2025.10.30
突然出社しなくなり連絡が取れない社員への対応法|企業が取るべき初動と法的リスク対策
目次
動画解説
出社しない社員への初動対応とマネジメント上の基本
社員が突然出社せず、連絡も取れない――。このような事態に直面した企業から、労働問題に詳しい弁護士に寄せられる相談は少なくありません。特に本人の意向が全く分からない状態では、会社側としてどのように対応すべきか迷う場面も多いでしょう。
まず重要なのは、「始業時刻に出社していない」という時点で、早期に連絡を試みることです。労働契約とは、会社が賃金を支払う代わりに、社員が所定の労働日に所定の時間働くという契約です。したがって、始業時刻になっても出社していないという状況は、単なる遅刻や欠勤では済まされず、契約上の問題でもあるのです。
こうした事態において、最初にすべきは、担当マネージャーや管理職、最終的には経営者自身が、社員に直接連絡を取ることです。「なぜ出社していないのか」と状況を確認する連絡は、マネジメントの基本であり、早期対応によって多くの問題が未然に防がれます。
連絡手段としては、従来の電話だけでなく、最近ではメール、ショートメッセージ、LINEやSlackといったビジネスチャットツールなど、社員と日常的に使っている連絡手段を活用するのが望ましいでしょう。
ただし、この初動対応を行うためには、会社側が「誰が出社していて、誰がしていないのか」をきちんと把握できる体制を整えておく必要があります。これはマネジメントの基本でもあり、逆にこの確認ができていない職場であれば、社員の管理そのものが行き届いていないと見なされるおそれもあります。
特に注意が必要なのは、社員が「何の前触れもなく」出社しない場合です。単なる体調不良や寝坊などとは異なり、事件や事故に巻き込まれた可能性、または精神的に不安定な状況であることも考えられます。このようなケースでは、連絡のタイミングが遅れれば遅れるほど、対応が難しくなる可能性があります。
そのため、たとえ5分、10分の遅刻であっても、日ごろから連絡がつくことを確認しておくことが望まれます。職場によっては「普段から少しの遅刻は見逃している」という運用もあるかもしれませんが、法律的なリスクとマネジメント上の観点から見れば、早期確認と対応が最も重要です。
大半のケースでは、電話やメールなどで連絡を取り、事情を確認するだけで解決することが多いでしょう。しかし、それでもなお連絡がつかない場合には、次の段階として、より踏み込んだ対応が必要となります。
連絡が取れない状態が続く場合の対応ステップ
始業時刻に出社せず、電話やメール、SNSなど複数の手段で連絡を取ろうとしても一切応答がない。このような状況が1日、2日と続くと、社員の健康や安否、さらには退職の意思の有無など、さまざまな可能性が考えられます。企業としては、単なる欠勤では片付けられない深刻な問題と捉えるべき段階に入ります。
まず、連絡の試みは1回だけで終わらせてはなりません。朝だけでなく、昼や夕方など時間を変えて複数回行い、出社しない日が続く場合は、毎日継続的に連絡を取る努力を続けるべきです。これは安否確認としても重要な意味を持ちますし、後の法的対応の際にも「十分な連絡努力を行った」という客観的な証拠になります。
それでも何日も連絡が取れない場合、次に考えるべきは自宅訪問です。突然の欠勤に何の連絡もない場合、社員が体調を崩して倒れている、あるいは何らかの事件に巻き込まれている可能性も否定できません。実際、自宅を訪問して初めて状況が分かるケースもあります。
訪問のタイミングは、社員の勤務年数や性格、これまでの勤務状況、直前の様子などを考慮して決める必要があります。たとえば、数年勤めた正社員が、何の前触れもなく連絡を絶ったという場合は、早い段階で訪問を検討する価値があります。一方で、短期のアルバイトや雇用期間の短い契約社員であれば、もう出社する気がないと推測できることもあります。
