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休日出勤の労働時間を過大申告する社員への適切な対応とは?不正を防ぐ実務対策とマネジメント強化の視点

動画解説

休日出勤における労働時間の管理が甘くなりやすい理由

 企業において休日出勤が行われる場面は少なくありませんが、その実態を正確に把握し管理できている企業は多くないのが現実です。平日とは異なり、休日の出勤は業務に関わる社員の数が限られていたり、管理者が常駐していなかったりすることが多く、監督・管理体制が甘くなりがちです。そのため、労働時間の記録や勤務状況の確認が主観的な申告に頼らざるを得ず、過大な申告が生じやすい土壌が形成されてしまいます。

 また、休日出勤は「臨時対応」という性質を持つことから、管理者側でも「イレギュラーな勤務だから多少のことは大目に見よう」という意識が働きやすくなります。結果として、勤怠管理の厳格さが失われ、曖昧な時間申告や、実際よりも長めに申告された労働時間がそのまま受け入れられるというケースも出てきます。

 さらに、休日の業務では本人の自己申告に基づいて労働時間を記録している企業も多く見受けられますが、この「申告制」が過大申告の温床となることは否定できません。とくに、オフィスでの勤務であっても誰の目にも触れずに働く状況が常態化すると、自己申告の正確性を検証する手段がなくなり、適正な労働時間の把握が難しくなります。

 労働時間の管理がずさんになると、それは労働法上の義務違反のみならず、社内の公平性や信頼関係にも影響を及ぼします。休日出勤は「例外対応」だからこそ、通常以上に丁寧な労務管理が求められるといっても過言ではありません。企業は、休日出勤においても労働時間を正確に把握・記録し、給与の支払いが実態に即していることを証明できる体制を構築する責任があります。

労働時間の過大計上が引き起こす企業リスクとは

 社員が休日出勤時の労働時間を実態よりも多く申告し、それがそのまま認められてしまう場合、企業にはさまざまなリスクが発生します。まず大前提として、企業には使用者として労働時間を適正に把握する法的義務があります。これは厚生労働省のガイドラインにも明記されており、労働時間の把握を怠れば労働基準法違反に問われる可能性もあります。

 たとえば、36協定で定めた時間外労働の上限を超えているかどうかの判断も、労働時間が正確に把握されていなければチェックのしようがありません。過大に申告された労働時間を鵜呑みにして管理を行っていれば、実際には上限を超えていないのに、書面上は違反しているように見えるといった事態にもなりかねません。これは、労働基準監督署からの指導や是正勧告につながることもあり、企業にとって重大な法的リスクです。

 また、過大な労働時間の申告が放置されると、不正に高額の休日出勤手当や残業代が支払われることになります。これは単なるコストの問題にとどまらず、社内の公平性に大きな影響を及ぼします。まじめに正確な申告をしている社員との間に報酬の不均衡が生まれ、「ズルをした方が得をする」という空気が社内に蔓延すれば、モチベーションの低下や規律の崩壊を招きかねません。

 さらに、経営者の中には「過払いでも、損するのは会社だけだから構わない」と考える方もいるかもしれません。しかし、コンプライアンスや内部統制の観点から見れば、正確な勤怠管理を怠ること自体が企業統治の不備と評価される可能性があります。場合によっては、株主や監査法人などからの厳しい指摘につながり、企業の信用に影響を与えることにもなりかねません。

 労働時間の過大申告は、単なるミスやルーズな管理の問題ではなく、企業の経営姿勢や管理能力そのものが問われるテーマです。リスクを最小限に抑えるためには、過大計上を個人のモラルの問題として片付けるのではなく、企業としての管理体制や制度設計を根本から見直す必要があります。

過大申告が発生する根本的な原因

 休日出勤時に労働時間の過大申告が行われる背景には、個人のモラルの問題に加えて、企業側の管理体制や勤務記録の仕組みにも根本的な課題があります。中でも最も大きな原因は、労働時間の申告が社員本人の自己申告に依存しているという点にあります。

