問題社員

厳しい指導に耐えられない社員の対処法

動画解説

パワハラとは何か?~「業務上必要かつ相当な範囲」を理解する

 社員が「厳しい指導をパワハラだと感じている」と相談があったとき、まず考えるべきは「その指導が法的にパワハラに該当するかどうか」です。2020年施行の労働施策総合推進法では、「職場におけるパワーハラスメント」の定義を次の3つの要素で示しています。

 職場における優越的な関係を背景とした言動であること、業務上必要かつ相当な範囲を超えていること、労働者の就業環境が害されていること、この3要件すべてを満たして初めて「パワハラ」に該当します。たとえば、注意指導の内容が業務上必要であり、方法や態度が社会通念に照らして「相当」であれば、それはパワハラにはあたりません。

 特に重要なのは「相当な範囲かどうか」です。これは社会常識に照らし、「そんな言い方や態度をとる必要が本当にあったのか?」という視点で評価されます。言い方が高圧的すぎる、侮辱的だった、必要以上に長時間詰めた――といった要素がある場合には、「相当性」が疑われることになります。

 また、相手の感じ方だけでパワハラと判断されるわけではありません。法律上は「平均的な労働者の感じ方」を基準に、「就業上看過できない程度の支障が生じたかどうか」で判断されます。つまり、一部の社員だけが過剰に反応している場合、それが直ちにパワハラと認定されるわけではないのです。

 ただし、他の社員は何も言っていないから大丈夫だ、と安心するのは危険です。実は他の社員も我慢していた、陰で不満を抱えていたというケースもあります。トラブルが表面化する前に、指導の内容や方法を見直すことは、会社経営者にとって重要なマネジメントの責務です。

厳しい指導が必要な理由と、その適切な方法を見直す重要性

 厳しい指導を行わざるを得ない背景には、業務の性質や会社の求める基準、社員のミスが重大な影響を及ぼすリスクなど、正当な理由がある場合も多くあります。特に、安全性や正確性が求められる現場や、クオリティ管理が厳しい業種では、一定の緊張感を持たせる指導が不可欠となることもあります。しかし、たとえ必要な指導であっても、その伝え方や言葉の選び方が適切でなければ、社員のモチベーションを損ねたり、不必要なストレスを与えたりする結果になりかねません。

 長年の慣習や先輩社員のやり方をそのまま踏襲していると、本人は「普通の指導」と思っていても、受け手には高圧的、攻撃的に感じられてしまうこともあります。実際にその指導が業務上の必要性を満たしていたとしても、他の伝え方で同じ成果を得られる可能性があるなら、より配慮ある方法に改善することが望ましいでしょう。

 たとえば、感情的な表現を避けて冷静に事実を伝える、改善点を具体的に説明する、あるいは個別に話す機会を設けるなど、指導の工夫は多くあります。必要な指導であることを前提としつつも、方法や言葉遣いを少し変えるだけで、社員の受け取り方や指導後の行動が大きく変わることもあります。結果的に、より効果的で建設的なマネジメントが可能になります。

 一度立ち止まって、「この指導方法は最適か」「他の伝え方はないか」と見直してみることは、パワハラのリスクを避けるだけでなく、組織全体の成長にもつながります。会社の伝統や過去のやり方にとらわれず、柔軟に対応する姿勢が今の時代には求められているのです。

社員の“感じ方”ではなく、社会通念に基づいた判断が重要

 社員から「パワハラではないか」と訴えがあったとき、会社経営者として最初に意識すべきなのは、「社員本人がそう感じたから」といって、それが即パワハラに該当するとは限らないという点です。もちろん、社員の声に耳を傾ける姿勢は重要ですが、それだけを基準に会社の対応を決めると、逆に職場の秩序を乱す結果にもなりかねません。

 パワーハラスメントかどうかの判断基準は、厚労省が定めた定義にもとづいて行われます。その中でも重要なのが「社会通念に照らして相当かどうか」という観点です。これは、当該指導や発言が、社会一般の労働者であれば看過できないほどの支障があると感じるかどうかを基準にする、ということです。つまり、判断の基準はあくまで“平均的な労働者の感覚”であり、過度に個別の主観に左右されるべきではありません。

 一部の社員が特に繊細だったり、ストレス耐性が低かったりすることで、「厳しい」「つらい」と受け止めるケースもありますが、他の社員が問題なく受け入れている指導であれば、会社としても必要以上に萎縮する必要はありません。とはいえ、本人の感じ方がどうであれ、現実に就業環境が大きく損なわれるような場合には、結果的に問題となることもあるため、形式的な基準だけでなく、実際の影響を丁寧に見極める姿勢も大切です。