また、自宅が会社から極端に遠方である場合には、訪問が難しいこともあります。そのようなときは、家族や身元保証人への連絡を検討しましょう。特に若手社員の両親であれば、子どもが出社していないことに対して高い関心を持ち、協力的に情報提供してくれるケースも多く見受けられます。連絡の際には「困っている」というよりも、「心配している」というスタンスで伝えることで、相手の信頼を得やすくなります。
ここで大切なのは、本人との意思疎通が一切できない状態で会社が独断で判断や処理を進めてしまうと、後に法的な問題になる可能性があるということです。家族や保証人に確認を取りながら、できるだけ丁寧に、そして段階的に対応していくことがトラブル防止につながります。
それでも連絡が一向に取れず、欠勤が長期化していく場合には、「労働契約の終了」や「解雇」の検討に入る必要があります。
長期間連絡が取れない場合の労働契約の終了と法的な限界
連絡の試みを何度も重ね、家族や保証人にも連絡を取ったが、それでも社員本人と一切連絡がつかない。欠勤期間が数週間から1か月、あるいはそれ以上に及ぶ場合、会社としては「このまま雇用を継続してよいのか」という現実的な問題に直面します。特に無断欠勤が長期化し、本人の意思も確認できない状況では、労働契約の終了を検討せざるを得ません。
まず、出社しない状態が続いているからといって、それだけで「退職の意思がある」と評価するのは困難です。法律上、退職は労働者本人からの明確な意思表示が必要であり、たとえ出社していなくても、本人の意向が確認できない限りは、自動的に「辞職」とみなすことはできません。
たとえば、過去に退職の意思を示していた場合や、直前に「もう辞める」などの明確な発言があったような場合には、本人の辞意が推定できることもあります。しかし、それがない場合には、単なる無断欠勤を「辞職」と解釈するのは法的にリスクがあります。
一方で、会社都合での労働契約の終了、すなわち「解雇」という選択肢もあります。無断欠勤が一定期間続き、連絡も一切取れないような場合、労働契約上の義務(就労義務)を果たしておらず、会社に対する信義則にも反すると考えられることから、普通解雇や場合によっては懲戒解雇が認められる余地もあります。
しかしここで重要なのは、「解雇も一方的な意思表示である」という点です。法律上、意思表示は相手に到達しなければ効力を生じないとされています。つまり、本人に解雇の通知が届いていない場合、その解雇は法的に有効とはいえません。
通常は郵便や書留、レターパックなどで送付し、受領記録が確認できれば「到達した」と扱われます。しかし、本人が完全に行方不明であったり、住居に居住していないと見られるような状況では、「了知可能性」(知ることができる状態)自体が否定され、到達が認められないケースもあります。
このような場合には、公示送達という特殊な法的手続きを取ることで、「到達した」とみなすことも可能です。これは簡易裁判所の手続きを通じて行われ、公告から2週間が経過した時点で意思表示が効力を持つとされる制度です。ただし、手間や時間、費用がかかるため、企業側にとっては現実的でないと感じることも少なくありません。
したがって、実務上は事前の調査や連絡努力を十分に尽くしたことを証明できるよう記録を残しつつ、対応の合理性を確保することが極めて重要です。この段階では、法的手続きの複雑さや判断の難しさから、弁護士への相談が強く推奨されます。
現実的な対処法としての就業規則の整備とその限界
長期間連絡が取れない社員への対応として、実務上非常に有効かつ現実的な手段の一つが、「就業規則による自動退職規定の整備」です。これは、社員が無断欠勤を続け、会社とも音信不通の状態が一定期間続いた場合に、退職したものとみなすという内容を就業規則に明記しておくものです。
たとえば、「社員が会社と音信不通となり、かつ欠勤が1か月(休日を含む)に及んだときは、退職したものとみなす」といった規定を設けることで、本人からの明示的な辞職の意思表示がなくても、一定の合理的基準に基づいて労働契約を終了させることができます。この方法は、解雇のような意思表示の「到達」問題を回避できるという大きなメリットがあります。