 たとえば、「この日は何時から何時まで働きました」といった日報のような形式で時間を報告させる運用をしている企業では、社員の申告に頼る以外に労働時間を確認する術がないケースが多く見受けられます。とくに、管理者が休日に不在であることが多い場合、申告内容を裏付ける客観的記録が存在しないという状態になってしまいます。これが、過大計上の温床となるのです。

 実際には、タイムカードやICカードによって出退勤の時間を記録できる環境が整っている職場も増えており、在社時間の記録は比較的容易になっています。しかし、それを労働時間の確認に活かしていない、あるいは申告内容と照らし合わせてチェックする運用が確立されていない企業も少なくありません。客観的な記録と社員の申告との整合性を検証する体制が不十分な場合、過大申告が見逃されやすくなります。

 また、経営者や管理職が「社員を信じているから」という理由で、チェック体制の強化に消極的になるケースもあります。しかし、こうした善意による放任は、かえって全社員のモラルや規律を低下させる結果にもつながりかねません。「信頼しているからこそ、不正ができない仕組みを作る」ことがマネジメントの責任だといえるでしょう。

 加えて、休日出勤に関しては、業務密度が下がりやすいという特性もあります。オフィスに出勤していても、明確な業務指示がなかったり、監督が不十分だったりすれば、実際の労働時間とされる時間帯の多くが「実質的に業務に従事していない時間」となってしまう可能性もあります。このような状態で本人の裁量に任せて労働時間を申告させていれば、過大申告は必然的に起こり得るのです。

 このように、過大申告は個人の倫理観だけで防げるものではなく、企業側のマネジメントと管理手法に強く依存する問題です。過大な申告を許してしまう状況があるのであれば、まずはその背景にある組織の体制や習慣、仕組みの見直しから着手すべきでしょう。

客観的記録と申告の整合性で不正を防ぐ

 休日出勤における労働時間の過大申告を防ぐうえで、最も効果的かつ現実的な対策の一つが、社員の申告内容と客観的な記録を照合する仕組みを構築することです。すなわち、タイムカードやICカード、勤怠管理システム、入退室記録などの客観的な在社時間のデータを活用し、それと社員本人の申告を突き合わせて確認する運用が不可欠です。

 たとえば、社員が「9時から17時まで働いた」と申告していたとしても、ICカードの記録では10時入室、16時退室であったとすれば、その申告には明らかな矛盾があります。このような照合の仕組みがあれば、不正な申告や記憶違いによるミスを早期に把握し、是正を促すことが可能になります。

 さらに、日報や報告書などの自由記述形式の記録を導入する際には、単なる「時間帯の報告」だけでなく、「何の業務を行ったか」を簡潔に書かせることで、業務実態との整合性も確認しやすくなります。これにより、ダラダラ勤務や形式的な在社だけによる時間稼ぎといった行為も、発見しやすくなります。

 とはいえ、在社時間と労働時間が完全に一致するわけではありません。たとえば、出社してから仕事を始めるまでの準備時間や、昼食や休憩など、労働時間に含まれない時間帯も存在します。そのため、在社時間の記録だけで労働時間を断定するのではなく、「業務に従事していたと推定できる時間」を検討する仕組みを構築することが求められます

 このような仕組みの中では、「なぜその時間帯を労働時間と申告したのか」を確認する機会として面談やヒアリングを設けることも重要です。申告内容と記録に大きなズレが見られる場合には、本人に説明を求め、その記録と回答内容を残すことで、将来的なトラブルや懲戒処分の妥当性を裏付ける証拠にもなります。

 重要なのは、このような管理体制が**「社員を疑うため」ではなく、「社員を守り、公正な職場環境をつくるため」**であるという姿勢を持つことです。すべての社員が同じルールのもとで働き、正確な労働時間に基づいた報酬を得られる環境を整えることが、組織としての信頼性を高め、不正の抑止にもつながります。

ダラダラ勤務と労働密度の低下はマネジメントの問題

 休日出勤時に見られる「長時間オフィスにいるが実際の作業は少ない」といった、いわゆるダラダラ勤務。これは単なる社員の姿勢の問題として片付けがちですが、実はその背景には企業側のマネジメント不足が潜んでいます。労働密度が著しく低いまま長時間の労働時間を申告されてしまえば、たとえ形式的には合法であっても、コストと生産性のバランスが大きく崩れ、組織としての健全性が損なわれるおそれがあります。