 経営者として重要なのは、一時的な感情に振り回されず、客観性を持って事実を整理し、必要であれば第三者の意見(例:弁護士、産業医など)を活用しながら、公平で透明性のある判断を下すことです。社会通念に照らし、適切な対応を積み重ねることで、社員からの信頼も高まり、健全な職場環境を維持することが可能になります。

指導の方法を見直すことも選択肢

 経営者の中には「うちは昔からこのやり方でやってきた」「厳しい指導が必要な業務だから仕方ない」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、社員の受け止め方や社会の価値観は時代とともに変化しています。今では、同じ目的を達成するためでも、より効果的で適切な指導方法を模索することが、結果的に組織全体の生産性やモチベーション向上につながることが少なくありません。

 厳しい指導が業務上どうしても必要だとしても、その伝え方やタイミング、言葉の選び方を見直すことで、社員への心理的な負担を軽減できるケースも多々あります。たとえば、同じ内容でも語気を和らげたり、具体的な改善策とセットで伝えたりすることで、受け取り手の印象は大きく変わります。

 また、厳しさを保ちつつも人を動かす言葉や表現の工夫は可能です。経営者自身が率先してそうした対応に取り組むことで、管理職や現場のリーダー層にも良い影響を与え、組織としてのコミュニケーション力が底上げされていきます。

 経営者としては「変えるべきではない部分」と「変えられる部分」の峻別が重要です。指導の目的が明確で、業務遂行上不可欠な内容であるならば、その本質は保ちつつ、方法論の柔軟性を持つことが、現代のマネジメントには求められています。

 弁護士や専門家のアドバイスを受けながら、今一度自社の指導スタイルを見直すことは、決して弱腰な対応ではなく、むしろ強く賢明な経営判断と言えるでしょう。

社員の適性を見極め、業務の見直しも検討する

 どれほど丁寧で適切な指導を行っても、社員本人が業務に対して根本的に適性を欠いている場合には、努力だけでは解決できないケースがあります。経営者として重要なのは、「誰にでも同じように教えればできるはずだ」という発想から一度離れ、その社員が本当に現在の業務に向いているのかを冷静に見極める視点を持つことです。

 人にはストレス耐性や処理能力、対人対応力など、それぞれ異なる特性があります。職場環境や業務内容がその社員の特性と著しく合っていない場合、指導が厳しくなくても大きな精神的負担となり、体調不良やメンタル不調を引き起こすこともあります。こうした場合、たとえ客観的にはパワハラに該当しないとしても、結果として本人が働き続けられない状況になることは避けなければなりません。

 経営者としては、本人の状態や反応を把握した上で、配置転換や業務の再検討を含めた対応が可能かどうかをまず検討すべきです。社内に他の業務やポジションがあり、そちらの方がより適していると考えられる場合には、本人にとっても会社にとっても有益な選択となります。

 ただし、企業規模や業務の性質によっては、業務変更が難しいこともあるでしょう。そのような場合は、無理に現職にとどまらせることが、かえって本人にも会社にも不利益をもたらすことがあります。あくまで冷静かつ実利的に判断し、必要であれば他社への転職支援や円満な退職の道筋を探ることも、経営者としての重要な役割のひとつです。

 最終的にどの道を選ぶにせよ、感情ではなく、適性・健康・業務遂行能力といった実務的な観点で判断することが、健全な組織づくりにつながっていきます。

配置転換など他の選択肢がないかを再確認する

 厳しい指導に耐えられない社員がいる場合、指導の仕方そのものを見直すだけでなく、その社員の働く環境や担当業務についても柔軟に再検討することが大切です。特に中小企業では人手不足の影響もあり、配置転換の選択肢は限られているかもしれませんが、それでも可能性を排除せず、一度は検討すべき価値があります。

 本人がストレスを感じている背景には、その業務内容や職場環境が原因となっていることも少なくありません。もし、業務の特性や求められるスキルが本人の適性に合っていないのであれば、同じ職場にとどめておくことがかえって企業にとっても本人にとっても不幸な結果を招きかねません。配置転換によって、本人のストレスが軽減され、生産性が回復するケースもあります。

 もちろん、業務内容の変更や部署の異動が現実的に難しいこともあります。しかし、だからといって初めから諦めるのではなく、就業規則や職務分掌の範囲内で可能な選択肢を洗い出してみるべきです。また、配置転換にあたっては、本人の意向や健康状態も踏まえながら、慎重に進めることが求められます。