ただし、このような規定が法的に有効と認められるためには、合理的な内容であることが求められます。たとえば、欠勤期間がわずか数日で自動退職とするような過度に短い設定では、合理性を欠き、無効とされる可能性が高まります。実務上は「30日程度」の期間を目安とすることが、一般的に合理性を認められやすいと考えられます。
また、この規定が社員に周知されていなければ効力を持ちません。就業規則を制定または改定する際は、労働基準監督署への届出とともに、社員への説明・配布などの周知手続きを適切に行う必要があります。
さらに、規定の実行にあたっては、社員が行方不明になるまでの勤務状況や直前の言動など、個別の事情を慎重に判断することも重要です。制度として機械的に適用するのではなく、「このケースでは本当に退職扱いとして妥当かどうか」を検討するプロセスが求められます。
このほかにも、連絡手段に関する規定、たとえば「社員は届出住所に変更があった場合は速やかに申告すること」「届出住所への通知は通常到達したとみなす」などの条項を設けることで、連絡不通時のリスクに備えることも検討されるべきです。ただし、これもまた就業規則としての合理性が問われるため、あくまで適切な範囲内での運用が求められます。
現実的には、こうした規定に基づいて退職処理を行うことで、無断欠勤者への対応がスムーズになることが多い一方で、法的な評価はあくまで個別事情によって左右されるため、規定の設計・適用には慎重な判断が必要です。対応に迷う場合には、専門の弁護士に確認しながら進めるのが安全といえるでしょう。
社宅の明渡し問題と私物処理に関する注意点
社員が突然出社せず、連絡も取れない状態が続いたとき、もう一つ企業を悩ませる問題が「社宅の明渡し」です。特に正社員などが会社の借り上げ社宅や独身寮に住んでいるケースでは、本人が不在のまま社宅に居住し続ける状態が続くと、会社としても重大な損害を被ることがあります。家賃や光熱費の負担、部屋の管理、そして放置された私物の処理など、法的にも実務的にも対応が難しい問題が発生します。
まず、原則として社宅の利用は労働契約の一部であり、労働契約が終了すれば、社宅の利用権も当然に終了するのが一般的です。したがって、長期間の無断欠勤により就業規則や合意に基づいて退職扱いとされた場合には、社宅からの退去も求めることができます。しかし、ここで問題になるのは、「本人の私物が残っている」「部屋の鍵がかかっていて中に入れない」など、実際の明渡し作業に関する点です。
法的に確実な対応をするならば、「社宅の明渡し請求訴訟」を提起し、判決を得て強制執行という流れになります。ただしこの方法は、手間と時間、そして費用がかかるという実務上のハードルがあります。公示送達などを使って訴訟手続きを進める場合も、判決取得までには一定の期間が必要ですし、強制執行には執行官の立ち合いと追加の費用も発生します。
そこで現実的な選択肢として検討されるのが、社宅利用規程に特別条項を設ける方法です。たとえば、「社員が一定期間会社と連絡が取れず、かつ社宅契約が終了している場合、会社は私物の保管・処分・社宅への立ち入りができる」といった条項を規程として整備しておけば、ある程度柔軟な対応が可能になります。もちろん、これも就業規則や利用規程として合理性が認められる内容であり、周知されていることが前提です。
それでも、実際に社宅に立ち入る、私物を移動・処分するという行為には、プライバシーや所有権の問題が伴います。慎重に対応しなければトラブルの原因になりかねません。そのため、もっとも現実的でトラブルの少ない方法は、両親や身元保証人と連携して対応を進めることです。たとえば、両親と一緒に社宅に立ち入り、本人の荷物を確認・保管・処理するという対応は、法的にはグレーな部分もありますが、実務上は大きなトラブルに発展するケースはほとんどありません。