 「休日に出勤している=やる気がある」と短絡的に評価するのではなく、その時間が本当に必要だったのか、業務上どのような成果を上げたのかを管理職が把握していなければ、過剰な時間申告や手当の支給に気づけないまま、社員間の不公平感や不満が広がってしまいます。こうした状況が続くと、他の社員にも「長く働いた者勝ち」という誤ったメッセージが伝わり、職場全体のモラル低下にもつながりかねません。

 このような問題を防ぐには、休日出勤の目的・必要性・業務内容を事前に明確にさせることが重要です。とくに、実際の業務指示が曖昧なまま「自主的に出てきた」という扱いになっていると、本人にとっては「何をしてもいい」という感覚が生まれやすくなります。これでは、労働密度の低下を助長するばかりか、マネジメントとしての責任を放棄しているのと同じです。

 また、「社員を信じているから管理しない」といった姿勢をとる経営者や管理職もいますが、それは信頼ではなく放任です。本当に信頼しているならば、社員が不正を働かずに済むように、過大申告やダラダラ勤務を物理的に防ぐ仕組みを用意することがマネジメントの責任です。つまり、悪意があるかどうかに関わらず、曖昧な働き方を許す環境を作らないことこそが、誠実な組織運営につながります。

 加えて、休日出勤の際には、管理職や先輩社員など指導的立場の者が同席する環境を整えることで、自然と勤務の質が保たれるようになります。社員が一人で判断し、自由に勤務時間を申告できる環境は、不正を誘発しやすい土壌そのものです。こうした構造を見直し、マネジメント主導で勤務のあり方を整理することが、健全な労務管理の出発点となります。

懲戒処分の前に企業が果たすべき管理責任

 社員が休日出勤時に労働時間を過大に申告していたことが判明すると、「懲戒処分にできないか」と考える企業も少なくありません。確かに、虚偽の申告によって賃金を不正に受け取っていたとなれば、就業規則違反として懲戒の対象となり得ます。しかし、その前にまず確認しなければならないのは、企業側が労働時間管理という本来の責任を適切に果たしていたかどうかです。

 労働時間の管理は、労働基準法に基づく使用者の義務であり、「社員が嘘をついたから悪い」という理由だけで責任を転嫁することはできません。とくに、自己申告制を導入していながら、その内容をチェックせずに放置していた場合、企業側の管理責任が問われる可能性があります。「不正を防ぐ仕組みを用意せず、結果的に不正を許した」という構造そのものが、懲戒の妥当性を弱めてしまうのです。

 たとえば、過大申告があったとしても、それがなぜ発生したのか、どのような状況下で行われたのかを確認せず、突然重い処分を科すような対応をしてしまうと、処分の合理性や相当性を問われることになります。さらに、裁判や労働審判に発展した場合、「会社側の管理が甘かった」「本人に弁明の機会がなかった」と判断され、処分が無効とされるリスクも十分にあるのです。

 このような事態を避けるためには、まずは企業自身が労働時間を正確に把握する体制を整備し、それを前提としたルール運用ができていたかを点検する必要があります。タイムカードやICカードなどの客観的記録の活用、日報や報告書の精度向上、管理職による勤務状況の把握など、基本的な労務管理を徹底していたことが、懲戒処分の正当性を支える土台となります。

 また、処分を検討する際には、事実確認・本人への弁明の機会・処分理由の明示・文書化された記録など、一連の適正手続を踏むことが重要です。これらのプロセスを経た上であれば、たとえ最終的に処分に至らなかったとしても、公平で透明性のある対応として、他の社員からの信頼も得やすくなります。

 つまり、懲戒処分とは「最後の手段」であり、その前に企業が自らの管理体制を見直し、誠実な対応を行っていたかが問われるのです。組織としての信頼性を保つためにも、ルール違反の芽を未然に摘む仕組みづくりと、正当な手続きを経た対応を心がけることが欠かせません。

