を客観的に説明できる状態にしておくことが大切です。
誹謗中傷による職場環境の悪化を放置すれば、被害を受けた上司だけでなく、周囲の社員の士気低下や退職にもつながりかねません。会社が主体的に対応し、適切な懲戒処分を行うことで、組織全体の健全性を守ることができるのです。
損害賠償請求よりも会社の責任を優先する
誹謗中傷が続き、上司が精神的に追い詰められている場合、その上司自身が加害社員に対して損害賠償請求を考えることがあります。しかし、会社としてはまず「上司に損害賠償を起こさせる」という発想ではなく、自らの責任を果たすことを優先すべきです。なぜなら、会社には従業員の安全と健康を守る「安全配慮義務」があり、誹謗中傷によって職場環境が害されているのであれば、それを是正するのは会社の役割だからです。
仮に問題社員の行為が不法行為にあたる場合、使用者責任の観点から会社自体が損害賠償義務を負うこともあり得ます。つまり、誹謗中傷を放置すれば、被害者である上司に対して会社が責任を問われる立場になるのです。そうである以上、上司個人が加害社員を訴えるという形に矮小化するのは適切ではなく、むしろ会社自身が主体的に解決に取り組む必要があります。
また、誹謗中傷問題を上司と部下の「個人的な争い」にすり替えてしまうと、会社が責任を放棄しているように見えてしまいます。その結果、上司は孤立し、ますます精神的に追い詰められることになりかねません。会社として被害を受けた上司を守り、必要に応じて懲戒処分や配置転換を含めた組織的対応を行うことこそが、本来取るべき姿勢です。
損害賠償請求は最終手段として否定されるものではありませんが、それ以前に会社が責任主体として問題に取り組むことが大前提です。会社が社員を守る姿勢を明確に示すことで、職場全体の信頼関係を保ち、同様のトラブルを防止する効果も期待できるのです。
弁護士の活用と早期相談の重要性
職場での誹謗中傷問題は、単なる人間関係のいさかいではなく、企業の経営リスクに直結する重大な問題です。対応を誤れば、労働審判や訴訟、団体交渉にまで発展する可能性があり、その段階で慌てて弁護士に相談しても、すでに手遅れというケースが少なくありません。だからこそ、問題が「まだ社内で解決できるかもしれない」と思える段階で弁護士に相談することが重要です。
特に懲戒処分を検討する場合、事実調査や処分理由の明確化、通知書の作成などは法的な観点からの慎重な対応が求められます。懲戒処分の手続きを誤れば、処分の無効を主張されるリスクが高まり、かえって会社側の立場が弱くなる危険もあります。こうしたリスクを避けるためには、懲戒通知の文言や処分の妥当性について、弁護士のアドバイスを受けながら進めるのが安心です。
また、弁護士は単に法律知識を提供するだけでなく、「次にどのような手を打つべきか」という実務的な戦略も提示してくれます。例えば、問題社員への注意指導をどのタイミングで行うべきか、懲戒処分の重さをどう設定すべきか、配置転換を組み合わせるべきかといった具体的な判断を、会社の事情に合わせて一緒に検討できます。
経営者にとっては、こうした外部の専門家のサポートを受けながら判断を積み重ねていくことが、最終的に「会社としてベストを尽くした」と言える対応につながります。早い段階で弁護士と連携し、問題の拡大を防ぐことこそ、職場の健全な環境を守るための賢明な経営判断といえるでしょう。
おわりに
職場で上司を誹謗中傷する社員への対応は、単なる個人間の争いとして処理するのではなく、会社全体の問題として捉えることが何より重要です。上司が精神的に追い詰められ、職場の雰囲気が悪化するのを放置すれば、会社自体が安全配慮義務を怠ったとして責任を問われかねません。したがって、経営者自身が主体的に関与し、会社として問題に向き合う姿勢を示す必要があります。
具体的には、まず事実関係を丁寧に確認し、誹謗中傷とされる言動を具体的に把握した上で、注意指導や懲戒処分といった適切な措置を取ることが欠かせません。安易な放置や曖昧な対応は事態を悪化させるだけであり、早期に毅然とした姿勢を見せることが再発防止にもつながります。また、懲戒処分の適否や手続きの妥当性について不安がある場合は、弁護士と連携して進めるのが安心です。
経営者にとって大切なのは「社員を守るのは会社の責任である」という意識を持ち続けることです。上司や部下に責任を押し付けるのではなく、会社自身の問題として対応する姿勢を貫けば、社員からの信頼も高まり、職場環境も健全に保たれます。問題社員への対応は難しい場面も多いですが、早い段階で適切に手を打ち、専門家の助言を得ながら進めていくことで、最終的には会社全体にとってもプラスの結果を生み出すことができるのです。