弁護士としては、社宅明渡しのように法的な根拠と実務対応がかみ合いにくい問題については、事前に利用規程を整備し、さらにご家族などとの協力体制を築いておくことが、最も安全で現実的な方法と考えています。
こうした対応が必要となる状況自体が、すでに会社としては大きなストレス要因です。しかし、慌てず、適切なルールと段階的な手続きを踏むことで、大きなトラブルを未然に防ぐことが可能です。
まとめ:現実と法の狭間で企業が取るべき対応とは
社員が突然出社しなくなり、連絡も一切取れない――このような事態は、企業にとって想定外でありながらも、決して珍しい問題ではありません。問題を複雑にしているのは、「本人の意思が確認できない」という点です。これは、通常の人事対応とは異なり、手続きの進め方も、判断の根拠も不確かな中で進めざるを得ないため、非常に慎重な対応が求められます。
まずは早期に連絡を試み、連絡手段を複数用意しながら、毎日継続的に対応を続けることが大切です。それでも音信不通が続く場合には、自宅訪問や家族・身元保証人への連絡も視野に入れ、安否確認と状況把握を最優先に動くべきです。
それでもなお長期間の欠勤と連絡不通が続いた場合には、労働契約の終了を検討せざるを得ません。退職扱い、普通解雇、懲戒解雇――いずれにしても法的に有効とするためには、事前の事実確認と適切な通知手段が必要不可欠です。通知が本人に「到達」しなければ効力は発生しないという法的原則も忘れてはなりません。
こうした問題をスムーズに処理するためには、就業規則の整備が重要なカギとなります。無断欠勤と音信不通が一定期間続いた場合には退職扱いとする旨を明示し、社員に周知しておくことで、手続き上のトラブルを防ぐことができます。ただし、その規定内容が合理的であるかどうかは常に注意が必要です。
また、社宅の明渡しなど、雇用契約とは別の法的問題が発生するケースもあります。プライバシーや所有権への配慮を欠いた対応は、法的リスクを高める可能性があるため、ここでも家族や保証人との連携が大きなポイントになります。
このように、本人と直接コミュニケーションが取れない状況では、どの判断も一筋縄ではいきません。企業が独断で進めてしまえば、後から法的トラブルに発展することも十分あり得ます。だからこそ、「妥当な対応」とは何かを冷静に見極め、段階的に、かつ慎重に進める必要があるのです。
そして、最も重要なのは、「この判断で本当に大丈夫か?」という不安が少しでもある場合には、早めに専門家に相談することです。
問題社員対応で迷ったときは、専門家のサポートを
社員が突然出社しなくなり、連絡も取れない。対応を誤れば法的トラブルや職場全体への悪影響にもつながりかねないこの問題は、企業にとって大きなリスクです。とりわけ、本人の意向がまったく分からないまま判断を迫られるケースでは、企業独自の対応には限界があります。
どの段階でどのような行動を取るべきか、退職扱いや解雇の手続きに法的な問題はないか、社宅の明渡しや私物の処理はどうすべきか――このような不透明で判断が難しい局面では、専門家のサポートが不可欠です。
四谷麹町法律事務所では、社員との連絡が取れないケースを含め、問題社員への対応に関して、初期の声かけや注意指導の方法、懲戒処分や解雇に向けた手続きの整備、さらには社宅明渡しなどの実務対応まで、企業の状況に応じた具体的なサポートを提供しています。
また、状況によっては、問題社員やその代理人弁護士との交渉、さらに訴訟や労働審判といった法的手続きへの移行が避けられない場合もあります。そうした場面でも、会社側代理人として企業の立場を守り、適切かつ円滑な対応ができるよう支援しています。
社員の対応が適切にできるかどうかは、会社全体の雰囲気や他の社員の士気にも影響を与える重要な問題です。早期の段階で正しい一手を打つことが、後の大きなトラブルを防ぐ鍵となります。
社員の無断欠勤や連絡不能といった問題でお困りの際は、会社側専門の経験豊富な四谷麹町法律事務所に、ぜひご相談ください。