 経営者としては、業務に対する適性のミスマッチを見過ごさず、問題の根本にアプローチする姿勢が重要です。適切な配置を行うことは、企業にとってのリスク回避にもつながり、結果として全体の職場環境の安定にも寄与するはずです。

退職も視野に入れた判断を行う

 厳しい指導に耐えられず、業務の適性もなく、配置転換などの代替策も見つからない場合、最終的には退職という選択肢を視野に入れる必要があります。これは決して突き放す対応ではなく、経営者としての責任ある判断であり、本人の将来にとってもより良い選択肢となる可能性があるものです。

 企業には、安全配慮義務がある以上、社員の心身の健康に悪影響が及ぶような職場環境を放置することはできません。特に、業務の性質上厳しい指導がどうしても必要であり、それに適応できない社員が心身のバランスを崩してしまうおそれがあるのであれば、企業としても慎重かつ現実的な判断が求められます。

 もちろん、退職というのは非常にデリケートな対応であり、感情的な衝突や後々のトラブルを避けるためにも、本人と丁寧な話し合いを行い、誠実に状況を説明する必要があります。退職勧奨を行う場合も、無理強いと受け取られないよう、慎重に言葉を選びながら、今後のキャリアについても前向きな提案を行う姿勢が大切です。

 経営者としては、「辞めさせた」と受け取られるリスクにも十分に配慮する必要があり、可能であれば、弁護士など専門家の助言を得ながら対応を進めていくのが望ましいでしょう。本人の意思を尊重しつつ、会社としても職場全体の秩序や生産性を守るための対応を取ることが、結果として双方にとってプラスになるはずです。

経営者はコンプライアンスとマネジメントの両面から判断を

 厳しい指導に対して不満を抱く社員への対応において、経営者が忘れてはならないのが「コンプライアンス」と「マネジメント」の両面からの視点です。法的に問題がないかを確認するだけでなく、組織運営の観点からもその対応が適切であるかどうかを常に意識する必要があります。

 まず、パワーハラスメントに該当するかどうかという点は、労働施策総合推進法をはじめとした法的基準に則って冷静に判断すべきです。たとえ指導の内容が業務上必要なものであっても、方法や言葉遣いが社会通念上適切といえない場合、パワハラと認定されるリスクが生じます。また、社員本人の感じ方が「就業環境が害されている」と認定される要素になる可能性もあるため、客観的な基準に基づいた判断が重要です。

 しかし、法的に問題がないと判断された場合でも、それで終わりではありません。経営者としては、その指導方法が社員のやる気や組織の生産性にどう影響を与えるのか、また他の社員にどのような影響を与えるかといったマネジメントの視点も持たなければなりません。法律を順守していても、社内の信頼関係やモチベーションを損なってしまっては、結果として会社全体のパフォーマンスが落ちてしまうおそれもあるからです。

 つまり、厳しい指導が必要な場面においても、単に「合法であるか否か」だけでなく、それが「組織として最も良い方法か」という視点で見直すことが求められます。法的リスクを回避しながらも、社員の力を最大限に引き出せる職場環境を整えることが、経営者としての大切な役割です。

社員が育つ職場環境を整えるために経営者ができること

 厳しい指導に対して過敏に反応する社員への対応は、経営者にとって非常に繊細で難しいテーマです。しかし、適切なアプローチを取ることで、問題を個人の特性として片づけるのではなく、組織全体の健全な成長へとつなげることができます。

 まず大切なのは、個々の社員が置かれている状況や性格的な特性に目を向けることです。社員一人ひとりの適性を見極めたうえで、指導の内容や方法を見直す余地がないかを検討してみましょう。それが会社としての指導スタイルを変えることなく、より効果的に伝える工夫につながる可能性もあります。

 また、指導方法が適切であり、業務上も必要不可欠であると判断される場合でも、その仕事が当該社員に本当に向いているのか、ストレス耐性を超えた負荷がかかっていないかを見直すことも必要です。必要であれば配置転換や業務の再調整といった選択肢も検討すべきです。

 そして、会社としての方針や指導基準を明確にし、全社員に周知しておくことも非常に重要です。こうした事前の対策が、指導の正当性を支え、トラブルを未然に防ぐ力になります。

 最終的には、社員が安心して働きながら成長できる職場を整えることが、経営者としての最も大切な責務の一つです。法律の視点とマネジメントの視点を両立させながら、社員の力を最大限に引き出す環境づくりを目指しましょう。必要に応じて弁護士などの専門家のアドバイスを受けることも検討してみてください。

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