休日出勤の在り方そのものを見直す視点

 労働時間の過大申告が問題になる背景には、休日出勤という勤務形態そのものに対する企業の姿勢や運用の曖昧さが潜んでいます。そもそも休日出勤は例外的な勤務であり、本来は会社側が必要性を判断し、指示するものであるというのが法の基本的な考え方です。しかし、実際の職場では、社員本人やその場の雰囲気で休日出勤が決定されているケースも少なくありません。

 とくに、ある程度の裁量を現場に委ねている企業では、「必要があれば自分の判断で出勤してよい」といった運用が行われがちです。このような体制下では、休日出勤の目的や業務の緊急性、代替可能性が精査されないまま出勤が行われるため、勤務実態が曖昧になりやすく、労働時間の過大申告につながるリスクも高まります。

 また、「会社が休日出勤を許可しているのだから、どれだけ出勤しても自由だ」といった誤解が社内に広まると、自分の都合で出社して長時間滞在し、その時間をすべて申告するような不適切な行動が常態化する危険もあります。こうした事態を防ぐには、そもそも休日出勤が本当に必要かどうかを見極める視点が欠かせません。

 まずは、休日出勤の判断を安易に現場任せにするのではなく、会社として方針を明確化し、「どのような業務で」「誰が判断し」「誰が管理するのか」をルールとして定める必要があります。そして、管理職に対しては、その責任の重さと管理手法をしっかりと教育しておくことも重要です。判断と管理を一体化することで、曖昧な運用を防ぎ、労働時間の適正な把握と申告がしやすくなります。

 また、休日出勤が必要な場合でも、管理職や先輩社員が同行し、勤務実態を把握できる体制を整えることで、不適切な長時間滞在や形式的な出勤の抑止力になります。「誰と、どこで、何のために」働いているのかを明確にすることで、自然と勤務密度の向上にもつながります。

 最終的には、休日出勤そのものを必要最小限にとどめる努力も忘れてはなりません。組織の業務量や納期、人員体制を見直すことで、そもそも休日に出勤しなくても済むような働き方改革を進めることが、最も根本的な対策といえるでしょう。

公正な労務管理のために経営者が取るべき行動とは

 休日出勤における労働時間の過大申告という問題は、一見すると社員個人の不正行為に見えるかもしれません。しかし実際には、それを許容してしまうような制度や体制、そしてマネジメントのあり方そのものに、企業としての責任と改善すべき課題が内在しているといえます。経営者としては、「あの社員が悪い」と責任を個人に押し付けるのではなく、「どうすれば再発を防げるか」「組織としてどう対応すべきか」という視点で、主体的に行動する必要があります。

 まず最初に取り組むべきは、実態に即した勤怠管理体制の再構築です。タイムカードやICカードによる在社時間の記録と、日報や業務報告による申告の整合性をチェックする仕組みをつくり、客観的なデータに基づいた管理ができるように整備しましょう。こうした「不正が起きにくい環境」を整えることが、不正を防ぐ第一歩です。

 次に、休日出勤のあり方そのものについて見直すことも重要です。社員に自由裁量で休日出勤を判断させるのではなく、業務の必要性や緊急性、代替可能性を精査したうえで、会社として正式に許可する体制に切り替えることが望まれます。これにより、勤務実態を可視化しやすくなり、無駄な長時間勤務や不透明な申告の余地をなくすことができます。

 また、社員教育や管理職への研修も欠かせません。過大申告が企業全体の不信感や不公平感につながりかねないこと、適切な申告が組織の健全性に直結することを理解してもらうことで、職場全体で公正な労働慣行を共有する意識を醸成していくことが求められます。

 経営者自身が率先してこうした姿勢を示すことも大切です。制度を整えても、現場が形だけで運用していては意味がありません。トップが「ルールを守る文化」「公正なマネジメント」を大切にする姿勢を明確に打ち出すことで、社員の行動も変わっていきます。

 四谷麹町法律事務所では、労働時間の管理体制の整備や、社員の過大申告への対応、懲戒処分に関する法的助言など、企業が法令を順守しつつ、トラブルを未然に防ぐための具体的な支援を行っています。社員との信頼関係を維持しながら、公正な労務管理を実現するためには、適切な制度設計と日常の運用が不可欠です。

 勤怠管理や問題社員対応についてお悩みの際は、企業法務に精通した四谷麹町法律事務所までぜひご相談ください。

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